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14-2
「円よりずっと適任っぽいわね」
姉が円の様子を見ながら笑う。円はどこか気を張ってやっていたが、彼は少し楽しんでいるようにも見えた。それならその方がずっといいはずだ。辛い思いをしてまでやる仕事ではない。
姉の言葉に、そうだね、と笑った円に、姉が少し眉を下げた。
「ところで円……忙しいせいかもしれないけど少し痩せてない?」
姉がそっと円の手首を掴む。
やっぱり細くなってる、と姉が心配そうな顔をすると、想生が、そうなんです、と姉と同じように眉を下げた。
「最近、食事の量も減ってて……食べても具合悪くなってたりして」
「え? 病院は?」
「今日の午前中に無理矢理行かせました……そういえば、どこが悪かったのか聞いてないな」
想生がこちらを見やる。同じように姉もこちらを見つめていて、円は、えっと、と少したじろいだ。
確かに今日想生に強制的に半休を取らされ、総合病院へと押し込まれた。仕事の事も心配だったし、自分ではどこか悪いとか感じていなかったので、どうせ過労とかストレスとか言われて終わるだろうと思っていた。
結果から言うと、病院をはしごするほどのことだったので、行ってよかったと思っている。
「あの、ここで言うのもなんなんだけど……授かってました、そうくんと僕の赤ちゃん。男でもつわりってあるんだって」
総合病院で検査をしたら妊娠の兆候が出ていて、そのまま主治医のところへ行った。そこでエコー検査ではっきりとその存在を確かめたのだから間違いはない。
ここ三か月は妊活をお休みすることにしたので、病院にも行っていなかったから、円も『おめでとうございます』と主治医から言われた時はすごく驚いた。
おそらく最後に打った薬の効果がある時に妊娠したんだと思うが、それから一度も検診に行かなかったので、こうして体調に影響が出るまで気づかなかったのだろうということだった。
円は姉の前ということもあり、少し恥じらいながら告げたのだが、二人の反応はなくて、不安で二人を見つめる。すると次の瞬間、想生が円の腰を持ち上げるように抱き上げた。
「ありがとう、円」
抱き上げた円を見上げ、想生が笑顔を向ける。その瞳は少し潤んでいた。
「うん……大事に育てていこうね」
想生を見下ろし、円が微笑む。すると、ゆっくりと想生が円の体をおろした。
「そうだね、大事にしなきゃ……まーちゃん、とりあえず座ろう? 今、車廻してくるから待ってて。あ、今日のディナーイタリアンだけど食べられる? 和食にしようか?」
想生が円の背中に手を廻し、姉が座っている隣に座らせる。円の前にしゃがみこみソワソワと聞く想生に、円が思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ。それより、これでしばらく結婚式できなくなっちゃった」
一周年記念に結婚式を挙げようという話をしていた矢先だったので、円が一番に思ったのはそのことだった。楽しみにしていただけに少し残念な気持ちもある。
「マタニティースーツを作ってもいいけど、この子が無事に生まれてから三人で挙げるのも悪くないと思うよ。ね、お義姉さん」
想生が円の隣に座っていた姉に視線を向ける。姉もおめでた婚なので、まだ式を挙げていない。姉夫婦は式を挙げる予定はないらしいが、今度ウエディングフォトを撮るのだと聞いている。想生の問いに姉は、そうね、と頷いた。
今、自分の中に宿った新しい命が無事にこの世に生まれて、その子と三人でバージンロードを歩く――そんなことを想像すると、円も悪くないどころか、とても素敵な事のように思えた。
「うん、僕もそれもいいかなって思えてきた」
「世界一幸せな式にしよう、円」
想生が微笑み、円の手を握る。円はそれに微笑み返し、この手はもう絶対に離さないと誓いながら、ぎゅっと強く想生の手を握り返した。
happyend
姉が円の様子を見ながら笑う。円はどこか気を張ってやっていたが、彼は少し楽しんでいるようにも見えた。それならその方がずっといいはずだ。辛い思いをしてまでやる仕事ではない。
姉の言葉に、そうだね、と笑った円に、姉が少し眉を下げた。
「ところで円……忙しいせいかもしれないけど少し痩せてない?」
姉がそっと円の手首を掴む。
やっぱり細くなってる、と姉が心配そうな顔をすると、想生が、そうなんです、と姉と同じように眉を下げた。
「最近、食事の量も減ってて……食べても具合悪くなってたりして」
「え? 病院は?」
「今日の午前中に無理矢理行かせました……そういえば、どこが悪かったのか聞いてないな」
想生がこちらを見やる。同じように姉もこちらを見つめていて、円は、えっと、と少したじろいだ。
確かに今日想生に強制的に半休を取らされ、総合病院へと押し込まれた。仕事の事も心配だったし、自分ではどこか悪いとか感じていなかったので、どうせ過労とかストレスとか言われて終わるだろうと思っていた。
結果から言うと、病院をはしごするほどのことだったので、行ってよかったと思っている。
「あの、ここで言うのもなんなんだけど……授かってました、そうくんと僕の赤ちゃん。男でもつわりってあるんだって」
総合病院で検査をしたら妊娠の兆候が出ていて、そのまま主治医のところへ行った。そこでエコー検査ではっきりとその存在を確かめたのだから間違いはない。
ここ三か月は妊活をお休みすることにしたので、病院にも行っていなかったから、円も『おめでとうございます』と主治医から言われた時はすごく驚いた。
おそらく最後に打った薬の効果がある時に妊娠したんだと思うが、それから一度も検診に行かなかったので、こうして体調に影響が出るまで気づかなかったのだろうということだった。
円は姉の前ということもあり、少し恥じらいながら告げたのだが、二人の反応はなくて、不安で二人を見つめる。すると次の瞬間、想生が円の腰を持ち上げるように抱き上げた。
「ありがとう、円」
抱き上げた円を見上げ、想生が笑顔を向ける。その瞳は少し潤んでいた。
「うん……大事に育てていこうね」
想生を見下ろし、円が微笑む。すると、ゆっくりと想生が円の体をおろした。
「そうだね、大事にしなきゃ……まーちゃん、とりあえず座ろう? 今、車廻してくるから待ってて。あ、今日のディナーイタリアンだけど食べられる? 和食にしようか?」
想生が円の背中に手を廻し、姉が座っている隣に座らせる。円の前にしゃがみこみソワソワと聞く想生に、円が思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ。それより、これでしばらく結婚式できなくなっちゃった」
一周年記念に結婚式を挙げようという話をしていた矢先だったので、円が一番に思ったのはそのことだった。楽しみにしていただけに少し残念な気持ちもある。
「マタニティースーツを作ってもいいけど、この子が無事に生まれてから三人で挙げるのも悪くないと思うよ。ね、お義姉さん」
想生が円の隣に座っていた姉に視線を向ける。姉もおめでた婚なので、まだ式を挙げていない。姉夫婦は式を挙げる予定はないらしいが、今度ウエディングフォトを撮るのだと聞いている。想生の問いに姉は、そうね、と頷いた。
今、自分の中に宿った新しい命が無事にこの世に生まれて、その子と三人でバージンロードを歩く――そんなことを想像すると、円も悪くないどころか、とても素敵な事のように思えた。
「うん、僕もそれもいいかなって思えてきた」
「世界一幸せな式にしよう、円」
想生が微笑み、円の手を握る。円はそれに微笑み返し、この手はもう絶対に離さないと誓いながら、ぎゅっと強く想生の手を握り返した。
happyend
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