イケメンに育った甥っ子がおれと結婚するとか言ってるんだがどこまでが夢ですか?

藤吉めぐみ

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 その翌日、灯希は家に帰らなかった。
 自分から出ていったのだからいつものように帰ってくることはないだろうなとは思っていたが、やっぱり仕事が終わり帰宅した時に部屋の明かりが点いていないのは少し寂しい。
「……いつかはこれが普通になるんだよな……」
 灯希はいつか巣立つ。家族じゃないと灯希に言われても、巽にとっては大事な家族だ。その巣立ちを自分が邪魔してはいけない。この寂しさはなかったことにして、ぐしゃぐしゃに丸めて捨てなければいけない。
「とりあえず、飯作るか」
 確かにここ二年はやってこなかったけれど昨日だって手伝うつもりでキッチンに立ったのだ。できなくても、できないなりにやらなければ生きていけない。
 巽は冷蔵庫の扉を開けて中を見渡した。灯希の作った肉じゃがが保存容器に入っている。その下の保存容器にはナスの揚げびたしが入っていた。きっとどちらも巽の好物だから灯希が作っておいてくれたのだろう。巽は自分で料理をするのは明日にしよう、とそれらを冷蔵庫から出して、少しだけキッチンで摘まむ。肉じゃがは少し甘め、ナスの揚げびたしは生姜がぴりっと効いた味がした。どちらも巽の好みの味だった。
「……教えてないのにな……」
 この味が好きとか嫌いとか、そんな話をしたことはない。灯希は一緒に暮す中で、巽の言葉や表情から好みを見極めていたのだろう。そんなことをしてくれるくらい、灯希は巽に気持ちを傾けてくれていた。今まで、こんなことを考えたこともなかった。灯希が言っていた、『俺のこと、ちゃんと考えて』という言葉は、こういうことなのだろう。
 とはいえ、灯希の隣が自分でいいわけはない。それだけは、きっと変わらない。変わってはいけないと思う――そう思って、巽はため息を吐いた。

『おれ、怒ってないから戻っておいで、灯希』
 そんなメッセージを送ったのは、灯希が出ていって二日目の夜だった。三日目の夜になってもそのメッセージに返信はない。ただ、既読の文字はついているのでどこかで無事でいるのだろう。それだけでもほっとしたが、巽は更に『連絡だけでもして欲しい』と送ってから、自宅のドアを開けた。当然のように今日も巽を迎えるのは真っ暗な部屋だ。
 巽が部屋の明かりを点ける。灯希がいた時は部屋もキレイだったけれど、巽だけだと三日でソファの背もたれは洗濯物で占拠されてしまっていた。
「洗濯しなきゃな……」
 巽がソファからシャツを回収して洗面所へ向かう。洗濯機にそれらを放り込んで洗濯機を廻す。このくらいは巽にもできる。灯希がいないから家事ができないなんてことはない。もちろん灯希の方が家事能力はあるけれど、そのために灯希といたわけではない。灯希といると楽しいとか安心するとか、そういう気持ちになるからだ。
 巽は洗面所から出て、リビングのソファに座り込んだ。それからそのまま倒れるように横になる。そのままネクタイを解き、床に落とす。ポケットに入れていたスマホを取り出して画面を見るが灯希からの返信はなかった。それどころか既読もついていない。
「灯希……どこにいるかくらい、教えてくれたらいいのに……」
 巽がため息を吐いて目を閉じる。その日は仕事の疲れもあって、夕飯も食べずに眠ってしまった。
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