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【31】暗転
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部屋につくと、エドガーはまたミューラをいきなり抱きしめた。
「会いたかった……!!」
「ちょ、ちょっと……!!」
ミューラにしてみたら、エドガーは自分のことなんて覚えていれば幸い、くらいの気持ちで今日まで生きてきた。
従って、こんな事をされては、距離が近すぎて、パニックに陥りそうだった。
「(あ、あれ? こんな距離感だったかしら!?)」
「顔を見せてくれ……ああ、ホントにミューラだ!!」
「えっと……私に会いに、来てくれたの?」
「なんか他人行儀だぞ、おまえ。俺がそれ以外でここに来る理由なんてない」
「……嬉しい」
そう言ってミューラが微笑むと、エドガーは照れて頬をかいた。
「ほら、取り敢えず、そこのソファ座れ。また涙が出てきたぞ。しばらく泣いてろ。俺も泣く」
「なにそれ……!」
エドガ-の言うことがおかしくて、ミューラは泣きながら笑ってしまった。
エドガーはミューラの涙が落ち着くまで、背中をさすっていた。
ミューラは早く話をしたくて、懸命に泣き止もうとしたが、しばし時間を有した。
◆
「……なあ、ここに来る前に俺、孤児院にも寄ってきたんだ。院長先生から手紙受け取ったよ、ありがとう。ごめんな、ずっと受け取れなくて」
「ううん。勇者……ってことは戦争に参加してたんでしょ? しょうがないよ。それに、一度会いに来てくれたでしょう? 門前払いにされたって聞いたよ。私こそ、会えなくてごめんね」
「いや、この状況じゃしょうがない。お互い様ってことにしとこう、か」
ミューラは、実に数年ぶりに心の底から微笑み、ずっと伝えたかったことを伝えた。
「うん、ありがとう。……ところでエドガー」
「なんだ」
「なんで……ずっと、ハグしてるの?」
「……いや、あまりにも久しぶりだから」
「そっか」
一瞬微妙な会話が流れ、エドガーはハグをやめて、少し赤面して咳払いした。
「?」
ミューラはキョトン、としていた。
「それでミューラ。来たばかりでなんなんだが、俺達がここを発つ時一緒に行かないか?」
「えっ」
「言ったろ、ホエル兄貴のも含めて、手紙を読んだ。こんなひどい状況で何年もいたなんて……。いや、行かないか、じゃないな。絶対に連れていく」
エドガーは、今度はミューラの手を取って握りしめた。
「返事はいらない。顔を見たら、わかる」
「うん、私も行きたい」
ミューラはコクコクと頷いて、手を握り返した。
「でも……両親がなんて言うか」
「なんとか俺が説得してみる。王都に着けば、オレは爵位を貰えるらしい。侯爵といってこの男爵家よりもかなり上位の爵位になる。お前の父親だって上位貴族の言葉なら――少なくとも耳は貸すはずだ。大丈夫、説得できるまでここには居座ってやる」
「すごい……けど、とんでもないものが、もらえるんだね」
「ああ。けどなあ……。制圧した国境付近の土地を与えるから、そこで軍隊を持てだってさ。御免被りたい話だ」
「危ない仕事付きなんだ」
ミューラは苦笑した。
「ちなみにオレは爵位は断る予定だ。俺に貴族なんて、できるわけがない。でもお前を連れ出すまでは、叙爵予定だ」
「なるほどね。でも居座るって、それ、仲間の人達は大丈夫なの?」
「あはは。まずオレがいないと王宮に着いても、報酬貰えないからな。待つさ。……というのは冗談で、ここに来るまでに説明してある。付き合ってくれるさ。みんなノンビリした連中だ」
「いい仕事仲間に出会えたんだね」
「ああ。王子を助けるために、敵だらけの中に突っ込んだオレに文句言いながら一緒に飛び込んでくれる奴らだ」
「すごいけど、そんな危ないこと、もうしないでね」
「あの件は、特別だった。俺さ、ずっと貴族とのコネが作れないか、と貴族が冒険者ギルドにたまにだす仕事受けたりとかやってたんだ。お前に会いに行く口実やコネが作れないかって。そしたら目の前で王子のピンチだ」
「エドガー……。それに仲間の皆さんも、私のために……」
ミューラはまた泣きそうになったがお礼を言った。
「ありがとう。そんな危険な事してまで、会いに来てくれて。私、こんな恩、一生返せないよ。どうしよう」
「――そんなのいいんだ」
エドガーは、その代わり結婚してくれ、と言いたかったが、まだその時ではないと言葉を飲み込んだ。
「えっと、……そうだ、これ」
エドガーは、荷物の中から、巾着袋を取り出した。
「ほら、お前の人形」
「あ……!!」
袋を開けると、あの日もう二度と会えないと思った『アン』だった。
「ありがとう……!! 嘘みたい、また会えるなんて!! ……あ、そうだ、私もバンダナとってくる!!」
ミューラは勢いよく立ち上がった。
「うおっ……。まだ持ってたのか。よく、捨てられなかったな」
「ずっと頑張って隠してたもの。じゃあ行ってくるね」
「ああ」
ミューラは、エドガーの部屋を出ると、使用人棟へ向かった。
歩きながら、巾着ごと『アン』をギュッと抱きしめた。
「……おかえり」
そして、エドガーがここから連れ出してくれると言ってくれた。
「(この屋敷から……出ていけるんだ……!)」
鳥肌が立つほど嬉しかった。
しかし――少しの間、歩みを止めたその時だった。
「――っ!?」
背後からガサ、という音が聞こえ、振り返ろうとする前に後頭部を殴られた。
ミューラの意識は真っ暗になった。
「会いたかった……!!」
「ちょ、ちょっと……!!」
ミューラにしてみたら、エドガーは自分のことなんて覚えていれば幸い、くらいの気持ちで今日まで生きてきた。
従って、こんな事をされては、距離が近すぎて、パニックに陥りそうだった。
「(あ、あれ? こんな距離感だったかしら!?)」
「顔を見せてくれ……ああ、ホントにミューラだ!!」
「えっと……私に会いに、来てくれたの?」
「なんか他人行儀だぞ、おまえ。俺がそれ以外でここに来る理由なんてない」
「……嬉しい」
そう言ってミューラが微笑むと、エドガーは照れて頬をかいた。
「ほら、取り敢えず、そこのソファ座れ。また涙が出てきたぞ。しばらく泣いてろ。俺も泣く」
「なにそれ……!」
エドガ-の言うことがおかしくて、ミューラは泣きながら笑ってしまった。
エドガーはミューラの涙が落ち着くまで、背中をさすっていた。
ミューラは早く話をしたくて、懸命に泣き止もうとしたが、しばし時間を有した。
◆
「……なあ、ここに来る前に俺、孤児院にも寄ってきたんだ。院長先生から手紙受け取ったよ、ありがとう。ごめんな、ずっと受け取れなくて」
「ううん。勇者……ってことは戦争に参加してたんでしょ? しょうがないよ。それに、一度会いに来てくれたでしょう? 門前払いにされたって聞いたよ。私こそ、会えなくてごめんね」
「いや、この状況じゃしょうがない。お互い様ってことにしとこう、か」
ミューラは、実に数年ぶりに心の底から微笑み、ずっと伝えたかったことを伝えた。
「うん、ありがとう。……ところでエドガー」
「なんだ」
「なんで……ずっと、ハグしてるの?」
「……いや、あまりにも久しぶりだから」
「そっか」
一瞬微妙な会話が流れ、エドガーはハグをやめて、少し赤面して咳払いした。
「?」
ミューラはキョトン、としていた。
「それでミューラ。来たばかりでなんなんだが、俺達がここを発つ時一緒に行かないか?」
「えっ」
「言ったろ、ホエル兄貴のも含めて、手紙を読んだ。こんなひどい状況で何年もいたなんて……。いや、行かないか、じゃないな。絶対に連れていく」
エドガーは、今度はミューラの手を取って握りしめた。
「返事はいらない。顔を見たら、わかる」
「うん、私も行きたい」
ミューラはコクコクと頷いて、手を握り返した。
「でも……両親がなんて言うか」
「なんとか俺が説得してみる。王都に着けば、オレは爵位を貰えるらしい。侯爵といってこの男爵家よりもかなり上位の爵位になる。お前の父親だって上位貴族の言葉なら――少なくとも耳は貸すはずだ。大丈夫、説得できるまでここには居座ってやる」
「すごい……けど、とんでもないものが、もらえるんだね」
「ああ。けどなあ……。制圧した国境付近の土地を与えるから、そこで軍隊を持てだってさ。御免被りたい話だ」
「危ない仕事付きなんだ」
ミューラは苦笑した。
「ちなみにオレは爵位は断る予定だ。俺に貴族なんて、できるわけがない。でもお前を連れ出すまでは、叙爵予定だ」
「なるほどね。でも居座るって、それ、仲間の人達は大丈夫なの?」
「あはは。まずオレがいないと王宮に着いても、報酬貰えないからな。待つさ。……というのは冗談で、ここに来るまでに説明してある。付き合ってくれるさ。みんなノンビリした連中だ」
「いい仕事仲間に出会えたんだね」
「ああ。王子を助けるために、敵だらけの中に突っ込んだオレに文句言いながら一緒に飛び込んでくれる奴らだ」
「すごいけど、そんな危ないこと、もうしないでね」
「あの件は、特別だった。俺さ、ずっと貴族とのコネが作れないか、と貴族が冒険者ギルドにたまにだす仕事受けたりとかやってたんだ。お前に会いに行く口実やコネが作れないかって。そしたら目の前で王子のピンチだ」
「エドガー……。それに仲間の皆さんも、私のために……」
ミューラはまた泣きそうになったがお礼を言った。
「ありがとう。そんな危険な事してまで、会いに来てくれて。私、こんな恩、一生返せないよ。どうしよう」
「――そんなのいいんだ」
エドガーは、その代わり結婚してくれ、と言いたかったが、まだその時ではないと言葉を飲み込んだ。
「えっと、……そうだ、これ」
エドガーは、荷物の中から、巾着袋を取り出した。
「ほら、お前の人形」
「あ……!!」
袋を開けると、あの日もう二度と会えないと思った『アン』だった。
「ありがとう……!! 嘘みたい、また会えるなんて!! ……あ、そうだ、私もバンダナとってくる!!」
ミューラは勢いよく立ち上がった。
「うおっ……。まだ持ってたのか。よく、捨てられなかったな」
「ずっと頑張って隠してたもの。じゃあ行ってくるね」
「ああ」
ミューラは、エドガーの部屋を出ると、使用人棟へ向かった。
歩きながら、巾着ごと『アン』をギュッと抱きしめた。
「……おかえり」
そして、エドガーがここから連れ出してくれると言ってくれた。
「(この屋敷から……出ていけるんだ……!)」
鳥肌が立つほど嬉しかった。
しかし――少しの間、歩みを止めたその時だった。
「――っ!?」
背後からガサ、という音が聞こえ、振り返ろうとする前に後頭部を殴られた。
ミューラの意識は真っ暗になった。
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