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「……他人の家に断りもなく入って……出ていってくれないか」
神崎が湊の上から立ち上がり、聡祐と対峙する。その間に湊は慌てて体を起こした。
「俺が不法侵入なら、そっちは暴行未遂だ。このアパート、壁薄いから静かにしてたら隣の話し声くらい聞こえるんだよ」
「暴行未遂だなんて……不同意だという証拠なんかないし、湊くんだって初めてで恥じらって『嫌だ』と言っただけだ。悪いが帰ってもらおうか……聞きたいなら隣の部屋でどうぞ?」
眇めた目を向ける聡祐に、神崎が言葉を返して鼻で笑う。
聡祐が更に不機嫌に表情を歪ませた。神崎がこんなに冷静に返してくるとは思っていなかったのかもしれない。それでも聡祐は神崎から湊を救おうと次の言葉を探し対峙したままでいてくれている。湊は自分も頑張らなきゃ、と大きく息を吸った。
「ち、違う!」
ベッドの隅に膝を抱えて二人を見ていた湊が叫んだ。もっとも声が震えてしまっていて叫ぶというほどの声量ではなかったが、今の湊の精一杯だった。
「おれは、嫌だから嫌だって言った! 恥ずかしいからじゃない」
聡祐以外とは考えられないから嫌だった。それが叶わなくても、今はまだ誰かのものになりたくない。
「だったらどうして僕を遠ざけなかった? メッセに毎日返事をして、会えば笑いかけて、今日だって拒むことなく家に入れて……期待するだろう、そんなの!」
神崎がこちらを振り返る。
いつも優しい顔ばかり見てきたから、こんな怒の色を前面にした表情は初めてだった。湊がそれに驚き、反射的に、すみません、と小さく謝る。
「野島は悪くない。あんた先輩なんだよね? 後輩が先輩からのメッセ無視できると思う? 仏頂面のまま話せると思う? 家に来たあんたを追い返さなかったのは、野島があんたを信じたからなんじゃないのかよ?」
聡祐の言葉を聞いていた神崎は、目の前の湊をしばらく見つめてから大きくため息を吐いた。
「……追い詰めるつもりはなかった。今日は帰る」
神崎はそれだけ言うと、聡祐の肩を押してそのまま部屋を出ていった。その後ろ姿が見えなくなって、湊はようやく安堵の息を吐いた。
「もう、あいつ何なの? 今日は帰るって、一生来るなっての。ね、ホントに無事? 何もされてない?」
神崎が出ていって開いたままになっていた玄関のドアからそんな声と共に顔を出した人物に、湊は吐いていた息を飲み込んでしまった。
「麻衣子……お前、出てくるなって言っただろ?」
そこにいたのは聡祐の彼女だった。お邪魔するね、と部屋に入った麻衣子は、あのねえ、と聡祐を眇めた目で見やる。
「ひとに記録係させておいて、無関係扱いはないんじゃない? それに、絶対勘違いされてるよ、大好きな湊くんに」
ねえ、と麻衣子がこちらを見やる。
何のことか分からなくて、湊は助けを求めるように聡祐に視線を向けた。
「……野島、俺と麻衣子が付き合ってるって思ってるだろ? 絶対ないから」
簡単に言われ湊が、え、と首を傾げる。
「ちゃんと話すから、俺の部屋、来てよ」
聡祐が湊に手を差し出す。湊はそれを取ろうとして、あ、と叫んだ。
「井波くん、手首、腫れてない?」
神崎が湊の上から立ち上がり、聡祐と対峙する。その間に湊は慌てて体を起こした。
「俺が不法侵入なら、そっちは暴行未遂だ。このアパート、壁薄いから静かにしてたら隣の話し声くらい聞こえるんだよ」
「暴行未遂だなんて……不同意だという証拠なんかないし、湊くんだって初めてで恥じらって『嫌だ』と言っただけだ。悪いが帰ってもらおうか……聞きたいなら隣の部屋でどうぞ?」
眇めた目を向ける聡祐に、神崎が言葉を返して鼻で笑う。
聡祐が更に不機嫌に表情を歪ませた。神崎がこんなに冷静に返してくるとは思っていなかったのかもしれない。それでも聡祐は神崎から湊を救おうと次の言葉を探し対峙したままでいてくれている。湊は自分も頑張らなきゃ、と大きく息を吸った。
「ち、違う!」
ベッドの隅に膝を抱えて二人を見ていた湊が叫んだ。もっとも声が震えてしまっていて叫ぶというほどの声量ではなかったが、今の湊の精一杯だった。
「おれは、嫌だから嫌だって言った! 恥ずかしいからじゃない」
聡祐以外とは考えられないから嫌だった。それが叶わなくても、今はまだ誰かのものになりたくない。
「だったらどうして僕を遠ざけなかった? メッセに毎日返事をして、会えば笑いかけて、今日だって拒むことなく家に入れて……期待するだろう、そんなの!」
神崎がこちらを振り返る。
いつも優しい顔ばかり見てきたから、こんな怒の色を前面にした表情は初めてだった。湊がそれに驚き、反射的に、すみません、と小さく謝る。
「野島は悪くない。あんた先輩なんだよね? 後輩が先輩からのメッセ無視できると思う? 仏頂面のまま話せると思う? 家に来たあんたを追い返さなかったのは、野島があんたを信じたからなんじゃないのかよ?」
聡祐の言葉を聞いていた神崎は、目の前の湊をしばらく見つめてから大きくため息を吐いた。
「……追い詰めるつもりはなかった。今日は帰る」
神崎はそれだけ言うと、聡祐の肩を押してそのまま部屋を出ていった。その後ろ姿が見えなくなって、湊はようやく安堵の息を吐いた。
「もう、あいつ何なの? 今日は帰るって、一生来るなっての。ね、ホントに無事? 何もされてない?」
神崎が出ていって開いたままになっていた玄関のドアからそんな声と共に顔を出した人物に、湊は吐いていた息を飲み込んでしまった。
「麻衣子……お前、出てくるなって言っただろ?」
そこにいたのは聡祐の彼女だった。お邪魔するね、と部屋に入った麻衣子は、あのねえ、と聡祐を眇めた目で見やる。
「ひとに記録係させておいて、無関係扱いはないんじゃない? それに、絶対勘違いされてるよ、大好きな湊くんに」
ねえ、と麻衣子がこちらを見やる。
何のことか分からなくて、湊は助けを求めるように聡祐に視線を向けた。
「……野島、俺と麻衣子が付き合ってるって思ってるだろ? 絶対ないから」
簡単に言われ湊が、え、と首を傾げる。
「ちゃんと話すから、俺の部屋、来てよ」
聡祐が湊に手を差し出す。湊はそれを取ろうとして、あ、と叫んだ。
「井波くん、手首、腫れてない?」
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