28 / 29
10-3
しおりを挟むとても深く眠った気がする。
今まで眠れなかったのが嘘のようにぐっすりと眠ったのか、翌朝の巽の頭はとてもすっきりしていた。体は若干の重さがあるが、それはきっと灯希が悪い。
巽はふと隣に視線を向けた。そこは既に空になっていて、相変わらず灯希はこんな日でも早起きをしているらしい。
「今日くらい年下らしく寝顔を見せてくれてもいいのに」
巽は昔見ていた可愛らしい灯希の寝顔を思い出しながら体を起こし、布団を開いた。そこで自身の手に違和感を覚え、両手を広げる。
「な、何、これ……」
広げた左手の薬指には銀の指輪がぴたりと嵌っていた。キラキラ輝くそれはおもちゃなどではなく、巽は慌ててベッドを降りて寝室を飛び出した。
「と、灯希、おれ……まだ寝てる?」
「あ、おはよう、巽さん。寝てるって……ちゃんと起きてきてるよ」
ふふふ、と笑う灯希は既にキッチンで食事の用意をしていた。それはいつもの景色で現実味があるのだが、指輪には現実味がひとつもない。
「夢、じゃないかと、思って……これ」
「夢じゃないよ」
キッチンに立っていた灯希に手を広げて見せる巽に対し、いつもと変わらない様子で灯希が微笑む。気づいていないわけではないだろう。こんなものを巽の指に付けられるのは灯希しかいないのだ。
「灯希、これ、どういう意味?」
灯希の傍により、再び手を広げると、灯希はその手を取って、指輪にそっと口づけた。巽がそれを見て顔を赤くする。
「意味なんて一個しかないでしょ」
左手の薬指だよ、と灯希が優しく笑んでこちらを見つめる。
当然結婚を意味することは分かっている。けれど巽が聞きたいのはそういうことではない。
「でも……おれと、灯希は、男同士で、家族で……」
「確かにね、公に結婚はできないよ。でも、だからって指輪をしちゃだめってことはないし、初めて巽さんを抱いた日に、俺ちゃんと誓ったはずだよ。俺が全部巽さんの理想を叶えるって」
「え?」
驚く巽の手を離し、灯希はトレイに皿とカップを載せてリビングへと歩いて行った。リビングテーブルの上には既に一つのケーキ箱とコーヒーポットが置かれている。
「巽さん、あの日言ったんだよ。いつか幸せな結婚がしたいって。引き出物のバームクーヘンを自分たちの分も買って、翌朝に仲良く食べるような、そんな優しい結婚が理想だって」
灯希は言いながらテーブルの傍に座り込み、ケーキの箱を開けた。中にはバームクーヘンが入っている。
「結婚式はしてないし、これだって引き出物じゃないけど……二人で食べようよ、巽さん」
灯希がこちらを振り返り、微笑む。
確かにそんなことを思っていた。それを灯希に言った記憶はないのだけれど、酔った自分が話したのかもしれない。
「うん、食べる」
巽が頷いて灯希の隣へ座る。そんな巽に灯希が微笑み、コーヒーを用意してくれる。
「なあ、灯希」
「ん?」
バームクーヘンを切り分けている灯希に巽が声を掛ける。
今、ちゃんと言わなきゃいけないと思った。これだけは、年上である巽がちゃんと主導権を握りたい。
「おれと……ずっと一緒にいてください」
巽が灯希に頭を下げる。恥ずかしくて顔は上げられなかった。
「巽さん……首まで真っ赤」
ははは、と笑い出す灯希に、巽はこっちは真剣に言ってるのに、と思い、少し不機嫌に顔を挙げた。その瞬間、灯希の唇が自分のそれに触れ、小さくキスをして離れる。
「当たり前でしょ。もう離れないよ」
優しく微笑む灯希の左手の薬指には、指輪はない。巽は灯希の手に触れ、うん、と頷いた。
「今日は灯希の指輪を買いに行こう。昨日の日付入れてもらってさ」
「いいね。嬉しい。一生付けられる、カッコいいの、買ってよ」
一生、という言葉に巽は少しドキリとしたが、それはすぐに喜びに変わっていく。巽は灯希に微笑んで、好きだよ、とささやいてからもう一度キスをしたくて灯希にそっと近づいた。
42
あなたにおすすめの小説
かわいいと思っていた年下の幼なじみが大人になって押し倒してきた
こたま
BL
二軒お隣に住んでいる二つ下の男の子、須藤幸樹(こうき)くん。天使のように可愛くて僕、川井由斗(ゆうと)の後をついて歩いて、離れると泣いてしまったり。かわいがっていたらどんどん大きくなって、大人びてきた。大学院修士卒業時の就職で、大学卒の彼が同じ会社に入社することになった。年下攻めのハッピーエンドBLです。
ポメラニアンの僕を猫可愛がりしたのは、不機嫌顔がデフォのイケメン上司でした
こたま
BL
奥川亮は、某企業で働くSEである。職場で病欠等で数人休んだことで人手不足に拍車がかかり多忙だったあと、帰宅中ポンッとポメラニアンに変化してしまった。途方にくれた僕を保護してくれたのはいつも眉間に皺を寄せて不機嫌な顔のイケメン上司、丹羽和樹だった。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
運命の番マッチングシステムで出会ったのは、蒼い眼の英語講師でした
こたま
BL
少子化少アルファ対策として国営の運命の番マッチングシステムが始まって数年が経った。希望するアルファとオメガは、マッチングにDNA情報を登録して相性の良い相手を紹介して貰うことが出来る。18歳の誕生日に羽村悠希(はるき)もそのシステムに登録をした。オメガバースハッピーエンドBLです。
お疲れポメラニアンの俺を癒したのは眼鏡イケメンの同期だった
こたま
BL
前田累(かさね)は、商社営業部に勤める社員だ。接待では無理してノリを合わせており、見た目からコミュ強チャラ男と思われているが本来は大人しい。疲れはてて独身寮に帰ろうとした際に気付けばオレンジ毛のポメラニアンになっていた。累を保護したのは普段眼光鋭く厳しい指摘をする経理の同期野坂燿司(ようじ)で。ポメラニアンに対しては甘く優しい燿司の姿にびっくりしつつ、癒されると…
婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?
こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる