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しおりを挟む「で? お前とヒロ、どういう関係?」
累が櫂の部屋に来てから三十分もしないうちに櫂が帰って来た。そして一番に聞いたのがこれだった。
「……別に。職場のライバル、だけど……」
小さなソファに座り、クッションを抱きしめたまま膝を抱えて座る累がぽつりと答えると、櫂はため息を吐きながら、その横に腰掛けた。
「ヒロ、累の耳を見ても動揺してなかったな……前にも見られてる?」
そう聞かれ、ごまかそうと思ったが、相手が櫂なのでいつかバレると思い、累は素直に頷いた。
「前にも、一度だけ……」
「……累は、昔から耳の制御が得意だったよな? だからこそお前をキャストにしたんだけど……どうした?」
櫂の言葉に累は以前耳を見られた時のことを思い出し、抱えていたクッションに顔を突っ伏した。
「あの人が悪い。オレに急に抱きついてきたりして。脅かされたら……オレだってずっと気を張るなんて出来ないし」
自分たちにとって、うさぎの耳と尻尾が出ている状態が自然体だ。眠っている時は耳も尻尾も出たまま、という人は少なくない。累も一人の時は自然体で居ることが多い。さほどではないとはいえ、全く疲れないわけではないのだ。
累の言葉に櫂は、まあな、と頷いてから言葉を繋いだ。
「最近のヒロは少し累に構い過ぎって、マネージャーからも報告されてるしな。とりあえず、耳については『ルイトの誕生日イベントの余興の準備』ってフォローはしておいたが」
ちょっと苦しいけどな、と言う櫂の言葉に、累が顔を上げる。
「大分苦しいけど、ありがとう、櫂」
累が言うと櫂が頷く。それから、少し真剣な顔をした。
「ヒロの変化はよく分からないが……累は大丈夫か? 耳まで出るくらいの何をされたかは分からないが、疲れるだろ」
「うん、今のところ、帰って寝れば平気。最近は朝起きて、明のところで朝食ご馳走になるの日課だから、睡眠と食生活は安定してるし」
午前一時に仕事を終え、自宅に帰って四時間ほど寝たら、明を訪ねに行く。そこで朝ご飯を食べて、夕方まではまた寝たり、用事を済ませたりと好きに過ごしたら仕事に行く――それが累の一日だ。
「そんなことしてたのか――明は元気か?」
櫂は明を溺愛している。それ故に、優の番にしてしまった事実に、まだ上手く折り合いを付けていないようだった。だからこそ、明の元を訪ねることなど絶対にせず、実家に戻って来た時にだけ会って、さんざん甘やかしている。
「うん、元気だよ。相変わらず優サンと仲良さそうだし、家事スキルも上がってた」
「そうか……でも、累。累は明みたいにならないで欲しい。累にはきっと、可愛らしい女の子が似合うよ。店でも女の子と話してる累は楽しそうだし、累自身女の子の方が好きだろう?」
櫂がそう言って累を見つめる。やっぱり櫂は、優という存在に明をあげてしまったことが嫌なのではなくて、明が人間の男と番ってしまったということが嫌なのだろう。
確かにこれまで男として生きてきて、自分はずっと子どもは相手に産んでもらうものだと思っていたのに、出会った番が男だからという理由で、こっちが子どもを産める体に変化するなんてやっぱり怖い。そんな辛い思いをさせたくないというのが櫂の本音なんだと累は思った。
「まあね……でも、オレはまだ先かな。仕事も楽しいし」
「じゃあ、ヒロとは何もないんだな?」
「ない、よ……オレだってヒロさんとなんて考えられない」
櫂の言葉に答えると、櫂はそれに少し安心したように頷いた。
「お前もヒロも、お互いに『香りがする』なんて言ってたから少し心配してたんだ……俺は二人とも、特に香りを感じてなかったから」
その言葉に累が驚く。けれどそれを隠すように累は再びクッションに顔を埋めた。
宙也からはいつも同じ匂いがしていて、距離があっても分かるくらいだ。香水か何かしらないが付け過ぎなんだと思っていた。けれどそれを櫂は感じていないという。
「……そんなはず、ない……」
あれが宙也自身の香りだなんて認めたくない。しかもそれを感じていたなんて、もっと認めない。
「累? どうかしたか?」
「なんでもない。今日、ここ泊っていい? 櫂」
累が顔を上げ、聞く。櫂はそれに頷いた。
「ゆっくりしていけ。ヒロのことは、俺も考えておくから」
櫂の言葉に、今度は累が頷いた。
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