35 / 54
13-4
しおりを挟む翌日、暁翔はチェックアウトの時間に迎えに来て、すぐに央樹を連れ出した。目的地も告げられず、央樹は暁翔に付いていくだけだったが、さすがにケーブルカーに乗ると言われたら央樹にもその場所がなんとなく分かってくる。
「……山?」
「ですね。市内が一望できるので、本当は夜連れて来たかったんですけど、無理があったので」
可愛らしいリスのイラストが描かれたケーブルカーに乗り、展望台まで来ると、暁翔が言う通り、眼下に市内の街並みが広がっていた。確かにこれが夜景になるととてもキレイだろう。
「央樹さん、こっちです」
展望台の端で街並みを眺めていた央樹に暁翔が声を掛け、央樹の手を引く。その顔はなんだか嬉しそうだ。今日を随分楽しみにしていてくれたのだろう。そう思ってもらえることがとても嬉しかった。
「子どもみたいだな、結城」
「え? 央樹さんだって、ちょっと浮かれてますよね。これとか、何も言わないし」
暁翔が目の前に繋いだ手を持ち上げる。央樹はそれを見て慌てて離そうとしたが、暁翔がそれを許さなかった。
「このままで居てください。あとでちゃんとケアしますから」
にっこりと微笑まれ、央樹はそれに頷いた。ケアの言葉に惹かれたわけではない。暁翔のこの笑顔を曇らせたくないと思ってしまった。
「こっちです。央樹さんとここに来て、これ、やりたかったんです」
展望台の中央には大きな鐘のモニュメントがある。それを囲うように設置された柵には、たくさんの南京錠が掛けられていた。
「……なんだ、これは」
「定番のおまじないみたいなものです。ここで、お互いの愛をロックする、みたいな」
「なるほど」
央樹はたくさん掛けられている南京錠のひとつに触れた。二人の名前と日付、そして『LOVE』の文字が書かれている。ちょっと恥ずかしいが、蜜月の恋人というのは、こんなものだろう。この時の気持ちを維持させているだろうか、なんて無粋なことも考えながら暁翔を見上げると、その手には南京錠があった。
「まさか……」
「はい。さっき、買ってきました。名前も入れちゃいました」
暁翔がこちらに南京錠を差し出す。確かにローマ字で、二人の名前、そして今日の日付が書かれている。他に何も書いていないのが救いではある。
「ちょっと、恥ずかしくないか……?」
「旅の恥はかき捨てって言うじゃないですか」
「結城にとっては地元だろう?」
「おれは恥ずかしくないですよ。むしろ、自慢したいくらい」
暁翔が央樹の手を強く握り微笑む。その笑顔に央樹が小さく息を吐いた。
「……結城のためならいいか。恥のひとつくらい置いていこうか」
「……はい!」
嬉しそうに頷いた暁翔が南京錠を空いている柵に掛ける。一緒にロックしましょう、なんて言われ、ヤケになっていた央樹はそれに従い、鍵を掛けた。
「これは、お互いに持ってましょう」
暁翔がポケットから小さな鍵を出す。きっと今掛けた南京錠の鍵だろう。二本あったそれのうちひとつを央樹に差し出す。
「……今外してもいいか?」
「だめです! そういうこと言うなら捨てますよ」
珍しく不機嫌な顔をする暁翔に央樹は笑って、分かったよ、とその鍵を受け取った。
「大事にする」
「おれも、大事にします」
暁翔がこちらを見つめ、はっきりと言い切る。その言葉が、自分のことかと錯覚してしまうほど、暁翔の表情は優しかった。
「ああ……なくさないように、努力するよ」
暁翔という存在を手放さないように。
央樹は改めて、そう思った。
71
あなたにおすすめの小説
ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる