のっぽの僕とメガネの王子

ハジメユキノ

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ラジオ番組

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『こちらはFM…です。周波数は7…』
風が強くて外に置いていたラジオから途切れ途切れに声が聞こえていた。
「清野さん!床剥がしたらやっぱり下地やり直しだね。ここ腐ってるわ」
「あ~やっぱり?フカフカしてたんだ」
「でも一本直せば良さそうだよ。ここだけ取りかえて…」
『今日は知り合いの○○放送のパーソナリティから聞いた話を…』
ふうん…。僕の町だ。懐かしいな…。
「清野さん!区切りいいから休憩入れようか!」
「はい!僕、コーヒー淹れますね」
ラジオでも聞きながら淹れようかと、キッチンに持ってきた。レストランだったこの店には、奥に立派なキッチンが付いていて、先に使えるように直してあった。
『私、このお話を聞いたとき、今どきこんな純愛があるんだって泣きそうになりました。毎朝、彼の番組にメールをくれるラジオネーム、コウさんのお話です』
おんなじ名前。航さん元気かな。
やかんからシュンシュンと音がし始め、僕は火を止めた。ペーパフィルターをセットしてひいた豆を気持ち多めに入れた。少しだけお湯を注いで粉を膨らませる…。
『毎朝の日課の剣道の稽古は、僕が高校生の頃から一日も欠かしたことがありませんでした。今も毎朝、朝稽古は欠かさないのですが、三日間だけ稽古をしなかった時がありました』
やかんを持ったまま、パーソナリティが話すその話に聞き入っていた。コウさんってまさか…。
『それは、僕の恋人が突然居なくなってしまったからです。僕にはその時、上司からのお見合いの話が来ていて、出世が約束されたものでした。でも僕ははなから受けるつもりはなく、お断りしていました』
えっ?どうして。
『でも僕の恋人は何処かからその話を聞いてしまったようで、僕が幸せになれるようにと消えてしまったんです。僕は仕事を放り出して情報を集め、探偵にも依頼しました。でも、まだ見つかりません』
ラジオから聞こえる聞き心地のいい女性のパーソナリティの声が遠のいていく。
『僕の恋人は美容師です。仲の良い美容師仲間に話した夢を叶えているんじゃないかなと思っています。お店に来られないお年寄りや体の不自由な方達の所へ出向く、出張カットのお店を海の見える丘の上に開いて生き生きと働いてる…。僕はそう願っています』
そんな…。航さんは幸せになってくれてないと困るのに…。
女性パーソナリティは更に話を続けた。
『実はね、このお話には続きがあるんです。最近このお話はパーソナリティのコータさんやリスナーの皆がSNSなんかでも広めてくれていて、結構知られているお話なんですが、コータさんはコウさんが気になって、個人的に会いに行ったそうなんです』
ずっと捜してたの…?
『コウさんが恋人と付き合った期間、たったの三日間だったそうです。でも、お互いにずっと想い合ってたみたいで、周りの人達にはバレバレだったそう。後から知ったそうですが(笑)。コウさんは、お見合いの話はちゃんと断ったし、ずっと一緒にいたいのは君だけなんだっていう証に、指環を買いに行っていたそうなんです』
何で…。僕よりお見合いの方が幸せになれるのに…。
『コータさんにコウさんはこんなことを言ったそうです。重すぎるでしょ?って。コウさんは左手の薬指に恋人にあげようと思っていたのとお揃いの指環をはめて、恥ずかしそうに笑ってたって。コータさんが言うには、コウさん。めっちゃイケメンだったそう…。羨ましすぎる!』
航…。まだ僕を捜して。
『ジュンさん!このラジオ聞いていたら、どこにいても連絡してあげて欲しいです。ジュンさん?欲しいものは欲しいって手を伸ばすことも時には必要なんじゃないかなって私、思います』

呆然とラジオに聴き入っている准の姿を、大工の杉田さんはもしかして…と思って声をかけずに見守っていた。偶然にしては出来過ぎだ。清野さんなら彼がいてもおかしくないもんな…。
「清野さん!コーヒー飲もうか!おふくろがさ、芋けんぴ作ってくれたからさ(笑)コーヒーに合うかな?」
ニコニコしながらタッパーに入れてきた芋けんぴをかかげていた。
「美味しそう!お母さんによろしく言って下さいね」
清野さんがすっきりした顔をしているのに気付いた。一人で泣いているのを偶然見てしまった杉田は、何か事情があるんだろうなとは思っていた。それはこの事だったのかもしれないと思った。ちょっとおせっかいかもしれないが、この優しい人はもっと幸せになってもいいんじゃないかと、コーヒーを飲んだら少しだけ一人で作業しておいてもらおうと考えていた。
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