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しおりを挟む「じゃあ、マネージャー、お先に失礼します」
まだ新しい匂いがする店内で、ノートパソコンを開いていた累に、新しいキャストが明るく挨拶をする。
「うん、お疲れ様。明日からよろしくね」
そんなキャストを見送って、累は座っていた椅子から立ち上がった。
「……二号店もいい感じだな」
二号店、とは言うが、この店のつくりはコの字型のカウンターが大半を占めている。カウンターの中には酒を並べた大きな棚が納められていて、何人かが余裕で立つことが出来るスペースがある。バーのような空間は、やっぱりバーなのだ。
「累、また花届いた。どこに置く?」
そう言って裏口から店内に大きな花のアレンジを抱えてきたのは、宙也だった。
「ありがとう、宙也さん。明日オープンの時に外に出すから入り口のところに置いて」
累の言葉に、了解、と言って言う通りに花を置くと、宙也は累の傍に戻ってくる。
「二号店がボーイズバーとはね。オーナーも初めからこうするつもりだったんなら言ってくれたらいいのに」
櫂が二号店と言っていたのはボーイズバーで、累は明日開店のこの店でマネージャーをする。今まで日の出まで仮眠していたキャストをこちらで使うことでスタッフも稼げるし、時間も有効に使えるからというのが櫂の考え方だった。
お陰でキャストの働き方にも少し自由が生まれる予定だった。二号店は歩いて来れる場所にあるので、ホストクラブで時間まで働き、もう少しだけこちらで働いてから退勤というケースや、バーに数時間出勤してから日の出営業に向かうケースも選べるようになる。もちろん、バーだけの勤務もできる。
いいことづくめではあるが、出勤が複雑になった分、こちらでもマネジメントが大変になる。だからこそ、櫂は自分に頼んだのだろうと思っている。
「オレを使うことに迷ってたんじゃないかな? オレが抜けたらやっぱり売り上げ影響するし」
「俺も付いていっちゃうし?」
宙也が累を後ろから抱きしめる。累はくすくすと笑いながら、そういうことです、と答えた。
「でも……付いてきたからにはキャストとしても店長としても頑張ってくださいね、宙也さん」
「うん、累と一緒ならなんでもやるよ」
宙也が累にキスをする。それを受け止め、累は微笑んだ。
そんな中、んんっ、と咳払いのような声が聞こえ、累は宙也の向こうに視線を向けた。そこには櫂が立っている。
「鍵開きっぱなしで、なんてことしてるんだ、お前たち」
「え、鍵閉めてなかったの? 宙也さん」
「まあ……花持ってたし?」
宙也の言葉に累が赤くなってため息を吐く。それから櫂に、ごめん、と謝る。
「まあ、いいけど……店閉めたから、スタッフで累の卒業と二号店の開店を祝おうと呼びに来た。行けるか?」
櫂がそう言って笑う。累はそれに頷いた。
「え、オーナー。俺の卒業と店長就任は?」
宙也が慌ててそう聞く。けれど、宙也はまだ卒業を認めて貰っていなかった。これからは兼任ということになるらしい。
「新しいキャストを引き抜いたから、そいつが累と同等に稼ぐようになるまでは、二足の草鞋で頑張れ」
櫂が笑顔で言うと、宙也がとても残念そうな顔をする。
「ずっと一緒がいい」
子どもみたいなことを言う宙也に、累は笑う。
「帰ったらずっと一緒だよな」
先日のストーカーまがいのことを受け、累は宙也のマンションへと居を移していた。今は同棲状態ということになる。
「ところでお前たち、番の儀式はするのか?」
実家でやってもいいが、と櫂が言う。累はそれに首を振った。
「それはそのうち二人でやる。それに、今はまだいいんだ。まだ、恋人でいたい」
気持ちが結びついている以上、自分の体が変化するのも秒読み状態だろう。ならば余計に今の関係を楽しみたいと思っていた。
「俺たちはゆっくりでいいんだ、オーナー……いや、お義兄さん?」
宙也が言うと、櫂の目が眇められた。
「ヒロに兄と呼ばれる筋合いは、まだない」
櫂はそう言うと、不機嫌にきびすを返した。戸締りしてさっさと来いよ、と言うとそのまま店を出ていく。その様子に累と宙也は堪えきれずに笑い出した。
「まだ、だって。よかったな、累」
「うん。よかった」
「でも、俺、『そのうち』は近い方がいいな」
「うん……一緒に頑張って、店軌道に乗せよう。そしたら……」
累が話している間に宙也がその体を抱きしめる。
「結婚しよう、累」
「だから結婚じゃ……まあ、いいや。頑張ってよ、旦那様」
「任せとけよ、可愛い俺の奥さん」
笑いあってキスをする。
このまま毎日、笑いあって愛し合ってキスをしていたいなと思いながら、累は宙也の胸の中で幸せを目いっぱい感じていた。
END
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最後までありがとうございます!
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