百合原くんは本気の『好き』を捧げたい

藤吉めぐみ

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「まあ……今日ここに来たのも、これの診察だから」
 悠馬がため息を吐きながら着ていたシャツの襟を引っ張り、首から肩を朱莉に見せた。大きなガーゼが貼られているということはそれだけ大きな怪我をしているということなのだろう。
「……うちの両親、あいつのこと嫌いでさ。てか、朱莉を気に入りすぎてたんだと思う。それもストレスで、子ども出来ないこともストレスで、俺にしか当たれないみたいで。殴る蹴るくらいならいいけど、この間、ここに熱湯入ったままのヤカン投げつけられて」
 俺も頑張ってるんだよ、と弱く笑うその顔は、本当に弱っている時の悠馬の顔だった。嘘は吐いていないのだろうけれど、もう朱莉にはどうすることもできない。
「……悪いけど、悠馬とはもう他人だから、愚痴なら友達とかに言ってくれない?」
「他人って……! なあ、朱莉……これまで色んな子と付き合ったけど、お前以上の相手はいないんだって分かったんだよ。こうやって偶然会ったのも運命だと思うんだ。より戻してくれないか?」
 悠馬が立ち上がり朱莉に近づく。朱莉は怪訝な顔を向けたまま少しだけ後退りをした。
 もう悠馬の言葉が理解の範疇を越えていて、本当に分からない。
 無理だと逃げ出そうとした、その時だった。
「確かに朱莉は誰にも負けないくらい魅力的だよね。でも、残念。彼はもう僕のものなんだ」
 その言葉と共に後ろから抱き寄せられ、朱莉は驚いて顔を上げた。
 朱莉を抱きしめてくれたのは秋生だった。その胸の温かさにほっとする。
「ごめん、少し時間かかって。大丈夫?」
 心配そうに朱莉を見下ろす秋生に、朱莉が頷いて、廻された手を握る。それをぎゅっと握り返してくれて、朱莉はもう大丈夫だと思った。
「ああ……あんたが指輪もくれない彼氏?」
 秋生を見て一瞬怯んだ悠馬だが、勝算が見えたのだろう、強気な態度を取り戻し、秋生に対峙した。
「指輪? 朱莉くん欲しい?」
 なんのことかわからないまま、秋生が朱莉に聞く。
 昨日お付き合いを始めたばかりで指輪なんて重いもの、話題にも上がっていない。ただ、欲しいかと聞かれたら欲しくないわけはない。
「あ、いえ、今は……いつか、でいいです……」
「じゃあ、近いうちにね。というわけで、指輪をあげる約束はしたけど、後は彼に絡む理由あるかな?」
 素直に答えた朱莉に微笑んだかと思えったら、今度は鋭い視線を悠馬に向ける。
「あんたは知ってるのか? 朱莉が傷モノだって。その傷は俺の為の傷なんだよ。他人の為の傷持ってるやつなんて無理だろ?」
 それを言われたら朱莉だって怖い。まだ秋生はちゃんと朱莉の体を見たことはないはずだ。あの傷を直接見て、やっぱり気持ち悪いと思われたら、それはすごく悲しい。しかも悠馬の言う通り、元は悠馬の子を産みたいと思って作った傷だ。それを嫌だと思うこともあるかもしれない。
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