百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

文字の大きさ
3 / 55

2-2

しおりを挟む

 エレベーターに一人で乗ることなどできないから、当然他の社員も乗っている。混んでいることをいいことに体に触れられることもあるし、揺れたりしないのに危ないからと抱き寄せられたこともある。
「百合原くん、きみ、どこの香水使ってる?」
 今日は匂いを嗅がれていたらしい。ふいに隣からそう聞かれ、朱莉が顔を上げた。
「えっと……香水は付けてないんですが、何か匂いますか?」
 嘘だ。本当はオリジナルのものを調香してもらって、それを付けている。上品でさりげなく清潔なイメージの香りは朱莉が作り上げている『総務の花』のイメージだ。
「そうなの? じゃあ、百合原くん自身の香りなのかな……てことは、家の中もこの香りがするんだね、きっと」
「どうですかね……自分じゃ自分の匂いって分からないから……不快にさせてたらすみません」
「いや、むしろ、ずっと感じてたい香りだよ」
 隣で深呼吸をされて、朱莉は気持ち悪いと思いながらもそれを表情に出さずに社員たちがエレベーターを降りていくのを見送った。
 最上階にある総務部へ着くころには、仕事の八割が終わったような気分で、疲れ切ってオフィスにたどり着く。それが、朱莉の毎日だった。
「おはようございます」
 朱莉が所属する総務部総務課には、総務部長の男性と、十名ほどの女性社員がいる。彼女たちは他の社員と直接会うことはなく、書類の受付などは全て朱莉の担当だ。
「百合原くん、おはよう。今日もモテてたね」
「おかげで今日もスムーズに出勤できたよ、ありがとう」
 朱莉がオフィスに入ると、そんな声をかけられる。朱莉はそれに笑顔を向けた。
「これくらいで、みなさんの役に立てるなら全然です。みなさんを守れるって嬉しい役目ですし」
 にっこりと返すと、先輩社員たちは、いい子ねえ、と嬉しそうに微笑む。朱莉はそれに笑顔を向けてから、心の中では舌を出していた。
 ――別にぼくがいなくても、あなたたちに目が行くとは思ってないし、むしろみんな『ぼく』を選んでるんだと思うけどね。
 そんなことを心の中で思いながら朱莉は自分の席へとついた。
 朱莉は女性社員を守る仕事についているが、女性が嫌いというか、ライバルだと思っていた。三年前、女性に婚約者をとられてから、朱莉の中で女性を尊敬することが出来ずにいたのだ。
 悠馬と相手の女性には慰謝料をしっかり貰っているが、それと『許す』ことは別問題だ。未だに朱莉は、女というだけで何の努力もなしに悠馬を奪ったあの女が許せない。その気持ちが『女性』そのものに拡がってしまっていると分かってはいるのだけれど、嫌悪してしまうのはどうしようもないことだ。
 だから、女性を守れる立派な仕事だなんて思っていない。ただ、自身の優越感を満たせる仕事だからこそ、毎日出来るのだ。
 今日だってこの間女性社員が『カッコいい』『あの人なら言い寄られたい』と言っていた企画課の社員とデートの約束をしている。女性ではなく自分を選んで誘ってくれたのだ。このまま付き合って結婚なんて話になったら迷わずこの仕事も辞める。今の朱莉にとってこの仕事はその程度のものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由

スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。 どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

処理中です...