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【後日談】いちばん幸せな誕生日2
しおりを挟む数日後の深夜、累は久々にホストクラブに顔を出していた。ボーイズバーのマネージャーになってからは初めてだ。
「え、うそ、ルイト?」
店に入ると、客の一人がそう短く叫ぶ。累はそれに手を振ってから、店の奥へと進んだ。今日は店の壁には『happybirthday hiro』の文字があり、フロアの中央には誰かが入れてくれただろう、シャンパンタワーのテーブルがまだ残っている。もうすぐ店の営業が終わる時間だから、この後は宙也が挨拶をして終わるのだろう。
いつもよりも煌びやかな王子のようなスーツを着た宙也を横目に、累はフロアの隅へと歩み寄った。そこには全体を見ている櫂が立っている。近づくと、櫂は嬉しそうに微笑んだ。
「盛況だったみたいで何よりだよ」
「去年の二倍は稼いでるな。この後、ヒロは帰すが、客はバーに流す」
「まだ稼ぐ気?」
「当たり前だろ。祭りの日の客は金払いがいいんだ」
稼げることが嬉しくて堪らないのだろう。にやにやが止まらない櫂に笑っていると、フロアが騒めき始めた。宙也の挨拶が終わり、閉店時間が来たのだろう。
「累」
そう呼ばれ、累が顔を上げると、両腕いっぱいに花束を抱えた宙也がこちらに近づく。
「お疲れ様、宙也さん」
「お迎えありがとう。今日はこのまま帰れるけど、累の予定は?」
わかっているくせにわざとらしく聞く宙也に累が笑う。
「オレは家に帰ってケーキでも食べようかなと思ってるけど、宙也さんもそうしますか?」
「いいね、酒とつまみもあったら最高」
宙也の言葉に、用意してますよ、と答えると宙也は嬉しそうに笑って、帰ろうか、と花束を累に預けた。慌ててそれを抱えると、そんな累を宙也が抱え上げる。
「ひ、宙也、さん……!」
「ヒロ、お前、相当飲んでるだろ、危ない」
慌てる累と櫂に、大丈夫、と答えた宙也はそのまま歩き出した。客のはけたフロアを抜け、店を出る。店の前に止まっていたタクシーに累を下ろし、自分も乗り込んだ。
「……宙也さん、かなり飲みました?」
「まあ、いつもよりは、少し。でも、平気だよ。累との時間は持てる」
「オレもちゃんと祝いたいんで、お願いしますよ」
累はそう言うと、宙也の肩に寄り添った。宙也はそんな累の頭を撫でてから、任せとけ、と笑った。
自宅へ戻ると、宙也はいつもより上機嫌なくらいで、言っていた通り、一緒に食卓を囲むことが出来た。シャンパンを開け、ケーキを食べたところで、宙也は累を見つめ、口を開いた。
「こうやって料理を用意して祝ってくれて、ありがとう、累。累と祝えたことが最高のプレゼントだよ」
やはりしたたかに酔っているのだろう。累はプレゼントくれないの? なんて言わずにこんな殊勝な事を言っているのが何よりの証拠だ。
「これはオレも食べたくて用意したものだから……宙也さんには、別にプレゼントがあるよ」
累がそう言って立ち上がると、宙也が嬉しそうな顔をする。累はそんな宙也を見てから、リビングのソファに置いていた自分のカバンから、小さな箱を取り出す。
「これ、開けてみて」
宙也はそれを受け取ると、言葉通り包装を解いて箱のふたを開けた。中を見た瞬間、宙也の表情が固まる。
「……これ……」
「うん……オレと番になってくれますか?」
箱には銀のリングが並んで入っている。もっと喜んでくれるかと思ったけれど、宙也からは笑顔が消えてしまって、累は急に不安になる。
「やっぱり、嫌に……」
「違う! そうじゃなくて、こういうのは俺からでしょ。俺が累にカッコよくリングをあげて、累が頷くのがよかった」
むっと表情を拗ねたものに変えた宙也がそう言う。累はそんなことかとほっとした半面、宙也がそんなことをしたかったのかと思い、なんだかちょっと嬉しかった。
「じゃあ、オレの誕生日にもリングください。これは番の証だから、宙也さんは、オレと結婚するためのリングを」
累が言うと、宙也はそれに頷いた。それから累の腰を抱き寄せる。
「いい嫁だな、累は」
「どうですかね。案外、宙也さんなんか尻に敷いちゃうかもしれませんよ」
「いいね。敷かれたい」
宙也はそう言って笑うと、そっと累の左手を取った。箱の中からリングをひとつ取り、累の薬指にはめると、そこに小さくキスを落とす。
「宙也さんも」
累が言うと宙也が左手を出す。累はその薬指にリングをはめた。
「それと……オレの体、ちゃんと問題なく変わってきてるそうです。この先一週間くらい体調崩れるみたいなので、櫂に休みを貰ってきました。それが終わったら……ちゃんと番になりませんか?」
「……俺もなるべく傍にいる。無理はさせないし、いつでも呼んでいい。俺は累のものだから」
宙也は立ち上がると、累を抱きしめた。それから累の顔を見つめ、優しいキスをする。
「でも、今日はまだ、ちょっとだけ無茶させてもいい?」
「……誕生日ですからね」
累が答えると宙也は、やった、と嬉しそうに累を抱え上げた。
「今年ほど幸せな誕生日はなかった。累のおかげだ」
「だったら……来年もその先も、ずっと幸せな誕生日になりますね」
ずっと一緒にいるんだから、と累が答えると、宙也は、そうだな、と少し瞳を潤ませ、もう一度キスを落とした。
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