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フライパンの中には三人分のハンバーグが入っている。
湊に直接連絡をくれなかった水野の分まで食べてしまおうとも思ったが、やっぱり可哀そうなので一つだけ皿にとりわけて冷蔵庫へとしまい込む。明日弁当にしてやれば喜んでくれるだろう。
「ねえ、それ、もしかして『井波くん』の分?」
冷蔵庫の扉を閉めた途端、すぐ後ろから声が響いて、湊は驚いて振り返った。とても近くに神崎が立っている。
「神崎さん……テーブルの前で待っててもらえたら……」
クッション使っていいので、と湊が笑顔を向け、ちらりと部屋を見やる。聡祐と一緒にご飯を食べるようになってから、フローリングの床に座るのは体が痛くなるだろうと思って買いそろえたものだ。湊にとってはペアのものを買ったような気分で嬉しかったのを覚えている。今日は神崎と水野に貸す予定だった。
「あのさ、湊くん。ご飯食べたいなんて口実だって、分かってるよね?」
「え……」
神崎がさらにこちらに近づく。距離を取ろうと後ろへ下がるけれど、すぐにシンクに腰がぶつかってしまう。
「湊くんの部屋に来たかった。できれば二人きりになりたかった。どうしてか、くらいは察しがつくだろう?」
神崎の目がこちらをじっと見つめる。眼鏡の奥の目がすっと眇められ、湊は目も逸らせないまま唇を噛み締めた。
湊だって子どもじゃない。どうしてかなんて、想像はつく。けれど、だからといって許すわけではない。
「……水野が来ないのは、神崎さんのせい、ですか?」
「サークルが忙しいなら、またの機会にしようかと提案しただけだよ」
水野のことだ、買い物にも付き合えないのに食べるだけなんて湊に悪いと思ってすぐに、そうします、と言っただろう。あとは神崎が、湊に伝えておくよとでも言えば、水野が湊に連絡する可能性も低くなる。
頭のいい人だと思っていたけれど、ここまで狡猾とは思っていなかった。
「だったら、おれにもそう言ってくれたら……」
「言ったらこうして二人きりにはなってないだろう?」
神崎の体がさらに近づく。怖くて嫌で、湊は思い切り腕を伸ばして神崎の胸を押し返そうとした。けれど、その腕はあっさりと神崎に捕まり、逆に引き寄せられてしまう。
「道端で抱きしめてから、ずっと抱き心地を想像してた。細いけど骨ばってなくて、まだ完全に大人の体じゃない、それを抱いたらきっと気持ちいいだろうなって思ってた」
腰に腕を廻され、着ていたシャツの裾から神崎の手が入って、湊はびくりと肩を震わせた。その手が怖い。
「嫌、です……やめてください」
背中を滑る手が気持ち悪かった。聡祐に抱き寄せられた時はこのままでいたいとさえ思ったのに、神崎の手はどうしても受け入れられなかった。
胃の上部から何かせり上がるものを感じて、湊は身をよじった。けれど神崎の腕は湊を解放する様子はなく、むしろ、さらに強く抱きしめられてしまう。
「大丈夫、怖いことはしない。僕に身を任せていればいいから」
「そ、じゃなくて……やっ……!」
今まで湊の背中をまさぐっていた腕がふいに腰に廻される。そのまま体を持ち上げられ両足が浮いてしまい、湊は驚くが、暴れる隙も与えられないまま、神崎に運ばれる形になってしまった。目の前に、いつも自分が使っているベッドが見えて、湊は神崎に組み敷かれることを察して足をばたつかせた。
このまま神崎に抱かれるなんて、絶対に嫌だ。
湊に直接連絡をくれなかった水野の分まで食べてしまおうとも思ったが、やっぱり可哀そうなので一つだけ皿にとりわけて冷蔵庫へとしまい込む。明日弁当にしてやれば喜んでくれるだろう。
「ねえ、それ、もしかして『井波くん』の分?」
冷蔵庫の扉を閉めた途端、すぐ後ろから声が響いて、湊は驚いて振り返った。とても近くに神崎が立っている。
「神崎さん……テーブルの前で待っててもらえたら……」
クッション使っていいので、と湊が笑顔を向け、ちらりと部屋を見やる。聡祐と一緒にご飯を食べるようになってから、フローリングの床に座るのは体が痛くなるだろうと思って買いそろえたものだ。湊にとってはペアのものを買ったような気分で嬉しかったのを覚えている。今日は神崎と水野に貸す予定だった。
「あのさ、湊くん。ご飯食べたいなんて口実だって、分かってるよね?」
「え……」
神崎がさらにこちらに近づく。距離を取ろうと後ろへ下がるけれど、すぐにシンクに腰がぶつかってしまう。
「湊くんの部屋に来たかった。できれば二人きりになりたかった。どうしてか、くらいは察しがつくだろう?」
神崎の目がこちらをじっと見つめる。眼鏡の奥の目がすっと眇められ、湊は目も逸らせないまま唇を噛み締めた。
湊だって子どもじゃない。どうしてかなんて、想像はつく。けれど、だからといって許すわけではない。
「……水野が来ないのは、神崎さんのせい、ですか?」
「サークルが忙しいなら、またの機会にしようかと提案しただけだよ」
水野のことだ、買い物にも付き合えないのに食べるだけなんて湊に悪いと思ってすぐに、そうします、と言っただろう。あとは神崎が、湊に伝えておくよとでも言えば、水野が湊に連絡する可能性も低くなる。
頭のいい人だと思っていたけれど、ここまで狡猾とは思っていなかった。
「だったら、おれにもそう言ってくれたら……」
「言ったらこうして二人きりにはなってないだろう?」
神崎の体がさらに近づく。怖くて嫌で、湊は思い切り腕を伸ばして神崎の胸を押し返そうとした。けれど、その腕はあっさりと神崎に捕まり、逆に引き寄せられてしまう。
「道端で抱きしめてから、ずっと抱き心地を想像してた。細いけど骨ばってなくて、まだ完全に大人の体じゃない、それを抱いたらきっと気持ちいいだろうなって思ってた」
腰に腕を廻され、着ていたシャツの裾から神崎の手が入って、湊はびくりと肩を震わせた。その手が怖い。
「嫌、です……やめてください」
背中を滑る手が気持ち悪かった。聡祐に抱き寄せられた時はこのままでいたいとさえ思ったのに、神崎の手はどうしても受け入れられなかった。
胃の上部から何かせり上がるものを感じて、湊は身をよじった。けれど神崎の腕は湊を解放する様子はなく、むしろ、さらに強く抱きしめられてしまう。
「大丈夫、怖いことはしない。僕に身を任せていればいいから」
「そ、じゃなくて……やっ……!」
今まで湊の背中をまさぐっていた腕がふいに腰に廻される。そのまま体を持ち上げられ両足が浮いてしまい、湊は驚くが、暴れる隙も与えられないまま、神崎に運ばれる形になってしまった。目の前に、いつも自分が使っているベッドが見えて、湊は神崎に組み敷かれることを察して足をばたつかせた。
このまま神崎に抱かれるなんて、絶対に嫌だ。
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