のっぽの僕とメガネの王子

ハジメユキノ

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不器用な愛

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祐貴は航の左手の怪我の原因を調べていた。
「なんだあいつ、犯人庇ってケガしたのかよ…」

新聞沙汰にもなった、こんな田舎では有名な事件だ。
航は当時、有名な進学校で剣道部の主将を務めていた。その部のマネージャーの女の子が同じく剣道部に所属していた同級生に何度も言い寄られていたのに交際を断り続けていた。業を煮やしたその部員に帰り道待ち伏せされて襲われそうになったが、たまたま通りかかった航達に助けられた。だが、襲った方は厄介なことにナイフを忍ばせていた。
そいつがナイフを取り出したのを見た航が、刃先を握って止めさせたのだ。同じ剣道部の奴を犯罪者にしたくなかったと警察で話したとその新聞記事には書いてあった。

祐貴はそのいきさつに、航には勝てないかもしれないと思ってしまった。それでも、ずっと准の心の中にいたのは自分だったのにという気持ちが消せなかった。
「俺はそれでも准を取り戻したいんだ…」
准を捨てた後、男女問わず付き合ってきたし、特に恋人に不自由することはなかった。黙ってても寄ってくる奴は沢山いたからだ。でも、心を揺さぶられる想いは誰にも感じることが出来なかった。
「俺は…。准はいつでも俺のことを待っててくれてると思ってた。いやだと言っても結局俺を受け入れてくれていたから…」
でも、准は違っていたのか?俺は…。あいつに何にもしてやらなかったもんな。
准を抱いているとき、俺は自分のことしか考えていなかったのか?准がどんな表情を浮かべていたのかさえ思い出せなかった。俺に抱かれている間、条件反射のように硬くして感じていたのか?恋人だった時の記憶が准の躰を反応させていただけだったのか?
抱いた後、いつも俺は准を一人きりにした。抱きしめてそばで眠ってしまったら、今の恋人に戻れなくなりそうだったから。でも、戻ったところで長くは続かなかったのに。
「俺は何やってたんだろうな…」
准は朝起きた時、一人きりで抱かれた事を後悔したのだろうか?
「あんなにはっきり自分の意見を言ったのは、初めて聞いたな…」
祐貴は自分を蔑むように笑った。

「准。おはよ」
航は昨夜あんなに激しく愛し合ったのに、ちゃんと朝稽古に行き、帰ってきて朝ごはんの用意をした。
さすがに起きられなかった准を、朝ごはんだよと起こしに来たのだ。
「ん?航さん?あれ?僕…」
「途中で気を失っちゃったんだよ。可愛かった…」
ハッとして、真っ赤になった。
「ごめんなさい…。もう朝稽古行って帰ってきたの?」
「そうだよ。眠り姫(笑)」
超人…?
「疲れてないの?だって、あんなに…」
「たくさんしたのに?」
准はますます赤くなって言葉を失っていた。
「や!航さん…意地悪だ」
「そうなんだよ。俺は意地悪なの。特に恋人に対しては(笑)」
「💢」
「准を怒らせる天才かも(笑)」
僕は自分がこんなに自然に怒ったり笑ったりしていることにふと気付いた。目の前で笑っているこの人は、僕の中身を丸ごと受け入れてくれてる。
こんなに穏やかで幸せな気持ちをくれたこの人が大好きだと思った。
「ごめん!可愛くてからかいすぎたね」
僕はベッドから抜け出して、航に抱きついた。
「准?」
「どうしてこんなに好きなんだろ…」
航はふふっと笑って僕の肩にあごを乗せて言った。
「俺が准をものすごく愛してるから…でしょ」
「…」
「准?震えてどうした?」
あんなに自分が嫌いだった僕に、こんなに想いを寄せてくれてる…。もし、神様がいるのなら心から感謝したいと思った。この気持ちを絶対に忘れたくないと思った。
「朝から准を泣かせちゃった?」
「僕も…。ものすごく愛してる…んです」
「そっか…」
それきり黙ってしまった航を見ると、首まで真っ赤になっていた。
「照れるね」
そんな航を見たのは初めてだった。
「ほら、着替えて!朝ごはん冷めちゃうよ!」
照れ隠しなのか、僕を部屋に残してキッチンに戻ってしまった。
「あんなに赤くなるなら言わなきゃいいのに(笑)」
言われて嬉しいくせに、僕は一人着替えながら微笑んでいた。

航は准を送り出した後、准に今日も言えなかったと一人頭を抱えていた。
ダイニングにある抽斗に入れっぱなしになった、立派な装丁の写真を持て余していた。
「断ったら多分。ただじゃ済まないな…」
俺が職を失っても、准は俺のそばに居てくれるだろうか?准に触れた自分の唇を指でつまんだ。
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