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しおりを挟む美味しい酒だったからか、飲みなれない日本酒だったせいか、どちらにせよ、この日の巽はいつもと違う酔い方をしていた。先日意識をなくすほど酔った巽が言うことではないが、いつもなら家までは楽しく帰って、その後で急激な睡魔に襲われて寝てしまうのだ。
けれど今日は頭の中はまだはっきりしているのに、足元がおぼつかない。
「麻岡、大丈夫か? うちの方が近いし、うち来るか?」
店を出て歩き出したのはいいが、ふらふらとする巽の肩を支え、木南が心配そうな顔をする。巽はそれに首を振った。
「家で灯希が待ってるから……帰る」
きっと灯希が心配している。結婚式の日だって、結局灯希が心配して電話をくれて迎えに来てくれたのだ。そんなことはもうさせたくなかった。年上だし、今は灯希の保護者と自負しているので、あまりカッコ悪いところばかり見せていたくない。
「そっか……じゃあ、家まで送るよ」
タクシー乗って帰ろう、と木南が巽を支えて大きな通りを目指して歩く。巽はそれを断ろうと思ったが、上手く動かない両足に視線を落としてから、ここは甘えた方がいいかもしれない、と思い、ごめん、と素直に謝った。
「全然。次は俺が潰れるかもしれないしな」
その時はよろしく、と笑う木南に巽は、うん、と頷いて笑った。
部屋の前に着いたものの、鍵をカバンから上手く出すことができなくて、結局木南にインターホンを押してもらった巽は、ドアを開けてくれた灯希の不機嫌な表情に少し酔いが醒めた。いつもと違う醒めた目は、灯希が怒っている時に見せるものだ。
「……おかえり。連絡くれたら行ったのに」
巽さんこっち、と灯希が手を伸ばす。巽はそれに素直に掴まろうとしたが木南の腕が解けず巽は木南を見上げた。
「このまま中まで付き添うよ。いいよね、麻岡」
「うん、まあ……助かるけど」
有無を言わさない言葉に巽は上手く考えられず、木南が離してくれないのならそれしかないだろうと巽が頷く。すると、灯希が大きなため息を吐いてから、お願いします、と玄関へと下がった。そのままきびすを返し、リビングへと歩く。木南は巽を支えたままその後をついていった。
リビングのソファに降ろされた巽は、木南を見上げ、悪いな、と眉を下げた。正直、ここまで歩けなくなるほど酔うとは思っていなかったし、今も頭ははっきりしている。
だからこそ、灯希のさっきの表情がなんだか怖かった。
「まあ、飲ませすぎたのはオレだしな」
日本酒だと弱いんだな、と木南が隣に腰を下ろす。
「勝手に飲んだのはおれだ。こんなとこまで世話になって悪いな」
木南に謝りながら、巽は灯希の姿を探した。灯希はキッチンに立っていた。きっと木南が来たからお茶でも用意してくれているのだろう。本当にこういうところはよく気が付く子だと思う。それでも遠くから見る灯希はあからさまに不機嫌だった。
「ホントに。次から巽さんがこうなった時は、俺に連絡するように言ってください」
キッチンにいた灯希が手にカップを持ち、こちらに歩いてきた。カップをテーブルに置くと、灯希は巽の足元にしゃがみ込む。
「巽さん、ホントに心配させないでよ」
「ん……ごめん、灯希」
灯希の表情が優しく変わる。巽が謝ったことで少し気持ちが落ち着いたのだろう。そんな灯希の表情で、巽も安心する。
「灯希くん? 今回はホントにオレが悪いんだ。オレからも謝るよ。でも、オレがこうしてちゃんと連れて帰るから心配しなくていいよ」
隣にいた木南が巽の肩に腕を廻す。にこにこといつもの笑顔で灯希を見やる木南に、灯希はにっこりとキレイな笑顔を返した。
「いいえ。ちゃんと自覚してない巽さんが悪いんです。自分で帰れないくらい飲むから......今だって、巽さん眠いんでしょ。運んであげるから、ベッドで寝て」
二度目になるが、灯希は本当によく気が付く子で、この時の巽の様子もあっさりと見抜いていた。巽が頷いて灯希に腕を伸ばす。
「あ、運ぶならオレが……」
「いえ、慣れてますから」
木南が巽の肩を強く掴んだが、灯希がそれを外すように巽の肩に腕を廻して、そのまま抱え上げる。いつの間にか自分よりもしっかりした体躯に包まれ、巽はほっとした。さっきまでなんとか意識を保っていたはずなのに、こうされてしまうと睡魔は急襲してくる。
「ごめ……灯希……」
「うん、今はそのまま寝ていいよ」
お休み、という声が聞こえる。けれど巽はそれに応えることも出来ないまま、眠りの淵へと落ちて行った。
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