イケメンに育った甥っ子がおれと結婚するとか言ってるんだがどこまでが夢ですか?

藤吉めぐみ

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【後日談】それは初めから恋でした。

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 灯希が物心つくその前から、灯希の中には巽がいたのだと思う。気付けばとても近くに居て、誰よりも優しい人――それが灯希にとっての巽だった。
「灯希ー、もう遅いから帰るよー」
 シングルマザーである母は、自分の仕事が遅くなる日は、小学生の灯希を実家へと預けていた。自宅に帰れないとゲームもできないし、スマホで動画を見ることも出来ないのだが、ここに来れば巽に会える。灯希はそれが嬉しくて、いつも『巽さんのパソコンを借りる』という名目で巽の部屋に居座っていた。巽がいつ帰ってきてもすぐに遊べるようにだ。
 けれどこうして巽が帰ってくる前に母が迎えに来てしまうこともある。
「まだ嫌だー」
 階下から響く母の声に、灯希が巽の部屋のパソコン前に座ったまま答える。すると階段を上ってくる足音が近付いてきた。
「灯希、さっさと帰って風呂入って宿題やらないと」
 部屋のドアが開き、呆れ顔の母が入ってくる。灯希は唇を尖らせ、やったし、と母を見やる。
「宿題ならさっきやった。だからまだここにいる」
「また巽が帰ってくるの待つ気?」
 ため息を吐かれるが、母の言う通りなので、灯希は頷く。
 きっと今日は巽はバイトの日なのだろう。大学の授業の後、駅前に半年前に出来たカフェでバイトをしていることは灯希も知っていた。白いシャツに黒いタブリエ姿の巽を窓の外から見かけた時は、なんだかよく分からないけれど、自分の呼吸が止まった気がした。心臓も百メートル走を走り切った後よりもドキドキしていて、風邪をひいた時みたいに体が熱くなった。
 何か病気なのかと真剣に思ったこともあったけれど、その場を離れたらすぐにそれらは収まったので灯希は深く考えないようにしていた。
「巽ならそろそろ帰ってくると思うけど……灯希、お風呂入っちゃう?」
 母の後ろから優しい祖母の声が届いた。灯希はその言葉に、うん、と答え椅子から下りた。
「もー、母さん。灯希をあんまり甘やかさないでよ」
「甘やかしてなんて。灯希は、ここに帰ってきたらすぐに宿題をやって、おやつを食べたらずっとここで大人しくしてるのよ」
 充分いい子なんだもの、そのくらいのワガママはいいじゃない、と祖母が灯希に微笑む。灯希は、おばあちゃんありがと、と笑って階下へ続く階段を下りた。
 確かに祖母の言う通り、リビングで宿題をしておやつを食べたら巽の部屋に来るのがいつものパターンだった。そうすれば堂々と巽の部屋で巽の匂いに包まれていられるし、パソコンの履歴から何に興味を持っているのかも分かる。
 今は新しい時計が欲しいようで、色々検索していた。そして昨日観ていた動画は女子大生ものだという事も分かった。さすがに中身までは自主規制で見ていないが、それを巽が何のために観ているのかは小六にもなれば分かるものだ。
「あんなでも、性欲とかあるんだな……」
 灯希は脱衣所に向かいながらぽつりと呟く。
 いつも数ミリ浮いてるんじゃないかと思うほどぽやぽやとしていて、恋人がいるような気配もない巽でも、そういう欲はあるらしい。そう思うと、灯希の背中がぞくぞくとする。
 巽はどんなふうに自分を慰めるのだろう――灯希はそんなことを思いながらバスルームへと入った。すると、自分の中心が少し持ち上がっているのが見えて、灯希は思わず、え、と声にした。
「……俺、巽さんで……」
 勃っちゃった、と呆然と下半身を見やる。その体の反応を見て、灯希は理解した。
 自分は巽のことがそういう意味で好きなのだ。あの人を性的に見ているのだ。
 そう気付いた時、がちゃりと脱衣所のドアが開く音がした。
「灯希ー、ただいまー。風呂、一緒に入ろうか?」
 続いてバスルームのドアが開いて、灯希は慌てて湯船に浸かった。
「た、つみさん……おかえり」
「あれ? もう上がる?」
「う、ううん、一緒に入る」
 ふるふると首を振ると、巽が微笑み、待ってろ髪洗ってやるから、と服を脱ぎ始めた。
 カフェの制服姿を初めて見た時と同じ様に、灯希の心臓はドキドキして体も熱くなって、これが恋か、とその時初めて灯希は認識した。

「というわけで、これは俺にとって思い出の制服なんだよ」
 日曜の朝、洗濯ものをベランダに干しながら、灯希はソファでその作業を見ていた巽に笑いかけた。ベランダでは、黒いタブリエと白いシャツが風に揺れている。昔巽が着ていた制服は、今は灯希がバイト先で着ているものだ。
「もしかして、それでおれがバイトしてた系列店でバイトしてるのか?」
「そう。思えば、初めからあれは恋だったんだよね」
    巽さんもそう思わない?    とベランダから戻ると、巽はなんとも言えない複雑な顔をしていた。
「まあ……おれのこと好きすぎるとは思ってたけど。ちょうどその頃、パソコンの履歴を灯希に見られてるって気づいたんだよな」
    あれは焦った、と笑う巽の隣に座った灯希が、えっちな動画のこと?    と聞く。巽がこちらを驚いた顔で見てから真っ赤になる。
「おま、それ……」
「さすがに観てないよ。でも、それを観てソロプレイしてる巽さんを妄想して勃ったけど」
「……勃ったって……まだ小学生だよな?」
    慌てる巽に灯希は、もう子どもではなかったよ、と微笑む。
「おれは、灯希にとって悪い叔父さんだったのかもな……」
    悪影響ばかり与えていたかも、とため息をつく巽を、灯希は、そうだね、と言いながらぎゅっと抱きしめた。
「俺の中を巽さんでいっぱいにした悪い大人だからね。ちゃんと責任取って」
「責任?」
「俺はもう巽さんしか愛せなくなったんだから、捨てないでよ」
 耳元でささやくと、巽はくすくすと笑って、ばかだな、と返した。その言葉に首を傾げ、灯希が巽を離す。
「それはお互い様じゃないか」
 こちらに向ける笑顔は、本当に可愛くてキレイで、灯希はそれに返事をすることなく巽に抱きついて、そのままソファに押し倒した。
「巽さん、好き」
「うん、おれもだよ」
 胸に抱きついたままの灯希の頭を巽が優しく撫でる。好きな人に包まれて穏やかな時間を過ごすことができている今が、本当に幸せだと思った。だからそれを巽に伝えたい。
 灯希はゆっくりと顔を上げ、巽を見つめた。巽が優しい表情でこちらを見やる。
「ずっとこうしてたい」
「今日は一日ごろごろしてようか?」
 休みだからどこかに出掛けてもいいけど、と巽がこちらを伺う。灯希は巽を連れ出してあちこちデートに行くのもいいな、と考えていたが、ふとベランダで揺れるシャツを見上げ、そうだ、と微笑んだ。
「あのシャツ乾いたら、巽さん着てくれない?」
「……どうして?」
 突然の言葉に戸惑ったのか、それともこれから灯希が言うだろう言葉を察したのか、巽が嫌そうに眉を寄せてこちらを見る。灯希はそれに笑顔を返した。
「俺が初めて恋した巽さんとえっちなことしたいなって、思って?」
 灯希が微笑むと、巽は大きなため息を吐いた。
 そんなとこだろうと思ったよ、と呆れた顔をするけれど、じゃあ、と更に口を開く。
「制服が乾くまで、灯希はおれの昼飯作って」
 それが条件、と巽がこちらを諦観の表情で見つめる。灯希はそれに大きく頷くと巽の上から降りて、その手を差し出した。巽がそれに掴まり体を起こす。
「じゃあ、巽さんの好きなもの作るよ。だから、後で俺にも好きなことさせてね」
 灯希が微笑むと、好きなこと、と怪訝な表情で巽が灯希の言葉を繰り返す。それでも、軽くため息を吐いてから、巽は握っていた灯希の手をぐい、と引いた。当然のように灯希の体が傾ぐ。その瞬間、巽が灯希に短いキスをする。
「お前の頼みなら断れないよ」
 巽がこちらを見上げ、少し赤い顔をする。灯希はその言葉に頷いて、今度はこちらからキスをした。
「そういう巽さんが大好き」

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