55 / 55
【後日談】普通と日常2
しおりを挟む
「確かに、ぼくは男だし、普通の母親じゃないです。でも、ぼくだって、ちゃんと二人と家族になりたいし、秋生さんに……いつまでも、好きで、いてほし……」
言葉を繋げていると、じわじわと視界が潤んでいき、声も出なくなってしまった。
男性同士の恋愛も結婚も当たり前にはなってきたけれど、まだ妊娠については『普通』ではない。でも秋生だけは朱莉を当たり前の存在と受け入れてくれると思っていたので、その言葉は衝撃だった。
「あ、違う! 絶対勘違いしてるよ、朱莉くん」
秋生が慌てて朱莉の傍に寄り、朱莉の手を掴む。
「そんなの、してない、です」
「朱莉くんは、なんでも努力で成し遂げちゃうから『普通』じゃないんだよ。普通っていうなら、もっと仕事を休むとか、家事は手を抜くとかしていいんだよ。それが普通。でも、朱莉くんは、九時五時でしっかり働いて、家もキレイで、洗濯もしてあって、更に夕飯までちゃんと作ってるし、諒生のおむつすら濡れてない。もっと僕が思う『普通』でいいよ」
「秋生さんの、普通?」
秋生を見上げるとその顔が微笑んで頷いた。
「夕飯は僕が作るから、仕事の後は諒生と少し休んだらいい。洗濯は二日に一度で十分だよ。なんならそれも僕がやる。もっと頼って、朱莉くん。僕は君を支えるために結婚したんだから」
「秋生さん……ありがとう。でもね、頑張ってたの、もう一つ理由があったんだ」
少しほっとして秋生の言葉を聞いた後、朱莉は思い切って今の気持ちを話すことにした。秋生が朱莉を見つめ、少しだけ首を傾げる。
「確かにね、意地みたいなものはあったけど、それだけじゃなくて……ぼくは、もう大丈夫、体も元気になったよって言いたくて……秋生さんは、言葉で言っても信じてくれないから、こんなに出来るんだってアピールでもあったんです」
朱莉が思っていたことをそのまま話す。
秋生は朱莉が大丈夫だと言ってもすぐに心配して、代わりにやってしまったり、制限したりする。それは、夜の営みについても同じなのだ。
「そうか……いや、過保護なのは自覚してるけど、ちゃんと言ってくれたら聞くし……」
「じゃあどうして、ぼくの傷が癒えても抱いてくれないんですか?」
何度も、もうどこも痛くない、体調も良い、と話している。明日は休みとか諒生がぐっすり寝てるというアピールもたくさんしてきたのに、一度も抱き合えていない。
思わず言葉にしてしまった朱莉に、秋生が驚いた顔を向けた。でもすぐに優しい表情になり、朱莉をぎゅっと抱き寄せた。
「……可愛い過ぎる」
耳元で囁かれた言葉に朱莉が、え、と聞く間もなく今度はキスをされる。優しい挨拶のキスなら毎日しているけれど、こんな噛みつかれるようなキスは久しぶりで、朱莉は呼吸をするのがやっとだった。
「あ、きお、さ……」
「愛してるよ、朱莉くん。本当はね、ずっと君を抱きたかった。なんなら、諒生がお腹にいる時も……だから、君からこうして誘ってもらえるなんて、嬉しいよ」
強く抱きしめられながら秋生の本音が聞けて、朱莉はホッとしたと同時に、自分から誘ってしまったことに気づいて、少し恥ずかしくなった。
でも後悔はない。
「諒生、ミルクたくさん飲んだら、すごくよく寝るんです」
「そっか……じゃあ、お風呂に入れてお腹空かせて貰おうか。その後ミルク飲んでゆっくり寝て貰おう」
秋生が朱莉を離し、再び諒生の傍に寄る。機嫌よくメリーを見上げていた諒生に秋生が微笑んだ。
「今夜は君のママを、僕の恋人に戻すから、邪魔しないでよ」
諒生のことも愛してるから、と言う秋生の言葉に朱莉が心臓を高鳴らせる。
今夜は僕の恋人に戻す、なんて言われたら期待しかない。
秋生がこちらを振り返り、朱莉がそれを見つめる。
「朱莉くん、夕飯を食べたら先にお風呂に入っておいで。ゆっくりしてきていいから」
それはどこを見られてもいいように洗っておいでということか。もうどんな言葉を聞いてもやましい想像しかできなくて、朱莉はドキドキとしながら頷いた。
「……明日の朝、ママの顔に戻れるか心配です」
「僕もだよ。だから、これからはそういう切り替えが日常になるようにもっと恋人の時間も持とう」
もう遠慮はしないから、と言われて、朱莉が頷く。
日常になるくらい抱かれるんだ、と思うと益々ドキドキしてしまう朱莉だった。
言葉を繋げていると、じわじわと視界が潤んでいき、声も出なくなってしまった。
男性同士の恋愛も結婚も当たり前にはなってきたけれど、まだ妊娠については『普通』ではない。でも秋生だけは朱莉を当たり前の存在と受け入れてくれると思っていたので、その言葉は衝撃だった。
「あ、違う! 絶対勘違いしてるよ、朱莉くん」
秋生が慌てて朱莉の傍に寄り、朱莉の手を掴む。
「そんなの、してない、です」
「朱莉くんは、なんでも努力で成し遂げちゃうから『普通』じゃないんだよ。普通っていうなら、もっと仕事を休むとか、家事は手を抜くとかしていいんだよ。それが普通。でも、朱莉くんは、九時五時でしっかり働いて、家もキレイで、洗濯もしてあって、更に夕飯までちゃんと作ってるし、諒生のおむつすら濡れてない。もっと僕が思う『普通』でいいよ」
「秋生さんの、普通?」
秋生を見上げるとその顔が微笑んで頷いた。
「夕飯は僕が作るから、仕事の後は諒生と少し休んだらいい。洗濯は二日に一度で十分だよ。なんならそれも僕がやる。もっと頼って、朱莉くん。僕は君を支えるために結婚したんだから」
「秋生さん……ありがとう。でもね、頑張ってたの、もう一つ理由があったんだ」
少しほっとして秋生の言葉を聞いた後、朱莉は思い切って今の気持ちを話すことにした。秋生が朱莉を見つめ、少しだけ首を傾げる。
「確かにね、意地みたいなものはあったけど、それだけじゃなくて……ぼくは、もう大丈夫、体も元気になったよって言いたくて……秋生さんは、言葉で言っても信じてくれないから、こんなに出来るんだってアピールでもあったんです」
朱莉が思っていたことをそのまま話す。
秋生は朱莉が大丈夫だと言ってもすぐに心配して、代わりにやってしまったり、制限したりする。それは、夜の営みについても同じなのだ。
「そうか……いや、過保護なのは自覚してるけど、ちゃんと言ってくれたら聞くし……」
「じゃあどうして、ぼくの傷が癒えても抱いてくれないんですか?」
何度も、もうどこも痛くない、体調も良い、と話している。明日は休みとか諒生がぐっすり寝てるというアピールもたくさんしてきたのに、一度も抱き合えていない。
思わず言葉にしてしまった朱莉に、秋生が驚いた顔を向けた。でもすぐに優しい表情になり、朱莉をぎゅっと抱き寄せた。
「……可愛い過ぎる」
耳元で囁かれた言葉に朱莉が、え、と聞く間もなく今度はキスをされる。優しい挨拶のキスなら毎日しているけれど、こんな噛みつかれるようなキスは久しぶりで、朱莉は呼吸をするのがやっとだった。
「あ、きお、さ……」
「愛してるよ、朱莉くん。本当はね、ずっと君を抱きたかった。なんなら、諒生がお腹にいる時も……だから、君からこうして誘ってもらえるなんて、嬉しいよ」
強く抱きしめられながら秋生の本音が聞けて、朱莉はホッとしたと同時に、自分から誘ってしまったことに気づいて、少し恥ずかしくなった。
でも後悔はない。
「諒生、ミルクたくさん飲んだら、すごくよく寝るんです」
「そっか……じゃあ、お風呂に入れてお腹空かせて貰おうか。その後ミルク飲んでゆっくり寝て貰おう」
秋生が朱莉を離し、再び諒生の傍に寄る。機嫌よくメリーを見上げていた諒生に秋生が微笑んだ。
「今夜は君のママを、僕の恋人に戻すから、邪魔しないでよ」
諒生のことも愛してるから、と言う秋生の言葉に朱莉が心臓を高鳴らせる。
今夜は僕の恋人に戻す、なんて言われたら期待しかない。
秋生がこちらを振り返り、朱莉がそれを見つめる。
「朱莉くん、夕飯を食べたら先にお風呂に入っておいで。ゆっくりしてきていいから」
それはどこを見られてもいいように洗っておいでということか。もうどんな言葉を聞いてもやましい想像しかできなくて、朱莉はドキドキとしながら頷いた。
「……明日の朝、ママの顔に戻れるか心配です」
「僕もだよ。だから、これからはそういう切り替えが日常になるようにもっと恋人の時間も持とう」
もう遠慮はしないから、と言われて、朱莉が頷く。
日常になるくらい抱かれるんだ、と思うと益々ドキドキしてしまう朱莉だった。
46
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
振り向いてよ、僕のきら星
街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け
「そんな男やめときなよ」
「……ねえ、僕にしなよ」
そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。
理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。
距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。
早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。
星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。
表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。
Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」
***
地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。
とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。
料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで——
同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。
「え、これって同居ラブコメ?」
……そう思ったのは、最初の数日だけだった。
◆
触れられるたびに、息が詰まる。
優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。
——これ、本当に“偽装”のままで済むの?
そんな疑問が芽生えたときにはもう、
美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。
笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の
恋と恐怖の境界線ラブストーリー。
【青春BLカップ投稿作品】
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる