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海の見える美容院
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准は少しの間だけ航を思い出していた。この海の見える美容院をいつか見せたいなと思いながら、澄み切った青空を眺めていた。
「さっ!あと少しがんばろう!」
鼻に漆喰がくっついているのも気付かず、続きを始めた。良く練ってコテに載せて塗り始めた。塗っている間は、ほんとに無心だった。真っ白な漆喰にいろんな感情も一緒に白く晒されていくような感覚。航が僕を探し続けていたこと。僕の想いが迷惑じゃなかったこと。ずっと好きで会いたかったこと…。
「これが終わったら連絡しようかな…。でも。怖いな…」
一人呟いていると、店の入り口に人の気配を感じた。
杉田さん、忘れものかな?
「杉田さん?何か忘れたんで…」
振り返りながらしゃべりかけようとした。途中で言葉が出てこなくなった。
自分がヒュっと息を呑む音だけが聞こえた。
「准…」
何度も夢に見た愛しい人が目の前に立っていた。僕の名前を口にして。
「あ」
「准!」
航はコテを持った、鼻に漆喰をくっつけた僕を抱きしめていた。少し僕より背の低い航の前髪が揺れていた。
僕はコテを取り落とし、航の背中に手を回そうとした。でも、僕のせいで航が大変な思いをしていた事を思い出し、固まってしまった。
「准…。まだ俺のこと好きでいてくれてる?」
「え?」
「俺の独りよがりなのかなって…」
僕は自分の思ったことが間違いだったと気づいた。航の背中に手を回してしがみついた。
「違う。ずっと、ずっと会いたかった。ずっと好きで諦められなかった…」
顔を上げた航の目からは涙が流れていた。僕は初めて見た愛しい人の涙に、自分のしたことを深く後悔していた。
「ごめんなさい…。でも、僕は航さんが…」
「俺が幸せになれるように、だろ?」
「はい。でも、僕のこと…」
「ずっと捜してた。准は何にも分かってない。俺は君が思ってる以上に君のことが好きだって」
「航さん…」
懐かしい愛しい人の唇の感触を思い出した。嬉しくて、気持ち良くて…。涙が出てくる。二人とも泣いてるから、3年ぶりのキスはしょっぱい味がした。
「准。さやかが教えてくれた通りの店だ(笑)」
航が僕のお店の中にいることが信じられなかった。3年ぶりに会ったはずなのに、ずっと一緒にいたような不思議な感覚に包まれていた。
「海が見える丘の上に建ってる。外観はヨーロッパの田舎にあるような小さなおうちみたいな可愛い美容院…。すごいね。ちゃんと夢を叶えてる。やっぱり俺の大事な人は素敵な人だよ」
僕の大好きな右えくぼをへこませて笑う航の顔は幸せそうだった。航は僕の手をずっと握っていた。もう僕が何処にも行かないように。もう僕の手を二度と離さないでいられるように…。
「俺も手伝っていい?」
「いいの?嬉しいです(笑)」
一緒にコテで壁を塗った。やっぱり航の鼻にも漆喰がくっついた。
「ね、航さん(笑)。鼻に漆喰付いてる(笑)」
鼻を手で拭いながら航は准を見て笑っている。
「何?」
「鏡見てみなよ。ずっと鼻に漆喰付いてるよ(笑)」
「えっ!」
鏡を見て、真っ白な自分の鼻を手で拭った。
「航さんが来たときは?」
「ん?付いてた(笑)」
「💢」
「あっ!眉間にしわ寄せないで(笑)」
ぷりぷりする僕を宥めながらも笑い続けていた。
「んっ」
急にキスしてきた准に航は優しい顔になった。
「なに?」
「何で僕はこの人を手放そうなんて思ったんだろって」
「それはさ、准が優しすぎるからだよ」
航は僕の腰を抱き寄せて、深く口づけた。
「でも。もうダメだよ。俺がもたない」
壁塗りはそろそろ限界かも。航は准を全部確かめたくて仕方なかった。
「さっ!あと少しがんばろう!」
鼻に漆喰がくっついているのも気付かず、続きを始めた。良く練ってコテに載せて塗り始めた。塗っている間は、ほんとに無心だった。真っ白な漆喰にいろんな感情も一緒に白く晒されていくような感覚。航が僕を探し続けていたこと。僕の想いが迷惑じゃなかったこと。ずっと好きで会いたかったこと…。
「これが終わったら連絡しようかな…。でも。怖いな…」
一人呟いていると、店の入り口に人の気配を感じた。
杉田さん、忘れものかな?
「杉田さん?何か忘れたんで…」
振り返りながらしゃべりかけようとした。途中で言葉が出てこなくなった。
自分がヒュっと息を呑む音だけが聞こえた。
「准…」
何度も夢に見た愛しい人が目の前に立っていた。僕の名前を口にして。
「あ」
「准!」
航はコテを持った、鼻に漆喰をくっつけた僕を抱きしめていた。少し僕より背の低い航の前髪が揺れていた。
僕はコテを取り落とし、航の背中に手を回そうとした。でも、僕のせいで航が大変な思いをしていた事を思い出し、固まってしまった。
「准…。まだ俺のこと好きでいてくれてる?」
「え?」
「俺の独りよがりなのかなって…」
僕は自分の思ったことが間違いだったと気づいた。航の背中に手を回してしがみついた。
「違う。ずっと、ずっと会いたかった。ずっと好きで諦められなかった…」
顔を上げた航の目からは涙が流れていた。僕は初めて見た愛しい人の涙に、自分のしたことを深く後悔していた。
「ごめんなさい…。でも、僕は航さんが…」
「俺が幸せになれるように、だろ?」
「はい。でも、僕のこと…」
「ずっと捜してた。准は何にも分かってない。俺は君が思ってる以上に君のことが好きだって」
「航さん…」
懐かしい愛しい人の唇の感触を思い出した。嬉しくて、気持ち良くて…。涙が出てくる。二人とも泣いてるから、3年ぶりのキスはしょっぱい味がした。
「准。さやかが教えてくれた通りの店だ(笑)」
航が僕のお店の中にいることが信じられなかった。3年ぶりに会ったはずなのに、ずっと一緒にいたような不思議な感覚に包まれていた。
「海が見える丘の上に建ってる。外観はヨーロッパの田舎にあるような小さなおうちみたいな可愛い美容院…。すごいね。ちゃんと夢を叶えてる。やっぱり俺の大事な人は素敵な人だよ」
僕の大好きな右えくぼをへこませて笑う航の顔は幸せそうだった。航は僕の手をずっと握っていた。もう僕が何処にも行かないように。もう僕の手を二度と離さないでいられるように…。
「俺も手伝っていい?」
「いいの?嬉しいです(笑)」
一緒にコテで壁を塗った。やっぱり航の鼻にも漆喰がくっついた。
「ね、航さん(笑)。鼻に漆喰付いてる(笑)」
鼻を手で拭いながら航は准を見て笑っている。
「何?」
「鏡見てみなよ。ずっと鼻に漆喰付いてるよ(笑)」
「えっ!」
鏡を見て、真っ白な自分の鼻を手で拭った。
「航さんが来たときは?」
「ん?付いてた(笑)」
「💢」
「あっ!眉間にしわ寄せないで(笑)」
ぷりぷりする僕を宥めながらも笑い続けていた。
「んっ」
急にキスしてきた准に航は優しい顔になった。
「なに?」
「何で僕はこの人を手放そうなんて思ったんだろって」
「それはさ、准が優しすぎるからだよ」
航は僕の腰を抱き寄せて、深く口づけた。
「でも。もうダメだよ。俺がもたない」
壁塗りはそろそろ限界かも。航は准を全部確かめたくて仕方なかった。
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