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【後日談】いちばん幸せな誕生日1
しおりを挟む「時計とかカバンは貰うだろうし……服……もなあ……」
スマホのカレンダーの画面にため息を吐きかけた累は、そのまま目の前のダイニングテーブルに突っ伏した。
今、累は宙也に贈る誕生日プレゼントについて、頭を悩ませていた。きっと宙也のことだから、累がくれるものなら何でもいい、なんて言うだろうし、実際に何を贈っても喜んでくれるだろう。けれど、それでは累の気持ちが済まないのだ。
ナンバーワンホストである宙也は、当然誕生日当日はイベントが開かれるし、それを目指してたくさんの客も来る。常連の客はもちろんプレゼントも持参するはずだ。リビングに置かれたシェルフの中には、有名ブランドの腕時計が十数本入っているし、アクセサリーケースの中は、どれも高級ブランドのものだ。累がそんなものに手を出せるわけもないので、張り合いたくはない。そういったものを避けるとなると、今度は全く何も思いつかないのだ。けれど誕生日は数日後に迫っていて、その間、累が一人になる休日は明日だけだ。
「……どうしよ……」
累がそう呟いた、その時だった。玄関ドアの開く音と、ただいま、という声が部屋に響く。
累は体を起こし、椅子から立ち上がった。
「おかえり、宙也さん」
「累、起きてたんだ。寝ててよかったのに。大丈夫か?」
今日は日の出営業までシフトに入っていた宙也が帰宅するのは午前十時過ぎだ。累はボーイズバーが閉まる午前五時には仕事が終わるので、いつもなら宙也の朝食を用意して、そのまま寝てしまう。まだマネージャー候補がいないので、休憩を挟みながらそれでも十時間店にいる今は、以前よりも体力的に少し辛い。けれどやりがいもあるし、こうして宙也が傍にいるのでなんとかやっている状況だった。
だから宙也が心配してこう言うのも無理はない。
「うん、大丈夫。たまには宙也さんと一緒にベッドに入ろうかな、と思って」
「そっか……じゃあ入ろう、すぐ入ろう!」
宙也は累の言葉を聞くと、すぐに累の体を抱え上げ、寝室へと移動した。
元々ダブルベッドだったのに、累と住むからとわざわざキングサイズに買い替えた、その広いベッドに累を下ろすと、すぐに布団を掛け、自分も隣に横になる。
「いや、宙也さん……ご飯とか風呂とか……」
「累が眠ったらな」
そう言って宙也は累にキスをする。それが嬉しくて累は宙也の胸に頬を寄せた。宙也がそんな累を抱き寄せる。
「最近、累が素直に甘えてくれて嬉しいんだけど……仕事、きつい?」
宙也の言葉に累は驚いて顔を上げた。甘えているなんて自覚はなかった。
「いや、そんなことは……」
そう答えながら、確かに最近の自分は宙也と一緒に居ることが多いかもしれないと思った。以前なら一緒に暮しているのだから多少すれ違ってもいいだろうと思っていて、自分のペースで生活していたが、最近はその生活に少し寂しさを感じるようになった。
その変化には覚えがある。番を求めてただ傍に居たくて寂しいと感じる、それを医者から聞いたのは、明の体が変化し始めたその時だった。心配していたことが自分にも起き始めているのだろう。
「そうかなあ? 今まで六時間くらいしか働いてなかったのに、今は休憩挟むとはいえ十時間だし、前なら寝てた時間まで仕事って、結構大変だと思うんだよ」
累の心配をよそに、宙也はそんなことを言う。自分の労働環境が変わったことが理由だと思っているようだ。確かにそれもあるかもしれない。むしろ、そんなふうに働いているからこそ、本能が早く番え、子孫を残せ、と訴えているのだろう。
「うん……でも、これは違う気がするんです、オレ。もしかしたら……」
累が言うと、宙也が表情を嬉しそうに変え、起き上がった。
「もしかして……累が、小っちゃい累を産む準備を始めてくれた? とか……」
「まだ分かりませんけど……」
「じゃあ、寝てる場合じゃないだろ。病院行かなきゃ。あ、そう言えば番の儀式? なんだかそんなのもあるんだろ?」
宙也が興奮気味にそう捲し立てる。それをきょとんと見ていた累がくすくすと笑い出す。
「宙也さん、慌てすぎ。大丈夫ですから、今は寝ましょう。病院は明日行きます。儀式もちゃんと考えますから」
累が言うと、そうか、と少し不満げに宙也が布団に戻る。そんな宙也の胸に体を預けると、累の中に安堵感が広がった。これは多分、認めるしかないのだろう。
「……だったら……」
ふと、累はあることを思い立ち、ぽつりと呟く。それに宙也が、累? と聞き返したが、累は既に睡魔に飲まれ、意識はゆっくりと沈み込んでいた。
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