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確かにいつもよりも、少し飲みすぎてはいた。いつもなら自分が介抱役になることが多いのだが、知温の存在に緊張したのか、優菜の知温ゲットの圧が強くて気まずかったせいか、とにかく杯を重ねてしまい、気づくと碧はベッドの上に転がっていた。
「……ここ……」
ぼんやりと見える天井は家とは違う。どこだろうと思いながら一度目を閉じ、また開くと、今度は天井の手前に人の顔があった。
「碧くん、起きた?」
その声に碧が頷く。よくその顔を見ると知温だった。
どうやら自分は酔って寝てしまって知温に介抱されてしまったようだ。それはすぐに察することができた。
「ごめん、梶田くん……迷惑かけたみたい」
「いえ、迷惑なんて。むしろ、俺が率先して介抱を引き受けたので」
きっと自分が一番後輩だから、とか、そんな気持ちから名乗り出てくれたのだろう。益々申し訳なくなって、ごめん、とため息を吐きながら碧が体を起こした。
「具合悪くないですか? 吐き気とか……」
「うん、ない。おれ、飲みすぎるとすぐ寝ちゃって……」
碧が苦く笑いながら、知温の背景に視線を向けた。小さなテーブルと二人掛けのソファが見える。間接照明の感じから、どこかホテルの部屋だろうということは分かった。
碧も自分の住所を教えていないし、出会って二日の先輩を自宅に置くのも嫌だったから、きっとここへ運んでくれたのだろう。
「うん、ぐっすりでしたね。だからここまで連れ込めたのでラッキーでした」
その言葉に驚いてもう一度よく部屋を見渡す。部屋の真ん中に置かれたベッドは大きくて、枕元にはコンドームとローションの袋がまるでお茶菓子のように丁寧に並べられていた。いわゆるラブホテルなのだと、それだけで理解できる。
「ここ……え……あ、普通のホテル、空いてなかった、のかな?」
「いいえ。最初からここが目的地でした。俺、碧くんに一目惚れだったんです」
ぎし、と音を立てて知温がベッドへと上がる。無意識に碧は体を引きずるように距離を取る。そんな碧の手を知温が握った。びくりと体を震わせた碧は、眉を下げたまま知温を見やった。
「おれ……もう平気だから、出ようか」
「碧くん、俺、こんな急激に誰かを好きになったことないんだよね。恋ってホントに落ちるんだって思って……碧くんも、俺のこと嫌いじゃないと思うんだ。ね、これって運命だと思わない?」
ぎゅっと強く手を握られ、碧が視線を揺らめかせる。
その言葉は少し使い古されていてちょっと嘘っぽい気がしないでもないけれど、好みの男からこんなふうに言われたことがない碧は、少しときめいてしまっていた。碧はこれまでちゃんとした恋愛をしたことがない。全く付き合ったことがないというわけではないが、手をつなぐ程度のプラトニックなものか、キスをして『何か違う』とフラれたこと、そのくらいの経験しかないのだ。
だから少し、今のシチュエーションに浮かれてしまっていた。
知温の手を振りほどけない。
「ホントに、一番最初……朝礼の時、優菜ちゃんと話してる碧くんを見た時から惹かれてたんだ」
知温が碧に近づく。今度は距離を取れなかった。そのまま手を引かれ、抱きしめられる。誰かの胸にこんなふうに収まったのは初めてで、心臓が痛いくらい強く鳴っていた。
「ホント、に……おれが好き?」
「好き。碧くんと付き合えたら、毎日幸せだと思うし、碧くんを幸せにするよ」
耳から甘すぎる言葉が流れ込んでくる。でもそれはレディーキラーカクテルのように碧を簡単に酔わせてしまった。
「……いい、よ……」
碧は震える手を伸ばし、知温の背中に廻した。ヤバ、と小さく聞こえたと思うと、すぐに碧の体は再びベッドに沈められていた。
「大事にする」
その時微笑んだ顔は、本当にカッコよくて碧の心臓なんか簡単に射貫いてしまった。もうきっとそうして空いたハートの穴は、知温にしか埋められなくて、でもずっと満たされたままなのだろうーーこの時の碧はそう思っていた。
「……ここ……」
ぼんやりと見える天井は家とは違う。どこだろうと思いながら一度目を閉じ、また開くと、今度は天井の手前に人の顔があった。
「碧くん、起きた?」
その声に碧が頷く。よくその顔を見ると知温だった。
どうやら自分は酔って寝てしまって知温に介抱されてしまったようだ。それはすぐに察することができた。
「ごめん、梶田くん……迷惑かけたみたい」
「いえ、迷惑なんて。むしろ、俺が率先して介抱を引き受けたので」
きっと自分が一番後輩だから、とか、そんな気持ちから名乗り出てくれたのだろう。益々申し訳なくなって、ごめん、とため息を吐きながら碧が体を起こした。
「具合悪くないですか? 吐き気とか……」
「うん、ない。おれ、飲みすぎるとすぐ寝ちゃって……」
碧が苦く笑いながら、知温の背景に視線を向けた。小さなテーブルと二人掛けのソファが見える。間接照明の感じから、どこかホテルの部屋だろうということは分かった。
碧も自分の住所を教えていないし、出会って二日の先輩を自宅に置くのも嫌だったから、きっとここへ運んでくれたのだろう。
「うん、ぐっすりでしたね。だからここまで連れ込めたのでラッキーでした」
その言葉に驚いてもう一度よく部屋を見渡す。部屋の真ん中に置かれたベッドは大きくて、枕元にはコンドームとローションの袋がまるでお茶菓子のように丁寧に並べられていた。いわゆるラブホテルなのだと、それだけで理解できる。
「ここ……え……あ、普通のホテル、空いてなかった、のかな?」
「いいえ。最初からここが目的地でした。俺、碧くんに一目惚れだったんです」
ぎし、と音を立てて知温がベッドへと上がる。無意識に碧は体を引きずるように距離を取る。そんな碧の手を知温が握った。びくりと体を震わせた碧は、眉を下げたまま知温を見やった。
「おれ……もう平気だから、出ようか」
「碧くん、俺、こんな急激に誰かを好きになったことないんだよね。恋ってホントに落ちるんだって思って……碧くんも、俺のこと嫌いじゃないと思うんだ。ね、これって運命だと思わない?」
ぎゅっと強く手を握られ、碧が視線を揺らめかせる。
その言葉は少し使い古されていてちょっと嘘っぽい気がしないでもないけれど、好みの男からこんなふうに言われたことがない碧は、少しときめいてしまっていた。碧はこれまでちゃんとした恋愛をしたことがない。全く付き合ったことがないというわけではないが、手をつなぐ程度のプラトニックなものか、キスをして『何か違う』とフラれたこと、そのくらいの経験しかないのだ。
だから少し、今のシチュエーションに浮かれてしまっていた。
知温の手を振りほどけない。
「ホントに、一番最初……朝礼の時、優菜ちゃんと話してる碧くんを見た時から惹かれてたんだ」
知温が碧に近づく。今度は距離を取れなかった。そのまま手を引かれ、抱きしめられる。誰かの胸にこんなふうに収まったのは初めてで、心臓が痛いくらい強く鳴っていた。
「ホント、に……おれが好き?」
「好き。碧くんと付き合えたら、毎日幸せだと思うし、碧くんを幸せにするよ」
耳から甘すぎる言葉が流れ込んでくる。でもそれはレディーキラーカクテルのように碧を簡単に酔わせてしまった。
「……いい、よ……」
碧は震える手を伸ばし、知温の背中に廻した。ヤバ、と小さく聞こえたと思うと、すぐに碧の体は再びベッドに沈められていた。
「大事にする」
その時微笑んだ顔は、本当にカッコよくて碧の心臓なんか簡単に射貫いてしまった。もうきっとそうして空いたハートの穴は、知温にしか埋められなくて、でもずっと満たされたままなのだろうーーこの時の碧はそう思っていた。
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