今日も一緒に

藤吉めぐみ

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 初めて神崎と学食以外で食事をしたせいか、神崎は帰り道まで上機嫌だった。神崎はアルコールが入っているせいもあるのか、家まで送るというのを何度も断ったのに「で、何線で帰るの?」といつもよりしつこく聞いてきた。悪気がないのはわかっているので湊は仕方なく神崎と共に家路を歩いていた。
 家を教えてしまうのはやっぱり拙い気がしたのでこの辺りで別れようと思った、その時だった。
「湊くん、僕、君に謝らなきゃいけないことがあるんだ」
 神崎がゆっくりと歩く速度を落とし、ぽつりと話し始めた。また昨日の鬼のようなメッセージのことかと思い湊は、昨日のことならもういいです、と神崎を見やった。
「別に怒ってないですし、お詫びならさっきの食事で十分です」
 勝手に他人のスマホを奪って見ることも、迷惑なくらい大量のメッセージを送ることも決していい事ではないが、それだけでいつまでも許せないと怒るほどのものではない。このあたりで神崎にもすっきりしてもらって、そろそろ一人になって家に帰りたいと思っていた。
 けれど神崎は眉を下げたまま、それはよかった、と小さく笑ってから、それだけじゃなくて、と再び言葉を繋ぐ。
「僕、湊くんのこと賭けの対象にしてたんだ――サークルの奴らと」
 神崎の言葉に湊が首を傾げる。神崎はそんな湊をちらりと見てからまた話し始めた。
「僕が湊くんを気に入ったことは、サークルの中で広まってたんだ。すぐモノにするんだろ、みたいに言われて、売り言葉に買い言葉じゃないけど……夏休みまでに湊くんを落してセックスまでたどり着いたら、仲間から一万ずつ貰える事になってて、結局賭けの形になってしまって」
「………え?」
 神崎の言葉に湊は思わず足を止めた。へえそうですか、と聞き流せるような話ではない。自分の『初めて』をゲームにされていたなんて、女の子じゃなくてもやっぱりショックだ。
 これで本当に神崎を好きになって、そこまで辿り着いていたらと思うとぞっとする。
「ごめん! 最低だって罵られても仕方ないと思う。でも今はもう、その賭けはやめたんだ――湊くんを好きになったから」
「……どういうことですか?」
 わけがわからなくて、湊は怪訝な顔で神崎を見上げる。その顔からはいつもの柔和な笑顔が消えていた。見たこともない、真剣で真っ直ぐな目が湊を映している。
「この間まではゲーム感覚で君を落そうと思っていた。けど、湊くんのスマホに他の男の番号があって、それが随分親しそうで、もしかしたらその男といい関係になってるのかもしれない……そう思ったら急に腹の底が熱くなって――嫉妬したんだ。湊くんのことを気に入ってるなんてそんな浅い感情じゃないって、その時気づいて」
 神崎は湊に近づき、その手を取った。神崎の指先は、お酒を飲んでいるにも関わらず冷たくなっていた。緊張しているのかもしれない。きっと今向けられている言葉は神崎の本当の気持ちなのだろう。
「あんなみっともないことして、ごめん。でも、気づいたら止められなかった。君を他の男に取られると思ったら怖かったんだ」
 神崎が湊の手を引く。傾いだ体を抱きしめられ、湊は身じろぐ。けれど更に強い力で抱きしめられて湊は神崎の腕の中で、神崎さん、と離してくれるように訴えた。
 やっぱり聡祐に抱き上げられた時とは、まるで違う。あの時はドキドキしながらも、いつまでもこうされていたいなんて思った。けれど今は一刻も早く離れたいと思ってしまっている。
「好きなんだ、湊くん……好きだ」
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