天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。

ぷり

文字の大きさ
31 / 46

【30】ミューラのもの……

しおりを挟む
「あの!! どういうことですか!? 2人はどういう関係なの!」

 エドガーに腕を外されて、恥をかかされたと思ったエレナが顔を真っ赤にし大声で怒鳴った。

「あ……。孤児院にいたときの友達……幼馴染なの」

 とミューラが説明すると、エレナが一瞬考えるような顔をし、

「……。(ミューラの……幼馴染……)」

 エドガーを見る目が、さらに貪欲になった。

「……(え、なに?)」

 ミューラは、ゾクリと背筋に悪寒が走った。



 エドガーのほうは、なにも気にしてないようで、彼は彼で男爵夫妻を振り返って言った。
 
「――ところでお伺いしたいことがあるんですが」

「は、なんでしょう」 


「どうしてミューラがメイドの格好をしているんですか? 俺はこの男爵家の本当の娘だと判明したから引き取られたと聞いたのですが?」

「そ、それはその!」

 男爵は言い淀んだが、エレナはこういう場合、機転が利く娘で口を挟んだ。

「勇者さま、誤解なさってますよね!? ミューラが望んでメイドになりたいと言ったのですわ! 自分に当主は務まらないからメイドになって奉公に出たいって!」

「この男爵家の跡取り娘はミューラになるんだ、と昔、俺は孤児院の先生から聞いていたんだが……ところで君は誰だ」

「ミューラと取り違えられはしましたが、そのままこの家門の跡取り娘になりました、姉のエレナですわ」

 エドガーが自分をまっすぐ見たのでここぞとばかり、微笑むエレナ。

「ああ……君がエレナか……」

 エドガーは、何か知っている様子だった。


「はい!! 私をご存知だったのですか!? やだ……。 あの、……別に跡取りじゃなくても私は……」

 エレナは、頬を染め可愛らしさを演出し、さらに――

「血は引いておりませんが、長年愛してきて、手放すことができませんでしたの……でも、勇者さまがお望みになるならば、エレナをあなたの花嫁にしても……」

 と、男爵夫人・イルダもエレナの援護に回ろうとした。


「どうして急に縁談の話になるのですか……。それは、お断りです」

 そんな彼らに、きっぱり言い放ったエドガーは男爵に向き直った。


「ミューラがメイドだというのなら、ここにいる間、オレにミューラをつけてください」

「あ……はあ、まあいいですが……」

「お父様!!」

 恥をかいたエレナは、さらにエドガーがミューラを自分付きに、と言ったので顔が真っ赤だ。
 だが、エレナが反対したところで、この状況ではエドガーの要求が通った。


「(……嘘みたい。エドガーが屋敷に泊まるだけじゃなくて、側仕えさせてもらえるなんて。 滞在する間はきっといっぱい話ができるし、やっとバンダナを渡せる……。)」

 ミューラは、抑えきれない嬉しさに、表情を保つのが大変だった。



「じゃあ、メイドさん。部屋に案内してくれるか?」

 昔と違ってすっかり目線の位置が高くなってしまったエドガーはすこしかがんで、ミューラのひたいをツンとした。

「も、もう……。あ、いえ。こちらです、どうぞお客様」

 使用人たちが客人の荷物を持ち、それぞれの部屋へ案内するのだった。


 その様子を、エレナがどす黒い顔で見ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

出稼ぎ公女の就活事情。

黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。 けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ! そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。 他サイトで投稿しています。 完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...