怖がりSubにやさしい命令(コマンド)を

藤吉めぐみ

文字の大きさ
34 / 54

13-3

しおりを挟む

「こんなところまで付いてきてくれた上に、こんな迷惑かけてすみませんでした」
 部屋の一人掛けのソファに座った暁翔が、小さなテーブルを挟んで向かいに座る央樹に頭を下げた。
「いや……結城が謝ることは何もないよ。ここへは僕の意思で来たのだし、お兄さんと話すことで……僕の気持ちも再確認できたんだ」
「央樹さんの気持ち、ですか?」
 央樹の言葉を受けて暁翔が聞き返す。央樹はそれに頷いた。
「まだ……結城と恋人になるのは、正直怖い。でも、パートナーとしてなら、傍に居たいと思った。お兄さんから『暁翔がパートナーを解消しようと言ったら離れるのか?』と聞かれて、それに頷くことは考えられなかったんだ」
 離れたくないと思った。離れないための努力なら惜しむつもりはないし、頑張れると思う。改めて自分はそう思っていると確認できた。
「そんなこと言ってたんですか……兄は、おれに対して、少し過保護なんです。高校の時も、彼女を家に連れてきたら、おれがいない間にアレコレ聞いて、おれのことも話して……ダメになったのは、一度じゃないんです」
 きっと、それは暁翔に対する執着なのだろう。兄弟でなければ、と言っていたくらいだから、暁翔の恋人やパートナーを今回のように値踏みしていたのかもしれない。『自分の気持ちが抑えられるくらい敵わない相手』かどうかを見極めていたのだろう。『これなら自分の方がマシだ』と思えば、別れるように仕向けることくらいしていたかもしれない。和翔からは、それくらいしかねないほどの歪んだ愛情が垣間見えていた。
「……僕は、お兄さんに言われたくらいで、結城との関係を解消したりはしない。もう少し僕を信じてくれないか」
「……ですね。コレも、消しましょうか?」
 暁翔が小さく息を吐いてからスマホの画面をこちらに向ける。位置情報のアプリの画面だ。央樹はそれに緩く首を振った。
「それは、そのままで構わない。今日も、僕の行動を見ていたんだろう?」
「はい。見てました。赤レンガ庁舎に時計台、ススキノを歩いてラーメン横丁……札幌駅では何をしてたんですか?」
 暁翔の言葉に央樹が笑い出す。そこまでしっかり見られているとは思っていなかった。でも、その束縛が心地いい。
「お土産を選んでいたんだよ。実家にも送ったんだ」
「そうですか。それはいいですね」
「結城の分もある」
「おれもですか?」
「ああ。戻ったら一緒に食べようと思って、色々買ってしまった」
「……嬉しいです。おれも明日、たくさんお土産買います。央樹さんにも」
 暁翔が嬉しそうに笑う。央樹はそれに、楽しみだな、と微笑んだ。
「……央樹さん、おれ、央樹さんと出会えて、好きになって良かったです。できれば央樹さんにも、同じ気持ちになって欲しいです」
 以前なら、こんな言葉を言われたら随分困っていた。自分を想ってくれるのはうれしいけれど、同じ想いを返すのはすごく怖くて、絶対に無理だと思っていたからだ。
 でも、今はその想いに応えたいと思う自分がいる。
「……僕も努力する。結城の隣に立てるように。その過程で、同じ気持ちになれたら……それが理想だ」
「……ですね。待ってます」
 暁翔はそう答えて微笑むと立ち上がり、そっと央樹の肩に触れた。央樹が顔を上げると、そのままキスを落とす。
「おれ、父に何も言わずに出てきちゃったので、今日は帰りますね。明日は一緒に観光しましょう」
 迎えに来ます、と暁翔が央樹から離れる。央樹はそれに頷いてから立ち上がった。
「楽しみにしてる」
「はい。おれもです」
 じゃあ、と暁翔が部屋を後にする。
 静かになった部屋に、外から暁翔の足音が響いてくる。なんだか急に寂しくなって、でもそれが少し嬉しかった。
 この寂しさは、きっと明日暁翔に会うことで喜びに変わる――それが楽しみだと思う央樹だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

続・崖っぷちアイドルが、マネージャーと枕営業の練習をする話

はし
BL
崖っぷちアイドルが、初めての枕営業の練習をマネージャーとする話の続きです。 *他サイトにも投稿しています。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

ファントムペイン

粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。 理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。 主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。 手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった…… 手足を失った恋人との生活。鬱系BL。 ※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

処理中です...