僕の背中

ハジメユキノ

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翳る月②

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「秀人いるかな?」

りゅう建築設計事務所にやって来たのは、智也より少し背の高いひと。面差しは優しく、ちょうど智也を少し老けさせたような、結構格好いい部類の男性だった。後ろ手にバラの花束を持っている。
事務所スタッフの小林は、最初智也が来たのかと思ったくらい。でも、智也にはない鋭さみたいなものを感じ、一瞬固まった。

「あの…失礼ですが、どちら様ですか?」
「聞いていない?俺が来るって……。」

知っていて当然位の態度に、ちょっとだけ眉をひそめた。

「申し訳ありません。隆からは聞いておりませんでした。お名前お伺い出来ますか?」

すると、ちょっと不満そうに鼻を鳴らし、ボソボソと名前を言った。

「片桐です。片桐柊生しゅう。」
「片桐様ですね。少々お待ち下さい。」

小林が所長室に居る隆に声をかけると、顔を上げて微笑んだ。

「どうしたの?小林くん。怖い顔して。」
「いえ……。あの、お知り合いの方だと思うんですが、片桐様という方がお見えになってます。」
「片桐……。柊生かな?」
「ええ。そう名乗られました。」

隆はいつになく硬い表情の小林が気になりつつも、わざわざ事務所まで来てくれた昔の友人を待たせるのも悪いと思い部屋を出た。

「やあ!片桐。久しぶりだね。来てくれたんだ!」
「秀人…おめでとう!びっくりしたよ。すごい賞を獲ったんだって?」

先程の不満そうな表情はどこへやら……。小林はあまりの態度の差を見て、ちょっとだけ不快な気分になっていた。

+++

「これ、よかったら……。珍しいだろ?ちょっとシックな感じで綺麗だったから……。」

片桐が持ってきたのは、赤より少しくすんだ色味の薔薇だった。

「へぇ…。黒薔薇かな?綺麗だね(笑)」
「秀人に似合うと思ってさ(笑)」

小林はデスクに向かって図面を引きながらも、片桐が隆を名前で連呼するのが気になって仕方なかった。
何か…ちょっと馴れ馴れしいような。

「ねぇ。今日さ、夜時間ないかな?よかったら一緒に食事でもどうかなって思ってさ(笑)」
「あぁ……。じゃあ、ちょっと聞いてみるね?」
「聞くって誰に?秀人、結婚してたっけ?」
「結婚って言うか……。パートナーがいるんだ。だから、夜ご飯の用意しちゃうと悪いからさ。」

ネットでもちょっと話題になったんだから……ホントは知ってて言ってるんじゃないのかな、この人。
小林は自分のことじゃないけれど、この片桐という男に何か不穏なものを感じていた。

***

「智也?僕です。」
『ん?珍しいね。まだ仕事中でしょ?どうしたの?』
「あのね、日曜日に電話かけてきた大学時代の友人がさ、今日の夜食事でもって誘ってきて……。」
『もしかしてその人……事務所に来たの?』
「今ね、事務所に花束持ってお祝いに来てくれたんだよ。」

ちょっと間が空いた。

「智也?」
『いいよ。今日、俺も忙しくなりそうだから……。食べてきなよ。積もる話もあるんでしょ?』
「まぁ…でも、随分久しぶりだからね。昔の話になるだろうね。」
『楽しんできて?』
「うん、ありがとう。なるべく遅くならないようにするね。」
『じゃあ…気をつけて。』
「智也も仕事頑張ってね(笑)」
『はい…じゃあね。』

いつもならもっと名残惜しそうに切るのに、何だか少し切るのが早かったような……。
日曜日の電話の時の智也を思いだした。少しむくれた可愛い智也。

「何にも心配いらないよ。僕は智也が一番大事なんだから……。」

一人呟くと秀人はかつて淡い想いを抱いた片桐を見た。片桐は電話をしていた秀人を見ていたのか、一瞬だけ目を鋭く光らせた。でも、鋭さはすぐに引っ込み、柔らかな笑顔を向けた。

「大丈夫だった?パートナーの人。」
「良い子だからね。楽しんできてって(笑)」
「そう……。じゃあ、お言葉に甘えて楽しんできますか(笑)」

###

わざわざパートナーの人って言ったよな……。
小林は片桐の第一印象があまり良くなかったからか、どうしても言葉尻を捕らえようとしている自分が居て苦笑した。

「でも…何か。」
「でも…どうした?」

隣のデスクの高橋が怪訝そうに俺を見ていた。

「いや……なんかあの人。言い方悪いけど……。」
「感じ悪い?」
「う、うん……。何がどうってわけじゃないんだけど……。」
「俺も少し思った。顔立ちは智也さんに似てるけど……。雰囲気はまるで違うな。」

そう。何だか…俺はこいつと親友なんだぜってひけらかしているような感じ?

「大丈夫かな、隆先生……。」
「大丈夫だよ(笑)。だって先生ザルだもん(笑)」

だと良いんだけど……。
小林はこの片桐という男が、隆と智也さんの仲に割り込もうとしているように思えてならなかった。だから、いくら飲んでも酔わないザルの先生だからこそ、友人だと思って接している優しい先生だからこそ、油断しちゃうんじゃないかと心配になった。
それに、お祝いに黒薔薇って……。確か花言葉はあんまり良くなかったような……。

「なんか心配だな。俺、こっそり付いてっちゃおうかな……。」
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