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顔が赤くなってないかな、と心配しながら、売り場を案内してからバックヤードへと向かう。そこではちょうど搬入が始まっていた。服というものは軽そうに見えて思ったより重くて、それが詰まった段ボール箱を運ぶのはそこそこ重労働だ。
「あ、俺運びます。碧くん、これ持っててもらえますか?」
知温が上着を脱いで碧に手渡す。碧はそれを慌てて受け取ってから、シャツの袖をまくる知温の背中を見つめていた。広い背中、ひじより下の腕には均等に筋肉がついていて、段ボール箱を持った時に筋が見えるのがたまらなかった。見た目が好みの人が近くにいるというのは、なかなか幸せなことなのかもしれない、と碧は小さくため息を吐く。
「碧くーん、君も手伝って」
君の仕事ハンガーじゃないでしょ、と店長の声が飛び、碧は慌てて知温の上着を近くの棚に置くと、搬入された箱を開け始めた。
「おー、ボーダー柄。これ見ると初夏だなあって思う」
「分かりみー。いつか彼氏とペアコーデしたいな」
箱を開け、中から出てきた長袖のTシャツを品出し用のコンテナに入れ替えながら、優菜が微笑む。
「優菜ちゃん彼氏いたっけ?」
「まだイマジナリー彼氏。夏までに三次元彼氏作る予定なの」
「イマジナリー、ね」
たった一つ年下なだけなのに、優菜の言うことは時々碧の枠をはるかに越えてくる。この時もどう応えればいいのか分からなくてただ苦く笑った。
「ボーダーに合わせるなら、わたし絶対カーキのスカートがいいんだよね。新作にあるかな? 店長、明日のディスプレイ、わたしやってもいいですかー?」
箱を空にする前に優菜が別の箱を開けながら、声を飛ばす。離れたところでメンズの新作の箱を開けている店長が、好きにしなー、と答えた。
「やった、ボトムの箱開けよう」
「ちょっ、優菜ちゃん、まずこっち……」
「碧くん、よろー」
次の箱を開け始めた優菜は、もう碧に背中を向けている。頭の中は既に次のディスプレイのことしかないのだろう。碧はため息をついて箱を空にすると、いっぱいになったコンテナを台車に乗せ、梶田くん、と知温を呼んだ。店長と一緒に箱を開けていた知温が振り返る。
「品出しするけど、来る?」
「はい、行きます」
すみません抜けます、と店長に謝ってから知温がこちらに近づく。それから、押します、と碧の代わりに台車を押して売り場へと出た。
顔が火照っていることは、触らなくても分かった。知温と碧の体格差なら荷物を運びたくなるのかもしれないが、どちらも男で、普通ならこんな気は使われない。こちらが先輩だからだろうと結論づけることで、碧は乱れた鼓動を元に戻したが、正直、これは碧の中の『理想』だ。
心の中の碧は、たまらーんっと高いところから大声で叫んでいるところだ。
「梶田くん、モテるでしょ」
商品棚に服を並べていきながら、碧は少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。知温は、そんなこと、と首を振って否定したが、きっとそれは謙遜だ。
「俺、付き合っても長続きしなくて。フラれてばっかりなんで」
「そんなふうに見えないけどね」
「碧くんが俺のことモテそうって思うってことは、結構俺のこと好み?」
「は、え、ちょっ、何言ってるのかな? 一般論です、一般論」
碧は手元のシャツをさくさくと畳んで棚に並べていく。知温はそれを真似しながら、碧くん畳むの早いですね、と碧の手元をじっと見ていた。図星をつかれて、更に早くなったくらい、碧は服を畳むのが得意だった。
「あ、ごめん。ゆっくりやるね」
毎日やってるし特技なんだよ、と碧がシャツを自身の胸に広げる。知温も同じようにして、手順を追っていった。
「碧くん、手先が器用なんですね。俺も結構器用なんですよ」
知温が、ほら出来た、と畳んだシャツを碧に差し出す。碧はそれを受け取りながら、また頬が赤くなっているのではと少し俯いてしまった。
突然『器用なんですよ』なんてイケメンが言ったら、なんだか夜のことを想像してしまって恥ずかしい。いや、自分のそんな思考回路が恥ずかしいのか。
いますぐ滝行にでも行って煩悩を叩きのめしてきたほうがいいかもしれない、なんて考えていると、ちょっと聞いてー、と店長の声が店内に響いた。
「開店前に伝えておくね。明日、閉店後梶田くんの歓迎会します! 詳しくはグループメッセージに入れておくから」
それを聞いて碧は知温を見上げた。また店長のその場のノリに巻き込まれているのでは、と思ったが、何の反応もしないところを見ると、本人に了承済みらしい。その顔がふと、店長から自分の方へと向いた。
「碧くんは明日来てくれますか?」
「あ、うん……どうせ、オーラスだし」
碧が頷くと、よかった、と知温が微笑む。
その笑顔が眩しくて、思わずサングラスをかけたくなる碧だった。
「あ、俺運びます。碧くん、これ持っててもらえますか?」
知温が上着を脱いで碧に手渡す。碧はそれを慌てて受け取ってから、シャツの袖をまくる知温の背中を見つめていた。広い背中、ひじより下の腕には均等に筋肉がついていて、段ボール箱を持った時に筋が見えるのがたまらなかった。見た目が好みの人が近くにいるというのは、なかなか幸せなことなのかもしれない、と碧は小さくため息を吐く。
「碧くーん、君も手伝って」
君の仕事ハンガーじゃないでしょ、と店長の声が飛び、碧は慌てて知温の上着を近くの棚に置くと、搬入された箱を開け始めた。
「おー、ボーダー柄。これ見ると初夏だなあって思う」
「分かりみー。いつか彼氏とペアコーデしたいな」
箱を開け、中から出てきた長袖のTシャツを品出し用のコンテナに入れ替えながら、優菜が微笑む。
「優菜ちゃん彼氏いたっけ?」
「まだイマジナリー彼氏。夏までに三次元彼氏作る予定なの」
「イマジナリー、ね」
たった一つ年下なだけなのに、優菜の言うことは時々碧の枠をはるかに越えてくる。この時もどう応えればいいのか分からなくてただ苦く笑った。
「ボーダーに合わせるなら、わたし絶対カーキのスカートがいいんだよね。新作にあるかな? 店長、明日のディスプレイ、わたしやってもいいですかー?」
箱を空にする前に優菜が別の箱を開けながら、声を飛ばす。離れたところでメンズの新作の箱を開けている店長が、好きにしなー、と答えた。
「やった、ボトムの箱開けよう」
「ちょっ、優菜ちゃん、まずこっち……」
「碧くん、よろー」
次の箱を開け始めた優菜は、もう碧に背中を向けている。頭の中は既に次のディスプレイのことしかないのだろう。碧はため息をついて箱を空にすると、いっぱいになったコンテナを台車に乗せ、梶田くん、と知温を呼んだ。店長と一緒に箱を開けていた知温が振り返る。
「品出しするけど、来る?」
「はい、行きます」
すみません抜けます、と店長に謝ってから知温がこちらに近づく。それから、押します、と碧の代わりに台車を押して売り場へと出た。
顔が火照っていることは、触らなくても分かった。知温と碧の体格差なら荷物を運びたくなるのかもしれないが、どちらも男で、普通ならこんな気は使われない。こちらが先輩だからだろうと結論づけることで、碧は乱れた鼓動を元に戻したが、正直、これは碧の中の『理想』だ。
心の中の碧は、たまらーんっと高いところから大声で叫んでいるところだ。
「梶田くん、モテるでしょ」
商品棚に服を並べていきながら、碧は少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。知温は、そんなこと、と首を振って否定したが、きっとそれは謙遜だ。
「俺、付き合っても長続きしなくて。フラれてばっかりなんで」
「そんなふうに見えないけどね」
「碧くんが俺のことモテそうって思うってことは、結構俺のこと好み?」
「は、え、ちょっ、何言ってるのかな? 一般論です、一般論」
碧は手元のシャツをさくさくと畳んで棚に並べていく。知温はそれを真似しながら、碧くん畳むの早いですね、と碧の手元をじっと見ていた。図星をつかれて、更に早くなったくらい、碧は服を畳むのが得意だった。
「あ、ごめん。ゆっくりやるね」
毎日やってるし特技なんだよ、と碧がシャツを自身の胸に広げる。知温も同じようにして、手順を追っていった。
「碧くん、手先が器用なんですね。俺も結構器用なんですよ」
知温が、ほら出来た、と畳んだシャツを碧に差し出す。碧はそれを受け取りながら、また頬が赤くなっているのではと少し俯いてしまった。
突然『器用なんですよ』なんてイケメンが言ったら、なんだか夜のことを想像してしまって恥ずかしい。いや、自分のそんな思考回路が恥ずかしいのか。
いますぐ滝行にでも行って煩悩を叩きのめしてきたほうがいいかもしれない、なんて考えていると、ちょっと聞いてー、と店長の声が店内に響いた。
「開店前に伝えておくね。明日、閉店後梶田くんの歓迎会します! 詳しくはグループメッセージに入れておくから」
それを聞いて碧は知温を見上げた。また店長のその場のノリに巻き込まれているのでは、と思ったが、何の反応もしないところを見ると、本人に了承済みらしい。その顔がふと、店長から自分の方へと向いた。
「碧くんは明日来てくれますか?」
「あ、うん……どうせ、オーラスだし」
碧が頷くと、よかった、と知温が微笑む。
その笑顔が眩しくて、思わずサングラスをかけたくなる碧だった。
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