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王子様の理髪師
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「こんにちは」
あっ、王子様ご来店…。
「こんにちは、増田様」
「准くん、今日からよろしくね」
僕の好きな右エクボ…。今日も素敵だ…。
増田さんは黒のハイネックにベージュのチノパン、カシミアのストライプ柄のマフラーを巻いてネイビーブルーのダウンを着ていた。
「上着お預かりしますね」
増田さんの温もりが残った上着とマフラーを受け取り、ハンガーに掛けた。振り返ると増田さんはエクボをくぼませてにっこり笑っていた。僕は知らない間に見とれてしまっていたらしい。
「ん?准くん?」
「あ!こちらどうぞ!」
しっかりしなきゃ!今日から僕が増田さんの髪を…。どうしよう…。緊張する。
「椅子、倒しますね」
増田さんの顔にガーゼを掛けようと見ると、僕は目が合ってしまった。
「准くんに髪洗ってもらえるんだね。メガネ外した方がいい?外すとあんまり見えないんだ…」
増田さんの素顔初めて見た…。めっちゃかっこいい!僕はいつものように顔が沸騰しそうだった。
「表情はみえないけど…。赤いよ(笑)」
「もうからかうのはやめて下さいね?」
「ごめんごめん(笑)」
さやかが担当してたときとちょっと違う空気を感じていた。優しいけれど、もっとクールだったような…。柔らかな空気を感じて胸が苦しくなってしまった。
お湯の温度を確認して額の生え際から優しくお湯をかけていく。
「お湯の温度、よろしいですか?」
「…。ちょうどいいです、准くん」
増田さんがちょいちょい名前を呼んでくるから、僕はくすぐったくてしょうがない。
根元までしっかり濡らすと、優しく、でも適度に力をかけて丁寧に髪を洗う。まめに切りにきてくれる髪は、男の人にしてはつややかでこしのある良い髪質だ。
「髪質とても良いですね」
「そう?うれしいです(笑)」
「洗い足りない所ございませんか?」
僕の問いかけに、ちょっと間を置いて返ってきた言葉にギュンとなった。
「もう少しでいいから洗って欲しいな。気持ちいいから…」
もう!喜んで!
僕はこめかみから指を入れて地肌を洗うとき、抱き合ってキスをしながら頭にこうして指を入れたいな…なんてことを考えてしまってボーッとしていたらしい。
「准くん?手、止まってるよ(笑)」
「あ!ごめんなさい!」
増田さんがクスクス笑ってる…。今考えてることバレてたら、死ぬほど恥ずかしい!
「人によって洗い方変わるんだね。准くんに洗ってもらうとすごく気持ちいいです」
「よ、良かったです!」
あんまり褒めないで!手が震えそうです…。
震えそうな手を何とかこらえてタオルドライして、鏡の前に移動してもらった。
「ちょっと失礼します」
一旦裏に入って深呼吸した。僕はプロの美容師なんだから、今日は最高のカットをしなくちゃいけない。ましてや相手は僕の王子様…。せっかくさやかがくれたチャンス。生かさないとさやかに合わせる顔がない…。
「よし。大丈夫!」
鏡に向かって気合いを入れ直した。
「お待たせ致しました。今日はどのくらい切りますか?」
「うん。准くんにおまかせしてもいいかな?」
「は、はい!」
素材がいいから、絶対もっと良くしたい!信頼してくれた気持ちに応えたいとスイッチが入った。
真剣になると、僕は少し無口になってしまう。増田さんともっとお話したいけれど、僕の持てる力を発揮するには我慢して集中するしかない。
集中していたからか、増田さんが鏡越しに僕を見つめている事に全く気付いていなかった。
「いかがですか?」
「メガネかけていい?」
合わせ鏡を見せて、出来をチェックしてもらった。
「准くん、ありがとう。すごくいいと思う」
「あ…。ありがとうございます。増田さんは素材がいいから…」
「えっ?そう?そんなこと言われたことない(笑)」
こんなにかっこいいのに!自分がカットした増田さんはすごく格好よくなっていると思う。あ~終わっちゃうな…。
「もう終わっちゃうね…」
「えっ?」
「腕がいいとカットも早いね(笑)」
「そう言って頂いてホッとしています(笑)」
本当にホッとしていたら、増田さんは微笑んだ。
「緊張してた?髪洗ってくれてたとき、少しだけ震えてた」
「バレちゃいましたか…」
「でも、カットの時は別人みたいに格好よかったよ(笑)」
「えっ…。ほんとですか?」
「俺はお世辞は言わないって言わなかった?」
メガネの奥の青みがかった瞳がイタズラそうにきらめいた。見つめられるとホントに弱い。また顔、熱い!
「准くん…。そんなに赤くなられると、ちょっと困る…」
えっ?どういう意味だろ…。
増田さんはちょっとだけ体を硬くしているように見えた。どうしたんだろう…?
「准くん。今日仕事のあと…空いてる?」
「へっ?」
あっ!変な声出ちゃった…。
「飲みに行かない?」
「は、はい!喜んで!」
増田さんに誘ってもらえるなんて!天にも昇る気持ちだった。なのに増田さんは吹き出した。
「なんで笑うんですか?」
「だって(笑)…。それじゃ居酒屋のバイトくんだよ(笑)」
「はい!喜んで!ですか?」
うんうんと頷きながらまだ笑いが止まらない王子様を、僕はちょっとだけ恨みがましい目で見てしまった。
あっ、王子様ご来店…。
「こんにちは、増田様」
「准くん、今日からよろしくね」
僕の好きな右エクボ…。今日も素敵だ…。
増田さんは黒のハイネックにベージュのチノパン、カシミアのストライプ柄のマフラーを巻いてネイビーブルーのダウンを着ていた。
「上着お預かりしますね」
増田さんの温もりが残った上着とマフラーを受け取り、ハンガーに掛けた。振り返ると増田さんはエクボをくぼませてにっこり笑っていた。僕は知らない間に見とれてしまっていたらしい。
「ん?准くん?」
「あ!こちらどうぞ!」
しっかりしなきゃ!今日から僕が増田さんの髪を…。どうしよう…。緊張する。
「椅子、倒しますね」
増田さんの顔にガーゼを掛けようと見ると、僕は目が合ってしまった。
「准くんに髪洗ってもらえるんだね。メガネ外した方がいい?外すとあんまり見えないんだ…」
増田さんの素顔初めて見た…。めっちゃかっこいい!僕はいつものように顔が沸騰しそうだった。
「表情はみえないけど…。赤いよ(笑)」
「もうからかうのはやめて下さいね?」
「ごめんごめん(笑)」
さやかが担当してたときとちょっと違う空気を感じていた。優しいけれど、もっとクールだったような…。柔らかな空気を感じて胸が苦しくなってしまった。
お湯の温度を確認して額の生え際から優しくお湯をかけていく。
「お湯の温度、よろしいですか?」
「…。ちょうどいいです、准くん」
増田さんがちょいちょい名前を呼んでくるから、僕はくすぐったくてしょうがない。
根元までしっかり濡らすと、優しく、でも適度に力をかけて丁寧に髪を洗う。まめに切りにきてくれる髪は、男の人にしてはつややかでこしのある良い髪質だ。
「髪質とても良いですね」
「そう?うれしいです(笑)」
「洗い足りない所ございませんか?」
僕の問いかけに、ちょっと間を置いて返ってきた言葉にギュンとなった。
「もう少しでいいから洗って欲しいな。気持ちいいから…」
もう!喜んで!
僕はこめかみから指を入れて地肌を洗うとき、抱き合ってキスをしながら頭にこうして指を入れたいな…なんてことを考えてしまってボーッとしていたらしい。
「准くん?手、止まってるよ(笑)」
「あ!ごめんなさい!」
増田さんがクスクス笑ってる…。今考えてることバレてたら、死ぬほど恥ずかしい!
「人によって洗い方変わるんだね。准くんに洗ってもらうとすごく気持ちいいです」
「よ、良かったです!」
あんまり褒めないで!手が震えそうです…。
震えそうな手を何とかこらえてタオルドライして、鏡の前に移動してもらった。
「ちょっと失礼します」
一旦裏に入って深呼吸した。僕はプロの美容師なんだから、今日は最高のカットをしなくちゃいけない。ましてや相手は僕の王子様…。せっかくさやかがくれたチャンス。生かさないとさやかに合わせる顔がない…。
「よし。大丈夫!」
鏡に向かって気合いを入れ直した。
「お待たせ致しました。今日はどのくらい切りますか?」
「うん。准くんにおまかせしてもいいかな?」
「は、はい!」
素材がいいから、絶対もっと良くしたい!信頼してくれた気持ちに応えたいとスイッチが入った。
真剣になると、僕は少し無口になってしまう。増田さんともっとお話したいけれど、僕の持てる力を発揮するには我慢して集中するしかない。
集中していたからか、増田さんが鏡越しに僕を見つめている事に全く気付いていなかった。
「いかがですか?」
「メガネかけていい?」
合わせ鏡を見せて、出来をチェックしてもらった。
「准くん、ありがとう。すごくいいと思う」
「あ…。ありがとうございます。増田さんは素材がいいから…」
「えっ?そう?そんなこと言われたことない(笑)」
こんなにかっこいいのに!自分がカットした増田さんはすごく格好よくなっていると思う。あ~終わっちゃうな…。
「もう終わっちゃうね…」
「えっ?」
「腕がいいとカットも早いね(笑)」
「そう言って頂いてホッとしています(笑)」
本当にホッとしていたら、増田さんは微笑んだ。
「緊張してた?髪洗ってくれてたとき、少しだけ震えてた」
「バレちゃいましたか…」
「でも、カットの時は別人みたいに格好よかったよ(笑)」
「えっ…。ほんとですか?」
「俺はお世辞は言わないって言わなかった?」
メガネの奥の青みがかった瞳がイタズラそうにきらめいた。見つめられるとホントに弱い。また顔、熱い!
「准くん…。そんなに赤くなられると、ちょっと困る…」
えっ?どういう意味だろ…。
増田さんはちょっとだけ体を硬くしているように見えた。どうしたんだろう…?
「准くん。今日仕事のあと…空いてる?」
「へっ?」
あっ!変な声出ちゃった…。
「飲みに行かない?」
「は、はい!喜んで!」
増田さんに誘ってもらえるなんて!天にも昇る気持ちだった。なのに増田さんは吹き出した。
「なんで笑うんですか?」
「だって(笑)…。それじゃ居酒屋のバイトくんだよ(笑)」
「はい!喜んで!ですか?」
うんうんと頷きながらまだ笑いが止まらない王子様を、僕はちょっとだけ恨みがましい目で見てしまった。
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