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しおりを挟む土曜日の午後、朱莉は前回秋生が持ってきてくれたお菓子や酒を持って秋生の家に来ていた。このくらいの量なら時間を掛ければ消費できるし、そうでなければ半分だけ外で手渡すという方法もあって、わざわざ自宅へと行くこともない。
けれど秋生も、今度はうちにおいで、と言ってくれて、朱莉と二人で自宅で会うことになんの抵抗もないようだった。確かに、秋生は彼女がいるのだし、同性の友達なら自宅に呼んでも不自然ではない。
そういうことだと分かっているのに、朱莉は少しドキドキと鼓動を早めていた。期待することを自分でも止められない。
「荷物、重くなかった?」
前回買いすぎたよね、と玄関で出迎えてくれた秋生が朱莉の手からエコバックを引き受けた。
「大丈夫です。秋生さんこそ、ぼくをまた呼んで大丈夫なんですか?」
秋生に迎えられるまま部屋に入った朱莉が聞き返すと、振り返った秋生が不思議そうな顔をする。
「ここに来てもらうことは特に……」
その態度を見て、ああそうか、と思った。
秋生にとっては、前回のキスも気に留めるようなものじゃないし、朱莉とこうして部屋に二人きりになることも意識するようなことではないのだ。
さっきまで感じていた鼓動の高鳴りが、少しずつ落ち着いていく。
「遅くならないように解散するか、僕が送れば大丈夫じゃないかな? やっぱり帰り道は心配だから」
秋生が優しく笑み、朱莉の髪を撫でる。それを受け入れ、朱莉は頷いた。
きっと自分は、秋生の『恋愛』のスタート地点にも立てていない。多分彼が普段接している子どもと同じなのだ。
そう思うと、胸がズキズキと痛かった。秋生のことは好きじゃない、そう言い聞かせたばかりなのに、気持ちは沼の底に引きずられていくように沈んでいく。
「朱莉くん、今日は映画でも観ようと思って用意してたんだ。僕、とにかく派手な映画観るのが好きで。朱莉くんは?」
朱莉をソファに導いた秋生がテレビの電源を入れる。配信サイトでレンタルしてくれていたようだ。
朱莉は無理に気持ちを引っ張り上げて目の前に視線を向けた。
リビングのテーブルには既にお菓子が用意されていて、朱莉が持って来たものを消費できるとは思えない。完璧に朱莉を迎える準備をしてくれていたことは嬉しいが、今日の目的は、前回消費できなかったお菓子を一緒に食べることだったはずだ。もちろん、朱莉にとってはそんなのただの建前で、本当は秋生にあのまま会えなくなるのが嫌だっただけだ。
でもそれは朱莉の事情だ。秋生は、それを素直に受け入れてくれただけだと思っていた。
「朱莉くん?」
テーブルを見つめたまま固まってしまった朱莉に、秋生が声を掛ける。朱莉はそれに、あ、と顔を上げた。
「映画、ですか? ぼくは字幕が疲れるので邦画派です」
「そうなんだ。今日洋画なんだけど、いいかな?」
秋生がカップを二つ手にしてこちらに近づく。中身はコーヒーだった。さすがに今日はアルコールを入れるつもりはないようだ。
「はい。秋生さんと……じゃなくて、秋生さんが観たいもので」
自然に、秋生さんと観れるなら、と言葉が降ってきた。でもそんなことを言ったらきっと秋生は困るだろう。気持ちのない相手からそんなことを言われたら迷惑なだけだ。
朱莉は、秋生の傍に居ると本来の朱莉で居られて、とても心地いい。秋生はそれを受け入れてくれている。でもきっとそれは朱莉が好きだからではなくて秋生が優しいからだろう。
「そうか。じゃあ、一緒に観よう。なんかこう、ドカーン、ガシャーンって感じの映画って何も考えずに観れて、ストレス発散になるんだよね」
朱莉の隣に座った秋生が笑顔で手にしていたカップのひとつを朱莉に渡す。それを受け取り朱莉が笑う。
「それ、内容関係なくないですか?」
「うん、でもそれは言わない約束だから」
秋生が笑いながら、リモコンを手に取り操作する。テレビ画面に映った映画は公開していた頃によくCMを見ていたものだった。秋生が言うように、ドカーン、ガシャーン、という効果音が派手についていたのを思い出し、朱莉も思わず笑ってしまう。
それからしばらくは二人で静かに映画を観ていた。派手な効果音が響くたびに二人で思わず笑ってしまったが、エンドロールまで観てから秋生が空になったカップを持って立ち上がった。
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