強気なうさぎはNO.1ホスト様には懐かない

藤吉めぐみ

文字の大きさ
33 / 33

【後日談】いちばん幸せな誕生日2

しおりを挟む

 数日後の深夜、累は久々にホストクラブに顔を出していた。ボーイズバーのマネージャーになってからは初めてだ。
「え、うそ、ルイト?」
 店に入ると、客の一人がそう短く叫ぶ。累はそれに手を振ってから、店の奥へと進んだ。今日は店の壁には『happybirthday hiro』の文字があり、フロアの中央には誰かが入れてくれただろう、シャンパンタワーのテーブルがまだ残っている。もうすぐ店の営業が終わる時間だから、この後は宙也が挨拶をして終わるのだろう。
 いつもよりも煌びやかな王子のようなスーツを着た宙也を横目に、累はフロアの隅へと歩み寄った。そこには全体を見ている櫂が立っている。近づくと、櫂は嬉しそうに微笑んだ。
「盛況だったみたいで何よりだよ」
「去年の二倍は稼いでるな。この後、ヒロは帰すが、客はバーに流す」
「まだ稼ぐ気?」
「当たり前だろ。祭りの日の客は金払いがいいんだ」
  稼げることが嬉しくて堪らないのだろう。にやにやが止まらない櫂に笑っていると、フロアが騒めき始めた。宙也の挨拶が終わり、閉店時間が来たのだろう。
「累」
 そう呼ばれ、累が顔を上げると、両腕いっぱいに花束を抱えた宙也がこちらに近づく。
「お疲れ様、宙也さん」
「お迎えありがとう。今日はこのまま帰れるけど、累の予定は?」
 わかっているくせにわざとらしく聞く宙也に累が笑う。
「オレは家に帰ってケーキでも食べようかなと思ってるけど、宙也さんもそうしますか?」
「いいね、酒とつまみもあったら最高」
 宙也の言葉に、用意してますよ、と答えると宙也は嬉しそうに笑って、帰ろうか、と花束を累に預けた。慌ててそれを抱えると、そんな累を宙也が抱え上げる。
「ひ、宙也、さん……!」
「ヒロ、お前、相当飲んでるだろ、危ない」
 慌てる累と櫂に、大丈夫、と答えた宙也はそのまま歩き出した。客のはけたフロアを抜け、店を出る。店の前に止まっていたタクシーに累を下ろし、自分も乗り込んだ。
「……宙也さん、かなり飲みました?」
「まあ、いつもよりは、少し。でも、平気だよ。累との時間は持てる」
「オレもちゃんと祝いたいんで、お願いしますよ」
 累はそう言うと、宙也の肩に寄り添った。宙也はそんな累の頭を撫でてから、任せとけ、と笑った。


 自宅へ戻ると、宙也はいつもより上機嫌なくらいで、言っていた通り、一緒に食卓を囲むことが出来た。シャンパンを開け、ケーキを食べたところで、宙也は累を見つめ、口を開いた。
「こうやって料理を用意して祝ってくれて、ありがとう、累。累と祝えたことが最高のプレゼントだよ」
 やはりしたたかに酔っているのだろう。累はプレゼントくれないの? なんて言わずにこんな殊勝な事を言っているのが何よりの証拠だ。
「これはオレも食べたくて用意したものだから……宙也さんには、別にプレゼントがあるよ」
 累がそう言って立ち上がると、宙也が嬉しそうな顔をする。累はそんな宙也を見てから、リビングのソファに置いていた自分のカバンから、小さな箱を取り出す。
「これ、開けてみて」
 宙也はそれを受け取ると、言葉通り包装を解いて箱のふたを開けた。中を見た瞬間、宙也の表情が固まる。
「……これ……」
「うん……オレと番になってくれますか?」
 箱には銀のリングが並んで入っている。もっと喜んでくれるかと思ったけれど、宙也からは笑顔が消えてしまって、累は急に不安になる。
「やっぱり、嫌に……」
「違う! そうじゃなくて、こういうのは俺からでしょ。俺が累にカッコよくリングをあげて、累が頷くのがよかった」
 むっと表情を拗ねたものに変えた宙也がそう言う。累はそんなことかとほっとした半面、宙也がそんなことをしたかったのかと思い、なんだかちょっと嬉しかった。
「じゃあ、オレの誕生日にもリングください。これは番の証だから、宙也さんは、オレと結婚するためのリングを」
 累が言うと、宙也はそれに頷いた。それから累の腰を抱き寄せる。
「いい嫁だな、累は」
「どうですかね。案外、宙也さんなんか尻に敷いちゃうかもしれませんよ」
「いいね。敷かれたい」
 宙也はそう言って笑うと、そっと累の左手を取った。箱の中からリングをひとつ取り、累の薬指にはめると、そこに小さくキスを落とす。
「宙也さんも」
 累が言うと宙也が左手を出す。累はその薬指にリングをはめた。
「それと……オレの体、ちゃんと問題なく変わってきてるそうです。この先一週間くらい体調崩れるみたいなので、櫂に休みを貰ってきました。それが終わったら……ちゃんと番になりませんか?」
「……俺もなるべく傍にいる。無理はさせないし、いつでも呼んでいい。俺は累のものだから」
 宙也は立ち上がると、累を抱きしめた。それから累の顔を見つめ、優しいキスをする。
「でも、今日はまだ、ちょっとだけ無茶させてもいい?」
「……誕生日ですからね」
 累が答えると宙也は、やった、と嬉しそうに累を抱え上げた。
「今年ほど幸せな誕生日はなかった。累のおかげだ」
「だったら……来年もその先も、ずっと幸せな誕生日になりますね」
 ずっと一緒にいるんだから、と累が答えると、宙也は、そうだな、と少し瞳を潤ませ、もう一度キスを落とした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】エルフの喫茶店は、今日も客が一人しか来ない

チョロケロ
BL
退屈だったエルフのフォルンは暇つぶしに喫茶店を開くことにした。暇つぶしなので全てが適当だったのだが、なぜか一人だけ常連客がついた。こんな店によく金払えるなと不思議に思っていたのだが、どうやらお目当てはコーヒーではなくフォルンだったらしい。おもしれーと思ったフォルンは、常連客を揶揄いまくるのであった。 【ヒョロメガネ×エルフ】 ムーンライトノベルズさんでも投稿しています。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

まるで生まれる前から決まっていたかのように【本編完結・12/21番外完結】

桜以和果
BL
【特殊能力・変身・人外・忠犬的苦労性攻 × 振り回し系我儘王子受】【溺愛・無自覚一目惚れ】 架空のファンタジー世界を舞台にした、わりとゆっくり関係が深まっていくタイプのラブストーリーです。そういうのがお好きな方に。ハッピーエンド&ラブH確約。 「きみよ奇跡の意味を知れ」(本編完結) https://www.alphapolis.co.jp/novel/887890860/321426272 と同世界観ですが、これ単体でも読めます。 ☆ ☆ ☆  成望国が有する異形「騏驥」は、人であり馬でありそして兵器である。  そんな騏驥に乗ることを許されているのは、素質を持った選ばれし騎士だけだ。  ある日、護衛をまいて街歩きを楽しんでいた王子・シィンは、一人の騏驥と出会う。  彼の名はダンジァ。  身分を隠して彼に話しかけたシィンだったが、ダンジァの聡明さに興味を持つ。  親しくなる二人。  何事にも「一番」にこだわり、それゆえ「一番の騏驥」に乗りたいと望むシィンは、ダンジァに問う。 「お前たち騏驥の間で『一番』は誰だ?」  しかしその問いにダンジァは言葉を濁す。  それまでとは違う様子に、シィンはますます彼が気になり……。  ☆直接的な行為及びそれなりの意図を持った性的シーンについては、タイトル横に*印がついています☆ 【「ムーンライトノベルズ」にも同作を投稿しています】

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...