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現し身(うつしみ)の鏡
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もう嫌だ…。どうして空気のように扱われなくちゃいけないの?
友達と別れ、家に帰る途中で紅葉川というかわいらしい川を橋の欄干から眺めていた。川岸にはすすきが縁取るように生えて、カモ達が我が物顔でガアガア鳴きながら泳いでいた。
「ごはんの事くらいしか考えてないんだろうな…」
猛勉強してやっと入学した憧れの高校で、楽しいハイスクールライフだ!と思っていた矢先、それは起こった。四人で同じ駅から乗って高校まで通学していたのに、ある朝突然、同じクラスの友達が喋ってくれなくなった。
「あたし、何したんだろ…」
新しくクラスで友達が出来て、その子と仲良くなりすぎたから?
「でも、りさだって友達作ってたよね…」
そして、不思議だったのは、一緒に通う友達に聞いても気付いていなかった事だ。
「えっ?喋ってなかった?」
りさのやり方が巧妙なのかな?私が話しかけても絶対返事しないのに、他の子が入ると会話の輪に入ってるでしょう?といった具合に…。りさにとってあたしは空気?
「はぁ…」
ため息をつく私の目に、キラリと光るモノが目に入った。ちょうどガラスが光に反射するような…。
橋を渡り川岸におりると、さっき光った辺りに何か落ちていた。近づいて草の上に落ちているモノを見つめると、それは手のひらにすっぽり収まるくらい、とても小さな手鏡だった。ガラスの鏡ではなく、金属を磨いて作り出した昔の鏡?持ち手も裏面も精巧な彫刻がほどこされている。
「誰かの落とし物?」
名前を書くような代物ではない。とても古い時代のものに見える。そう、貴族のお姫様が使っていたような、本当に古い鏡。
「どうしてこんな所に?」
鏡に自分の姿を映してみると、現代のガラスの鏡とは違うが、それでも驚くほどクリアに顔が映る。自分とはとても思えないくらい美しい顔が…。
「落とし物…。届けなくちゃ」
口から出た言葉とは裏腹に、鏡面から目を離すことが出来ない。
『私はあなたのもの…』
「そうね…。あなたは私のもの…」
美しい私を映す鏡。やっと戻ってきたのね…。
「可南子?帰ってたの?もう!電気くらい付けなさいよ!びっくりするじゃない!」
紅葉川の岸で見つけた鏡を家まで持って帰ってしまった可南子は、母が帰ってきた事に気付かなかった。私を分かってくれるのは、この鏡だけ…。
「可南子?」
名前を呼ばれてやっと自分以外の存在に気付いた。この人は…。
お母さんよ。そして私の名前は可南子。
「あっ、お母さん?」
母である人は笑った。
「何よ。お母さんに決まってるじゃないの。変な子ね(笑)」
朗らかに笑うこの人が可南子のお母さんね。
「ごはんの支度手伝って」
ごはんの支度?やったことないけれど…。
「どうしたの?ボーッとして…」
替わろうか?
いい。やってみる!
「可南子、タマネギ剥いて」
「タマネギ…」
「ほら!タマネギ忘れちゃったの?おかしな子だねぇ。親子丼作るから、剥いたら薄切りにするのよ」
「うすぎり?」
お母さんは心配そうな顔になってきた。このままだと可南子じゃないのがバレてしまう…。
「さっきまで寝てたから…」
「可南子、何かあったの?昼寝なんてしたことないのに…」
お母さんって可南子のこと大事にしてるのね。
そうよ。お母さん、ちょっとうるさいけど大好きなの。
「何にもないよ!タマネギ剥くね、お母さん」
「お願いね、ねぼすけちゃん」
「ねぼすけちゃん?」
「ねぼすけは、ねぼすけよ(笑)」
ねぼすけは起き抜けでボーッとしてしてる子のことなの。かわいいでしょ?
うん!ありがとう。可南子。
何とかタマネギの皮を剥き、危なっかしい手つきで泣きながらスライスした。
「出来ました…」
「あら、いつもより厚いわね(笑)。まぁ、少しだけ長めにおだしで煮ればいいわ」
すごく下手な切り方なのに、この人は全然怒らないのね。
そんな事じゃ怒らないよ(笑)
可南子、お母さんに似てるのね…。
だって親子だもん(笑)
ほんとによく笑うのね(笑)
あなただって笑ってるよ。
あなたじゃないわ。私は…。
私は?
思い出せない…。ずいぶん前にあの人が呼んでくれた名前があったはずなのに…。
あの人って?
…。私が慕ってた人。
慕ってたって…。好きな人?
えっ!
慕うって今なかなか言わないけど、恋しいって言うのが近いのかな?
恋しい…。あの人は今どこにいるんだろう。
明日から一緒に探そうか?
可南子…。あなたの中に勝手に入ったのに、何とか追い出そうとするものなのよ。普通は…。
追い出すって…。あなたは私に悪いことするようには思えなかったから…。
可南子は変わってる(笑)普通は怯えるのよ。
だって怖くないもん。それより名前、付けようよ!
じゃあ可南子がつけて?
ん?そうねぇ…。そう言えばこの前竹取物語習ったとき、瑠璃色の何とかって…。あれ?何だっけ?
瑠璃色の水かしら…。
じゃあその綺麗な青色の名前。瑠璃にしよう!
瑠璃…。そんな美しい名前を私に?
きっとあなたは綺麗だと思うの。鏡に映った私があんなに綺麗に見えるんだから(笑)
可南子は綺麗だよ?
あはは!ありがと(笑)
ほんとなのに…。
可南子は瑠璃に体を乗っ取られた状態なのだが、最初に瑠璃が入ってきたとき、何故か前に会ったことがあると感じていた。何の根拠もなく、ただ懐かしいと。だからか、瑠璃が前面に出ていて思うように動けなくても、怖いというよりも守られているような気持ちだった。とても頼もしい友達が一緒にいてくれるような…。
瑠璃は可南子の心に弱った隙間を見つけて、利用しようと入り込んだ。瑠璃はこうして何度もいろんな人間に入り込み、利用し続けていた。その人の心の壊れそうな所に寄り添うふりをして、自分に依存させる。そして心を操り、遂にはあの世に連れていくのだ。誰もが喜んで命を捧げる。自らの意思で瑠璃と共にあの世へ行くことを決めたと思ったまま…。
瑠璃がそうして心の弱った人間をあの世へ送り込むのは、瑠璃がこの世にとどまりたいからだった。遠い昔に離ればなれになったあの人に会うために。百年に一度そうして送り込み、その後の百年あの人を探し続けた。でも、どうしても見つけられなかった。そしてこの年がその百年目だった。生け贄として選んだのが可南子だった。
でも、瑠璃は迷い始めていた。私は可南子をあの世に連れていくの?
友達と別れ、家に帰る途中で紅葉川というかわいらしい川を橋の欄干から眺めていた。川岸にはすすきが縁取るように生えて、カモ達が我が物顔でガアガア鳴きながら泳いでいた。
「ごはんの事くらいしか考えてないんだろうな…」
猛勉強してやっと入学した憧れの高校で、楽しいハイスクールライフだ!と思っていた矢先、それは起こった。四人で同じ駅から乗って高校まで通学していたのに、ある朝突然、同じクラスの友達が喋ってくれなくなった。
「あたし、何したんだろ…」
新しくクラスで友達が出来て、その子と仲良くなりすぎたから?
「でも、りさだって友達作ってたよね…」
そして、不思議だったのは、一緒に通う友達に聞いても気付いていなかった事だ。
「えっ?喋ってなかった?」
りさのやり方が巧妙なのかな?私が話しかけても絶対返事しないのに、他の子が入ると会話の輪に入ってるでしょう?といった具合に…。りさにとってあたしは空気?
「はぁ…」
ため息をつく私の目に、キラリと光るモノが目に入った。ちょうどガラスが光に反射するような…。
橋を渡り川岸におりると、さっき光った辺りに何か落ちていた。近づいて草の上に落ちているモノを見つめると、それは手のひらにすっぽり収まるくらい、とても小さな手鏡だった。ガラスの鏡ではなく、金属を磨いて作り出した昔の鏡?持ち手も裏面も精巧な彫刻がほどこされている。
「誰かの落とし物?」
名前を書くような代物ではない。とても古い時代のものに見える。そう、貴族のお姫様が使っていたような、本当に古い鏡。
「どうしてこんな所に?」
鏡に自分の姿を映してみると、現代のガラスの鏡とは違うが、それでも驚くほどクリアに顔が映る。自分とはとても思えないくらい美しい顔が…。
「落とし物…。届けなくちゃ」
口から出た言葉とは裏腹に、鏡面から目を離すことが出来ない。
『私はあなたのもの…』
「そうね…。あなたは私のもの…」
美しい私を映す鏡。やっと戻ってきたのね…。
「可南子?帰ってたの?もう!電気くらい付けなさいよ!びっくりするじゃない!」
紅葉川の岸で見つけた鏡を家まで持って帰ってしまった可南子は、母が帰ってきた事に気付かなかった。私を分かってくれるのは、この鏡だけ…。
「可南子?」
名前を呼ばれてやっと自分以外の存在に気付いた。この人は…。
お母さんよ。そして私の名前は可南子。
「あっ、お母さん?」
母である人は笑った。
「何よ。お母さんに決まってるじゃないの。変な子ね(笑)」
朗らかに笑うこの人が可南子のお母さんね。
「ごはんの支度手伝って」
ごはんの支度?やったことないけれど…。
「どうしたの?ボーッとして…」
替わろうか?
いい。やってみる!
「可南子、タマネギ剥いて」
「タマネギ…」
「ほら!タマネギ忘れちゃったの?おかしな子だねぇ。親子丼作るから、剥いたら薄切りにするのよ」
「うすぎり?」
お母さんは心配そうな顔になってきた。このままだと可南子じゃないのがバレてしまう…。
「さっきまで寝てたから…」
「可南子、何かあったの?昼寝なんてしたことないのに…」
お母さんって可南子のこと大事にしてるのね。
そうよ。お母さん、ちょっとうるさいけど大好きなの。
「何にもないよ!タマネギ剥くね、お母さん」
「お願いね、ねぼすけちゃん」
「ねぼすけちゃん?」
「ねぼすけは、ねぼすけよ(笑)」
ねぼすけは起き抜けでボーッとしてしてる子のことなの。かわいいでしょ?
うん!ありがとう。可南子。
何とかタマネギの皮を剥き、危なっかしい手つきで泣きながらスライスした。
「出来ました…」
「あら、いつもより厚いわね(笑)。まぁ、少しだけ長めにおだしで煮ればいいわ」
すごく下手な切り方なのに、この人は全然怒らないのね。
そんな事じゃ怒らないよ(笑)
可南子、お母さんに似てるのね…。
だって親子だもん(笑)
ほんとによく笑うのね(笑)
あなただって笑ってるよ。
あなたじゃないわ。私は…。
私は?
思い出せない…。ずいぶん前にあの人が呼んでくれた名前があったはずなのに…。
あの人って?
…。私が慕ってた人。
慕ってたって…。好きな人?
えっ!
慕うって今なかなか言わないけど、恋しいって言うのが近いのかな?
恋しい…。あの人は今どこにいるんだろう。
明日から一緒に探そうか?
可南子…。あなたの中に勝手に入ったのに、何とか追い出そうとするものなのよ。普通は…。
追い出すって…。あなたは私に悪いことするようには思えなかったから…。
可南子は変わってる(笑)普通は怯えるのよ。
だって怖くないもん。それより名前、付けようよ!
じゃあ可南子がつけて?
ん?そうねぇ…。そう言えばこの前竹取物語習ったとき、瑠璃色の何とかって…。あれ?何だっけ?
瑠璃色の水かしら…。
じゃあその綺麗な青色の名前。瑠璃にしよう!
瑠璃…。そんな美しい名前を私に?
きっとあなたは綺麗だと思うの。鏡に映った私があんなに綺麗に見えるんだから(笑)
可南子は綺麗だよ?
あはは!ありがと(笑)
ほんとなのに…。
可南子は瑠璃に体を乗っ取られた状態なのだが、最初に瑠璃が入ってきたとき、何故か前に会ったことがあると感じていた。何の根拠もなく、ただ懐かしいと。だからか、瑠璃が前面に出ていて思うように動けなくても、怖いというよりも守られているような気持ちだった。とても頼もしい友達が一緒にいてくれるような…。
瑠璃は可南子の心に弱った隙間を見つけて、利用しようと入り込んだ。瑠璃はこうして何度もいろんな人間に入り込み、利用し続けていた。その人の心の壊れそうな所に寄り添うふりをして、自分に依存させる。そして心を操り、遂にはあの世に連れていくのだ。誰もが喜んで命を捧げる。自らの意思で瑠璃と共にあの世へ行くことを決めたと思ったまま…。
瑠璃がそうして心の弱った人間をあの世へ送り込むのは、瑠璃がこの世にとどまりたいからだった。遠い昔に離ればなれになったあの人に会うために。百年に一度そうして送り込み、その後の百年あの人を探し続けた。でも、どうしても見つけられなかった。そしてこの年がその百年目だった。生け贄として選んだのが可南子だった。
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