18 / 33
6-1
しおりを挟む「俺が香織に会った時? まあ……あ、この子と家族になる気がする、くらいは思ったけど。香りもしたしな」
お互い名乗らなくても獣人だって分かったし、と櫂が答えた。
その日の夕方、着替えの終わった累は、事務所で仕事をしていた櫂に、香織と出会った時の話を聞いていた。初めはどうしてそんなことを、と怪訝そうにしていたが、明には話したらしいね、と言うと渋々話してくれた。
「で? どうしてそんなこと、突然聞く? 番候補にでも会ったか?」
櫂がキーボードから視線を上げ、傍の椅子に座っていた累を見やる。累は素直にそれに頷いた。
「候補ってほどではないんだけど……昨日、客に『番を欲しがってる香りがする』って言われて……でも、こっちは全然香りなんかしなくてさ」
そういう出会いもあるのかと思って、と累が言うと、櫂は、そうか、と難しい顔をした。
「確かに俺たちは希少種だから、出会えたら番うのがいいんだと思うが……累はちゃんと好きな人と一緒になって欲しい。とはいえ、明の相手みたいなのは嫌だけどな」
櫂はそう言ってため息を吐く。どうしても優のことは認めたくないらしい。累はそんな櫂に、でも、と口を開いた。
「優サンはいい人だよ。ちゃんと、明を大事にしてくれてる」
「本当かよ?」
「ホント。今さ、明のヤツ、早く子どもが欲しくてちょっと暴走してるみたいなんだけど、優サンは、それを宥めてるみたいだよ。明の体に負担がかかることだから、ちゃんと準備をしてからにしたいみたい。そういう優しい人だよ」
「……はしたない明は考えものだが……まあ、その話が本当なら、累から病院の話とかしてやったらいい」
櫂の言葉に累は少し笑ってから、いいよ、と頷いた。ちょっとだけ、優への気持ちが変わったのだろう。それでも直接関わるのはまだ避けたいようだ。
「それよりも、累の方だ。その子を好きになるのが一番いいんだろうが……一生のことだから、ちゃんと考えたらいい」
櫂がそう言った、その時だった。ふわりと鼻孔をくすぐる香りがして、累はその香りに眉根を寄せた。
「あ、ヒロさん来る。オレ、先にホール出てマネージャー手伝って来る」
「累? どうしてヒロが来るって分かる?」
「……むしろ、なんで櫂は分かんないの?」
そう言って事務所を出ると、すぐそこに宙也が立っていた。宙也は累の顔を見つめ、口を開く。
「ルイト、誰か好きになるのか?」
「……盗み聞きですか? ていうか、ヒロさん、香水きついですよ」
さすがに付け過ぎじゃないですか、と事務所を出て、歩き出す。そんな累に宙也が付いてきた。
「それを言うならルイトの方だ。ホント、くらくらする時もあって……今だって……」
宙也はそう言うと、累の腕を掴んだ。その手のひらが熱くて、驚いて宙也を見上げる。すると宙也は、こっち、と小さく呟いてから従業員用のトイレへと累を引っ張り込んだ。個室に閉じ込め、そのまま累を抱きしめる。
「ヒロ、さん……ちょっ、離せよ」
「断る。さすがに三回目は騙されてやれない」
宙也はそう言うと、累の背中に廻していた手をそのまま累の頭へ持っていった。頭の、その先に触れられ、累はびくりと体を震わせた。
「……耳!」
今は驚いたりはしていない。ただ、宙也に会っただけなのに、どうして耳が出てしまっているのか、累にも分からなかった。
19
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結】エルフの喫茶店は、今日も客が一人しか来ない
チョロケロ
BL
退屈だったエルフのフォルンは暇つぶしに喫茶店を開くことにした。暇つぶしなので全てが適当だったのだが、なぜか一人だけ常連客がついた。こんな店によく金払えるなと不思議に思っていたのだが、どうやらお目当てはコーヒーではなくフォルンだったらしい。おもしれーと思ったフォルンは、常連客を揶揄いまくるのであった。
【ヒョロメガネ×エルフ】
ムーンライトノベルズさんでも投稿しています。
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】
桜以和果
BL
【特殊能力・変身・人外・忠犬的苦労性攻 × 振り回し系我儘王子受】【溺愛・無自覚一目惚れ】
架空のファンタジー世界を舞台にした、わりとゆっくり関係が深まっていくタイプのラブストーリーです。そういうのがお好きな方に。ハッピーエンド&ラブH確約。
「きみよ奇跡の意味を知れ」(本編完結)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/887890860/321426272
と同世界観ですが、これ単体でも読めます。
☆ ☆ ☆
成望国が有する異形「騏驥」は、人であり馬でありそして兵器である。
そんな騏驥に乗ることを許されているのは、素質を持った選ばれし騎士だけだ。
ある日、護衛をまいて街歩きを楽しんでいた王子・シィンは、一人の騏驥と出会う。
彼の名はダンジァ。
身分を隠して彼に話しかけたシィンだったが、ダンジァの聡明さに興味を持つ。
親しくなる二人。
何事にも「一番」にこだわり、それゆえ「一番の騏驥」に乗りたいと望むシィンは、ダンジァに問う。
「お前たち騏驥の間で『一番』は誰だ?」
しかしその問いにダンジァは言葉を濁す。
それまでとは違う様子に、シィンはますます彼が気になり……。
☆直接的な行為及びそれなりの意図を持った性的シーンについては、タイトル横に*印がついています☆
【「ムーンライトノベルズ」にも同作を投稿しています】
竜人息子の溺愛!
神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ぼくが風になるまえに――
まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」
学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。
――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。
精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。
「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」
異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。
切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。
ダレン×フロル
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる