のっぽの僕とメガネの王子

ハジメユキノ

文字の大きさ
4 / 27

つかの間の幸せ

しおりを挟む
「准くん、お疲れさま」
店まで迎えに来てくれた増田さんは、すごくうれしそうに笑っていた。
「お、お待たせしました」
信じられなかった。お店に来てくれた時だけの王子様が僕の目の前に、僕を迎えに来てくれてるなんて…。
「すみません…。ちょっと遅くなってしまって」
「全然!俺も今来たところだから(笑)」
メガネの奥の目が優しく垂れている。あぁ…。この目に映るのが僕だけだったらいいのに…。
「准くんは食べ物何が好き?」
「何でも好きです!」
「苦手なものないの?」
う~ん…。悩んでいると、クスッと笑ってエクボをへこませた。
「じゃあ、任せてもらっていいかな?」
「はい!」
増田さんと一緒にごはん食べられるなら何が出てきても食べる!僕はものすごくワクワクしていた。

連れて行ってくれたのはスペイン料理のお店だった。オレンジ色の照明が使い込まれたカウンターやテーブルの上の料理を美味しそうに照らしていた。それぞれのテーブルでは、料理の美味しさに笑顔を浮かべるお客さんたちが幸せそうにそれぞれの時間を過ごしていた。
「ここ来たことある?」
増田さんに聞かれた。僕は素敵なお店だなぁとぼーっとしていたらしい…。
「准くん?」
「あっ!ごめんなさい!すごく素敵なお店だなぁと思って…」
増田さんは少しホッとしたような顔を見せた。
「良かった…。さっ!美味しいもの食べよう!」
「はい!」

白のサングリアを頼んで乾杯した。テーブルの上には生ハムやジャガイモの入ったスペイン風オムレツ、鰯のマリネなどが少しずつ並んでいた。
「美味しい!」
僕が食べている様子を増田さんはうれしそうに見ていた。僕は向かい合って食べている間に、ふと左手に目が行った。すると、増田さんは恥ずかしそうにこう言った。
「俺の左手はね、ちょっと不自由なんだよ」
「あの。痛くはないんですか?」
僕のトンチンカンな問いにちょっとだけ笑った。
「もう痛くはないよ。怪我をしたのはもう10年も前だから…」
「そうなんですか…」
「ごめんね。先に言っておけば良かった…」
「もし、やりづらい事があったら言って下さい!僕が増田さんの左手の代わりになりますから(笑)」
僕の王子様の為なら、幾らでも代わりを務めます!勢い込んで言うと、増田さんは何故か照れていた。
「そんな風に言われると、うれしいね。たいてい気を使われたりしてぎくしゃくしちゃうんだけど…。やっぱり思っていた通りの人だね…」
僕はどんな風に思われてたんだろ?ポカンとしている僕に、増田さんは予想外…そんな言葉ではちょっと表現出来ない…一旦死んで生まれ変わったくらいびっくりするような事を口にした。
「あの…。准くん」
「はい…」
「もし、嫌じゃなかったら」
「?何にも嫌じゃないですよ(笑)」
「…。付き合ってくれないか?」
「…。えっと…どこに?」
増田さんは僕が鈍いことに気付いたらしい。
「あのね。どこかに行く事ではないんだよ?」
「はい…。ん?」
「分かった?」
えっと…。えっ?えっ…えー!
僕は僕が今思ったことが間違いでないことを祈りながら、顔が一瞬で沸騰した。
「あの…。それって」
「准くんが好きなんだ。俺と付き合ってくれないか?」
夢かな?確か一緒にスペイン料理のお店に入って、サングリア飲んでご飯一緒に食べてて…。
「あの…。夢、じゃない…ですか?」
「夢じゃないよ。もちろん」
「僕、増田さんのこと、好きです。でも…」
「でも?」
「きっと増田さんが思ってるような人間じゃない…」
「俺が思ってる人間って?」
僕は…。とても言えない。知られたら絶対に嫌われる…。僕は都合良く体を使われるような人間…。
「准くん?どうかした?顔色悪いよ?」
「僕なんて…。増田さんの隣にいられるような人じゃ…」
増田さんは少し怒ったような顔をした。
「そんな言い方しちゃダメだ。俺は自分の目で見た准くんを好きになったんだよ?何か悩んでるんだろうなとは思っていたよ。元気ないくせに無理して笑ったりね」
僕は隠したまま返事をしてはいけないと思った。
「あの…。多分聞いたら僕のこと軽蔑すると思います…」
一番好きな人に隠し事はしたくない。でも、きっといい結果は望めないだろうな…。僕は誠実な人に、僕なりに誠実に応えようとした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

処理中です...