9 / 13
3-1
しおりを挟む
「心都のご飯は全部美味しいな、悠隆」
翌日の昼、午前中で講義が終わった心都は、悠隆と共に自宅へと戻った。ちょうどいいので三人分の昼食を作り、食事を始めるとアイゼルは嬉しそうに悠隆へと視線を向けた。
「心都はなんでも作れるしな。一人暮らしの二十歳男子なんてカップ麺とコンビニ弁当で生きてるのが普通なのに」
「何でもは無理だよ、簡単な物だけ」
狭いテーブルに並べたのは豚の生姜焼きとご飯と味噌汁だけだ。そう珍しいものでもないし、少し自炊をする人なら簡単にできるものだ。これでいいと思えばコンビニの弁当よりはるかにコスパがいい。
そんな決して客に出すようなものではないご飯でもアイゼルが不器用に箸を使って白いご飯を頬張っている姿はなんだか子どものようで微笑ましくて嬉しかった。
「心都は謙遜が多いな。これだけ作れるのは誇っていいことだ。城の食事にも負けていない」
「城のご飯って、その国の一流っていう料理人が作るんでしょ? 比べるのもおこがましいよ」
「そんなことない。なあ、悠隆」
心都が大袈裟だなと笑うからか、アイゼルは悠隆に意見を求めた。悠隆が食事の手を止め、何? と聞き返す。
「城のご飯と心都のご飯、同じくらいだって」
アイゼルが悠隆にぎこちない言葉で伝えると、悠隆はそれに頷いた。
「ああ、そうだな。城の食事もバランスも見た目も良くてさすがだなと思ったし、味付けがなんとなく馴染みがあって食べやすかったんだよな。だから、心都のご飯もアイゼルの舌に合うのかもしれない」
心都のご飯は美味いよ、と悠隆が微笑む。悠隆は前からよく心都が作るご飯を食べているので口に合うのだろうなと思っていたが、アイゼルにも合うのだなと思うとほっとする。
「悠隆も城に居たんだ。どんなところだった?」
「どんなって……ランドの城みたいな感じだったよ。中も豪華で、働いてる人も多くて本物の執事とメイドもいたよ」
「まあ、アイゼルみたいな騎士も居るくらいだから、いるだろうな」
今は頬に米粒を付けて口いっぱいにご飯を頬張っているただの残念イケメンだが、騎士という肩書があるのだからちゃんとそういう仕事をしていたのだろう。
「アイゼル、実はエリートなんだよ。護衛騎士って王族の数しかいないんだから」
「そっか……アイゼルは第五王子の護衛だったよな」
きっと王位継承を考えると要人としての順位は下がるのだろうが、王子であることには変わらないのだから、その人に付く騎士は悠隆の言うようにエリートに違いないのだろう。真面目そうだから、色々努力をしたのだと簡単に想像できる。
「たまたま、王子と年齢が近かったから護衛に指名されただけだ。出世する人は二十歳くらいでひとつの隊をまとめている」
「アイゼルっていくつなの?」
「二十一になる。心都は王子と同じだな」
ひとつ年上ということらしい。しっかりした体や物怖じしない態度から、もう少し年上かと思っていたが、同年代と言われたらなんとなくアイゼルを少し近くに感じる。
「でもすごいよね、城で王子の警護とか。そんな人にこんなご飯でいいのかな……」
「昔は、パンと肉だけの食事で、俺たち騎士もその欠片くらいしか与えられてなかったと聞いた。でも十数年前から城の食事は改善されて、今城で出るものは少し心都のご飯に似ている」
「そうなんだ。だったらよかったよ」
「元第二王子の奥方が城の改善をしてくれたらしい。俺も一度だけお会いしたが、とてもきれいで優しい方だ。その方が使用人の食事や待遇を変えて下さって、保健室も作ってくださったから、怪我も怖くないんだ」
すぐに治療してもらえるから、とアイゼルが笑顔を向ける。その言葉を聞いて、心都が首を傾げた。
「保健室?」
心都にはとても馴染みのある言葉だが、まさかそれがアイゼルの口から出るとは思わなくて聞き返してしまう。
「軽い怪我や少しの体調不良なら手当てしてくれる場所だ。切り傷くらいで魔法使いに頼るのは気が引けるが、手当てならメイドや使用人がしてくれるから行きやすい」
確かにこちらで言う保健室も、学校にある一時的な処置をする部屋だ。大学生になってからは使わなくなったが、高校までは世話になった記憶もある。
「目的まで一緒なんだ。びっくりだな」
「奥様……世凪様というんだが、世凪様は『泉に呼ばれた者』だと聞いたので、もしかしたらこの場所と近いところでお生まれになったのかもしれない」
「せな、さん……」
「漢字で『世凪』と書くらしい。おれは会ったことないんだけど、多分日本人だと思う」
心都が混乱し始めたと思ったのだろう。悠隆がテーブルに指先で文字を書きながら言葉を挟む。心都はそれを聞いて、なるほどね、と頷いた。
「これはおれの予想だけど……おれが向こうに呼ばれたのも、そういう関係なのかなって」
悠隆の言葉を信じるのなら、勝手に異世界になんか行くはずもないのだから、異世界側が『呼んだ』ということになるのだろう。何を基準にしてこんな突然人攫いみたいなことをしているのかは分らないが、その『世凪』という人が異世界にとっていい影響を及ぼしているのなら、次も同じ地域から呼ぼうという気持ちは分らないでもない。ただそれは人の感情であって、世界が人を攫う意思までは分りかねる。
「……帰ってこれて良かったな、悠隆」
「ホントそれな。でも……」
悠隆はほっと息を吐いてから、隣に視線を向けた。そこには食事を終え、満足そうに自身の腹を擦るアイゼルがいた。
翌日の昼、午前中で講義が終わった心都は、悠隆と共に自宅へと戻った。ちょうどいいので三人分の昼食を作り、食事を始めるとアイゼルは嬉しそうに悠隆へと視線を向けた。
「心都はなんでも作れるしな。一人暮らしの二十歳男子なんてカップ麺とコンビニ弁当で生きてるのが普通なのに」
「何でもは無理だよ、簡単な物だけ」
狭いテーブルに並べたのは豚の生姜焼きとご飯と味噌汁だけだ。そう珍しいものでもないし、少し自炊をする人なら簡単にできるものだ。これでいいと思えばコンビニの弁当よりはるかにコスパがいい。
そんな決して客に出すようなものではないご飯でもアイゼルが不器用に箸を使って白いご飯を頬張っている姿はなんだか子どものようで微笑ましくて嬉しかった。
「心都は謙遜が多いな。これだけ作れるのは誇っていいことだ。城の食事にも負けていない」
「城のご飯って、その国の一流っていう料理人が作るんでしょ? 比べるのもおこがましいよ」
「そんなことない。なあ、悠隆」
心都が大袈裟だなと笑うからか、アイゼルは悠隆に意見を求めた。悠隆が食事の手を止め、何? と聞き返す。
「城のご飯と心都のご飯、同じくらいだって」
アイゼルが悠隆にぎこちない言葉で伝えると、悠隆はそれに頷いた。
「ああ、そうだな。城の食事もバランスも見た目も良くてさすがだなと思ったし、味付けがなんとなく馴染みがあって食べやすかったんだよな。だから、心都のご飯もアイゼルの舌に合うのかもしれない」
心都のご飯は美味いよ、と悠隆が微笑む。悠隆は前からよく心都が作るご飯を食べているので口に合うのだろうなと思っていたが、アイゼルにも合うのだなと思うとほっとする。
「悠隆も城に居たんだ。どんなところだった?」
「どんなって……ランドの城みたいな感じだったよ。中も豪華で、働いてる人も多くて本物の執事とメイドもいたよ」
「まあ、アイゼルみたいな騎士も居るくらいだから、いるだろうな」
今は頬に米粒を付けて口いっぱいにご飯を頬張っているただの残念イケメンだが、騎士という肩書があるのだからちゃんとそういう仕事をしていたのだろう。
「アイゼル、実はエリートなんだよ。護衛騎士って王族の数しかいないんだから」
「そっか……アイゼルは第五王子の護衛だったよな」
きっと王位継承を考えると要人としての順位は下がるのだろうが、王子であることには変わらないのだから、その人に付く騎士は悠隆の言うようにエリートに違いないのだろう。真面目そうだから、色々努力をしたのだと簡単に想像できる。
「たまたま、王子と年齢が近かったから護衛に指名されただけだ。出世する人は二十歳くらいでひとつの隊をまとめている」
「アイゼルっていくつなの?」
「二十一になる。心都は王子と同じだな」
ひとつ年上ということらしい。しっかりした体や物怖じしない態度から、もう少し年上かと思っていたが、同年代と言われたらなんとなくアイゼルを少し近くに感じる。
「でもすごいよね、城で王子の警護とか。そんな人にこんなご飯でいいのかな……」
「昔は、パンと肉だけの食事で、俺たち騎士もその欠片くらいしか与えられてなかったと聞いた。でも十数年前から城の食事は改善されて、今城で出るものは少し心都のご飯に似ている」
「そうなんだ。だったらよかったよ」
「元第二王子の奥方が城の改善をしてくれたらしい。俺も一度だけお会いしたが、とてもきれいで優しい方だ。その方が使用人の食事や待遇を変えて下さって、保健室も作ってくださったから、怪我も怖くないんだ」
すぐに治療してもらえるから、とアイゼルが笑顔を向ける。その言葉を聞いて、心都が首を傾げた。
「保健室?」
心都にはとても馴染みのある言葉だが、まさかそれがアイゼルの口から出るとは思わなくて聞き返してしまう。
「軽い怪我や少しの体調不良なら手当てしてくれる場所だ。切り傷くらいで魔法使いに頼るのは気が引けるが、手当てならメイドや使用人がしてくれるから行きやすい」
確かにこちらで言う保健室も、学校にある一時的な処置をする部屋だ。大学生になってからは使わなくなったが、高校までは世話になった記憶もある。
「目的まで一緒なんだ。びっくりだな」
「奥様……世凪様というんだが、世凪様は『泉に呼ばれた者』だと聞いたので、もしかしたらこの場所と近いところでお生まれになったのかもしれない」
「せな、さん……」
「漢字で『世凪』と書くらしい。おれは会ったことないんだけど、多分日本人だと思う」
心都が混乱し始めたと思ったのだろう。悠隆がテーブルに指先で文字を書きながら言葉を挟む。心都はそれを聞いて、なるほどね、と頷いた。
「これはおれの予想だけど……おれが向こうに呼ばれたのも、そういう関係なのかなって」
悠隆の言葉を信じるのなら、勝手に異世界になんか行くはずもないのだから、異世界側が『呼んだ』ということになるのだろう。何を基準にしてこんな突然人攫いみたいなことをしているのかは分らないが、その『世凪』という人が異世界にとっていい影響を及ぼしているのなら、次も同じ地域から呼ぼうという気持ちは分らないでもない。ただそれは人の感情であって、世界が人を攫う意思までは分りかねる。
「……帰ってこれて良かったな、悠隆」
「ホントそれな。でも……」
悠隆はほっと息を吐いてから、隣に視線を向けた。そこには食事を終え、満足そうに自身の腹を擦るアイゼルがいた。
12
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました
陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。
それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。
文通相手は、年上のセラ。
手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。
ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。
シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。
ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。
小説家になろうにも掲載中です。
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる