のっぽの僕とメガネの王子

ハジメユキノ

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優しさが架けた橋

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「すみません!俺、この前お目にかかったコウです」
『おはようございます!コウさん!』
コータさんはちょうど交通情報の時間だったのもあって、電話に出てくれた。
「あの、カーペンターさんの話は…。」
『うん。ジュンさんはコウさんが捜してる准さんだと思います』
「えっ…。それは本当に?」
「カーペンターさんが一緒に写ってる写真を送ってくれたんです。今、送ります。彼の名前は清野准さんと…」
「……」
航は今まで流さなかった涙を抑えることが出来なかった。スマホが震えメールが届いた。添付された写真を開いた。
そこには少し痩せたけれど、元気そうに店の内装を直している准の姿があった。楽しそうに真っ黒になりながら笑っていた。
『コウさん?大丈夫?ジュンさんは…』
コータさんが心配そうな声で聞いた。
『ジュンさんは、コウさんの捜してた恋人?』
航は何も言えないまま電話を握り締めたまま号泣していた。コータさんはしばらくの間、恋人のために吐くように泣く航のことを黙って待っててくれた。
航はしばらくしてようやく涙を拭い、コータさんに答えた。
「…はい。俺がずっと捜していた恋人です…。ほんとに全然手がかりがなくて…。でも、絶対元気でいてくれると信じてた…」
『会いに行ったらどうですか?カーペンターさんのことは僕の知り合いのパーソナリティから教えてもらったんですよ』
「俺、今すぐでも会いたいです。でも…。会ってくれるかな…」
『心配する必要はないんじゃないですか?カーペンターさんによると、准さんは新しく作るお店で隠れて泣いてたって。コウさんに会いたくて泣いてたんじゃないのかな…。コウさん、今日お仕事は?』
「非番です。あの、場所は?」
『伊豆です。最寄駅は…です。実はもう、カーペンターさんはスタンバイ状態なんです。駅に迎えに来てくれるって仰ってくれましたよ。准さんは今日もお店の改装工事に行くそうです。ねっ!絶対大丈夫だよ!行きなよ!』
「はい!」
見ず知らずの俺のためにここまでしてくれる人達がいるなんて…。
取るものも取りあえず航は電車に飛び乗り、まず東京へ向かった。

東京駅の切符売り場で路線図を見上げて、あの日の准を想った。准は多分、あの夜こうして路線図を見上げて行き先を決めたんだろうな。その時の准の決意を思うと涙が出そうになった。俺がちゃんと准に伝えていたら。あの夜何度も電話をしていたら…。准を店まで迎えに行っていたら…。数え切れないほどの「もしも」を考えた。幾つもの夜を一人きりで過ごし、隣に准がいたらなと後悔にさいなまれた。その日々がやっと終わるのか…。准。まだ俺を好きでいてくれる?

………………………………………………………
「だいぶ出来てきたね。あと壁塗り。下地は丁寧にやっといた方がいいよ。仕上がりが違ってくるからさ」
「はい。あの、漆喰をコテで跡をわざと付けて塗りたいんです!手作りな感じがいいし、漆喰なら湿気も調節出来るんですよね?」
「ああ、匂いも吸収してくれるし、静電気が起きないから埃もつきにくいみたいだよ。美容院にも合ってるんじゃないかな?」
「いいですね~!がんばろっ!」
もうすぐ自分のお店が完成するとワクワクしている准に、これからもっと嬉しい出来事が待ってる事は秘密だった。
「あのさ、俺、ちょっと用事あって。清野さん一人で出来そう?」
「はい!大丈夫ですよ!だいたい杉田さんにこんなに手伝ってもらっちゃって申し訳ないくらい(笑)」
「いやいや。もうお袋がうるさいんだよ。早くお店開かせてやってよって(笑)」
「お母さん様々ですね(笑)」
明るく笑うこの人の笑顔がもうすぐ本物になる…。杉田はさっき永野さんからメールを受け取っていた。
『作戦開始ですよ』って。あの満面の笑みが可愛いんだよな…。そんなことより王子様を迎えに行かないとな(笑)
姫?は今、漆喰を鼻にくっつけながら一生懸命壁塗りしてますよ(笑)。誰かが見ていたら一人であの人何ニヤニヤしてるんだろうと不審者扱いだなと思いながら、杉田は駅に軽トラを走らせた。

……………………………………………………………
この駅で待ち合わせによく使われる何だかよく分からないオブジェの前に、写真だけで見たことのあるラジオネームコウさんらしき男性が、緊張した面持ちで地面を見つめていた。
「あの…。コウさんですか?俺、あの」
「あっ!カーペンターさん?俺、増田航と言います」
「俺は大工の杉田です。杉田篤。さっ!行きますか(笑)」
杉田の笑顔は初めて会ったとは思えないくらい人懐っこかった。航は杉田の笑顔を見て、准の周りにはいい人が集まるもんだなと感心していた。

軽トラの助手席で航は杉田に抱いた素朴な疑問を投げかけた。
「あの、杉田さん」
「ん?」
「何で准が俺の捜してる恋人って分かったんですか?」
杉田は少しの間考えていた。おもむろに口を開くとこう言った。
「清野さんはね、すごく優しいんだよね。だいたいお客さんはみんな清野さんのこと好きだよ。うちのお袋なんか、准くんのお陰で毎朝鏡見るのが楽しいってべた褒めだよ(笑)。だから俺、店の改装工事手伝ってやれってお袋に頼まれて、ほぼ無給(笑)。材料費くらいだよ、もらってるの」
そしてその横顔が真面目になった。
「その優しい人がさ、誰にも見られないように隠れて泣いてたんだ。俺、たまたま店に道具忘れて戻ったとき、誰もいない店の前に立って海を見ながら声も出さずに涙を流してた。今まで見たことないくらい、悲しそうな顔でね…」
杉田は思い出すように遠くを見ていた。
「一緒に床直してるとき、ラジオからコウさんの話が流れたんだ。清野さんはね、その時コーヒー淹れてくれてたんだけど、だんだん顔つきが変わってね。苦しそうだったり、泣きそうになってたり…。でも、航さんが指環買って、自分の分を付けながら恋人を探し続けてることを聞いたあと、すっきりした顔をしてたんだ。俺ね、この人はもっと幸せになってもいいんじゃないかと思ったんだよね。だからラジオ局までその足で行って…。で、今に至るというわけ(笑)」
「ありがとうございます。杉田さんが動いてくれたから俺…」
「おい!まだ泣くなよ(笑)」
「泣きませんよ(笑)」
「准くんに会ったら泣いてもいいんじゃね?」
「まあね(笑)」
杉田は笑った。
「清野さんの選んだだけの男だなって思うよ。あんたなら幸せにしてやれるよ」
「ありがとうございます(笑)」
あんたも相当いい男だけどなと思ったが、黙っておくことにした。
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