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しおりを挟む三日目は電話をしたけれど、出て貰えなかった。それがなんだかとても胸に刺さってその日も何も食べられなかった。洗濯機で見つけたシャツは乾いていたが当然のように皺になっていて、もう一度洗濯をしたが、その日も干すことを忘れてしまった。
一人暮らしの時に出来たことが、今はできない。たった数日灯希がいない、それだけなのに何も出来なくなっている。仕事の繁忙期に入って、夜中に家に帰ることが続いているとはいえ、一週間の間、巽はまともな家事をひとつも出来ていなかった。
巽は床に転がるティッシュの箱を蹴とばし、いつ脱いだか分からないシャツを踏みつけながら寝室からリビングへと出て、ソファに座り込んだ。尻の下にポストに入っていたチラシを敷いてしまった気もするが、今の巽にはどうでもよかった。
「疲れてるのに眠れないってどういうことだよ……」
疲れ果てて倒れるようにベッドに入ったはずなのに、寝返りをうって冷たいシーツを感じた瞬間に目を覚ましてしまう。そこに灯希がいなくて、飛び起きて探して、あれから帰ってきてないのだった、と思い出して布団に潜り込むけれど、それから睡魔は来なくて、代わりに朝がやってくる。そんな夜を三度も越えると、さすがに体だけでなく、精神的にも疲れてくる。生活が乱れているのはそのせいだ。
仕事も本当に忙しくて家に帰っても何もする気が起きず、掃除も洗濯も出来ていなかった。当然のように部屋は荒れ、ゴミばかりが増えていき、着るものもなくなったのでシャツも買い足した。初日は灯希が居なくても家事くらいできると思っていたはずなのに、これまでどれだけ自分が灯希に甘えていたか、痛いほど知らされた。
家事だけではない。灯希という存在にも、きっと巽は甘えていたのだと思う。何かしてほしいとかではなく、ただそこにいる、それだけで随分気持ちは違ったのだろう。
灯希がいなくなった部屋はなんだかずっと寒くて、耳鳴りがするほど静かだった。灯希がこの部屋に帰ってきていたときは、一人でも騒がしかったような気がするのに、今はテレビを点ける気にもなれなくて自分が動く時のわずかな物音ですら大きく聞こえてしまっていた。
そんな静かな部屋に外からの音が聞こえる。外の廊下を歩く足音がして、巽は弾かれた様に立ち上がり、インターホンのカメラを起動させた。けれど画面には廊下の壁以外何も映っていない。
「……灯希じゃなかったか……」
灯希が帰ってきたのかと思った巽は、肩を落としてため息を吐いた。もう何日も同じようなことを何度も繰り返している。隣の住人が鍵を開ける音を聞いて飛び起きたのも一度ではなかった。
灯希がいない。
もうどこにいるか心配だというよりは、傍にいないということが異常だと思ってしまっていつもの巽でいられない。距離を取ると言いながら、結局そう出来ないのは自分の方だと気づいてしまった。
灯希がいないこの現状が夢ならいいのにと何度も思った。
今まで通り毎日一緒にご飯を食べて、一緒に眠って、笑いあって時々小さなケンカをして、それでも仲良く暮らしている――それが現実だったらいい。でも今も傍に灯希はいない。
自分のこんな身勝手な感情に気づきたくなかった。けれど灯希と離れてやっと理解したのだ。
灯希をひとりの人間として好きになっている、と。
もうどんなに灯希が嫌だと言っても、巽を好きじゃなくなったと言われたとしてもきっと巽は灯希を手放すことは出来ない。
「今更って話だな……」
巽はため息を吐いてからキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。入っていた食材はほとんど腐ってしまったのでゴミにした。今冷蔵庫に入っているのは、酒とゼリー飲料だけだ。
巽はゼリー飲料を掴んで蓋を開けると、そのまま一気に飲み下した。美味しいとは思えないが、このくらいは胃に入れなければ体が持たない。空になったパックは既に溢れかえっているゴミ箱に放り投げて、巽は仕事に向かうべく着替えを始めた。
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