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二人
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周作はこの前初めてハルの父親を見た。雪を職場に迎えに行ったとき、外で雪を待っていた。雪の様子がおかしかったから自分の後ろに隠したが、直感でこの人が雪がかつて愛した男だと分かった。思い描いていたのは傲慢で自信家な男だったが、柔らかな印象で驚いた。確証はないが、この人が探偵を雇って雪をストーキングさせたのか?警察官としての自分の直感が揺らぐほど、印象が優しかった。
雪は自分の許しを得て男性と話した。離れていたので詳しい内容までは聞こえなかったが、雪は怯える様子もなく落ち着いていた。その落ち着きの元が俺であったなら、これほど嬉しいことはないと思っていた。
雪はほんの数分話すと、会釈をして俺の元に走って帰ってきた。その場で抱きしめたかったが、雪の手を握り締め、俺のものだと、雪を絶対に離さないと強く思った。
雪と一緒に頭を下げると、男性は深々と一礼した。心からの謝罪の一礼だった。それほど彼はハルを一人で産んで育てさせてしまったことを後悔しているんだろうと思った。
それでもやはり、俺は彼が許せなかった。雪をひとりぼっちにしても全然心にも留めず、探すどころか他にもたくさんの愛人を作り、自分の妻さえ大事にしなかった。その報いはもう既に受けているが、それは彼自身の問題だ。雪がハルを一人で産んで育てた事実は消えない。同じ男として、受け入れがたい人間だった。
はぁと深いため息をつくと、いつの間にか後ろに加戸が立っていた。
「おっ!倦怠期か?」
加戸が周作をからかった。
「ないよ、ラブラブだ!」
「出た!バカップル」
「💢」
加戸がゲラゲラ笑い、俺はむすっとしていた。
「嘘だよ。本気にすんなよ」
「知ってる(笑)」
加戸はこう見えて、よく人の様子を見ている。俺にだけでなく、他の人にも優しい男だ。
「なんか最近お前おかしいぞ」
加戸には隠し事が出来ない…。よく見てるな、しかし。
「ん~?そうか?」
「何かあったんだろう?お前は他の人より分かりやすいからな…」
「人を単純扱いすんなよ」
「単純バカだからな(笑)」
「帰り少し時間くれ」
加戸は軽い感じでOK!とヒラヒラ手を振って自分の課に戻っていった。
周作は雪に加戸と少し飲んでくると連絡すると、ゆっくりしてきてと逆に優しい返事が返ってきた。じゃあお言葉に甘えてのんびり飲んでくるねと返した。
「久々だな。一緒に飲むの」
加戸が嬉しそうに生ビールを喉を鳴らして飲んでいた。
「お前だって、かみさん命だからあんま飲み行かなかったろ?」
「…。だってさ、早く帰って顔見たいんだよ」
「甘い…」
「お前だってそうだろ?」
「おっしゃるとおり(笑)」
二人は顔を見合わせて笑った。
「ところで、周作。お前どうしたんだ?」
「ん。うん…。じつはな」
「なんだ?重い話か?」
「重いっちゃ重いな」
加戸は周作に向き直った、
「もう茶化さないから話せ」
周作はぽつりぽつりと話し始めた。
「この前、雪の職場に迎えに行ったら、ハルの実の父親が来てたんだ」
「えっ?」
「雪に謝りたいって言うから、俺はイヤだったけど雪は優しいから謝罪を受け入れて話は終わった」
「それだけか?」
「ああ」
加戸は考え込むような様子を見せた。
「かみさんのストーカーは探偵だったんだろ?」
「そうだよ」
「依頼者はその男か?」
「確信はないが、たぶん…。今は何も起きていないからまだいいけどな」
「ハルは知ってるのか?」
「いや、まだ言ってない。雪がどうしたいかも聞いてはいない」
「そうか」
加戸は黙って残ったビールを飲み干した。
「一人で考えても仕方ないだろうな。かみさんに聞いてみろよ。案外すんなりお前の悩みは解決するかもな」
「そうか?」
「お前のかみさんはお前を大事にしてるんだろ?」
「そうだと思う。この前もすぐ俺の元に走って帰ってきた」
「会ったことあるから分かるけど、お前のかみさんはすごく優しいひとだよな。彼女の中ではもう終わった話だろう。お前のお腹の中もお見通しだと思うぞ。かみさんと話せ。ハルには、会うかどうかは選ぶ権利がある」
「彼は会いたいとは言わなかったようだが」
「そりゃ言えないだろ。でも、ハルには会う権利も会わない権利もある」
「…。やだよ俺。ハルは俺の息子だ。俺はあいつが大好きなんだ」
「それはハルだっておなじだろ?お前はすごく二人を大事にしてる。それは分かってるはずだ。だから、お前はステップファーザーとして息子に選ばせてやれるし、会うと言ったとしてもどっしり構えて帰りを待ってやれ」
「…。やだなあ」
「自信持てよ。お前はハルの父親だぞ。継父だろうがお前がほんとの父親だ」
「…分かったよ。負けない自信はある。俺は二人とも愛してるからな」
加戸は満面の笑みで、
「よし、飲もうぜ!」
「だな!」
二人は次の日使い物にならないくらい飲み明かした。
雪は自分の許しを得て男性と話した。離れていたので詳しい内容までは聞こえなかったが、雪は怯える様子もなく落ち着いていた。その落ち着きの元が俺であったなら、これほど嬉しいことはないと思っていた。
雪はほんの数分話すと、会釈をして俺の元に走って帰ってきた。その場で抱きしめたかったが、雪の手を握り締め、俺のものだと、雪を絶対に離さないと強く思った。
雪と一緒に頭を下げると、男性は深々と一礼した。心からの謝罪の一礼だった。それほど彼はハルを一人で産んで育てさせてしまったことを後悔しているんだろうと思った。
それでもやはり、俺は彼が許せなかった。雪をひとりぼっちにしても全然心にも留めず、探すどころか他にもたくさんの愛人を作り、自分の妻さえ大事にしなかった。その報いはもう既に受けているが、それは彼自身の問題だ。雪がハルを一人で産んで育てた事実は消えない。同じ男として、受け入れがたい人間だった。
はぁと深いため息をつくと、いつの間にか後ろに加戸が立っていた。
「おっ!倦怠期か?」
加戸が周作をからかった。
「ないよ、ラブラブだ!」
「出た!バカップル」
「💢」
加戸がゲラゲラ笑い、俺はむすっとしていた。
「嘘だよ。本気にすんなよ」
「知ってる(笑)」
加戸はこう見えて、よく人の様子を見ている。俺にだけでなく、他の人にも優しい男だ。
「なんか最近お前おかしいぞ」
加戸には隠し事が出来ない…。よく見てるな、しかし。
「ん~?そうか?」
「何かあったんだろう?お前は他の人より分かりやすいからな…」
「人を単純扱いすんなよ」
「単純バカだからな(笑)」
「帰り少し時間くれ」
加戸は軽い感じでOK!とヒラヒラ手を振って自分の課に戻っていった。
周作は雪に加戸と少し飲んでくると連絡すると、ゆっくりしてきてと逆に優しい返事が返ってきた。じゃあお言葉に甘えてのんびり飲んでくるねと返した。
「久々だな。一緒に飲むの」
加戸が嬉しそうに生ビールを喉を鳴らして飲んでいた。
「お前だって、かみさん命だからあんま飲み行かなかったろ?」
「…。だってさ、早く帰って顔見たいんだよ」
「甘い…」
「お前だってそうだろ?」
「おっしゃるとおり(笑)」
二人は顔を見合わせて笑った。
「ところで、周作。お前どうしたんだ?」
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「なんだ?重い話か?」
「重いっちゃ重いな」
加戸は周作に向き直った、
「もう茶化さないから話せ」
周作はぽつりぽつりと話し始めた。
「この前、雪の職場に迎えに行ったら、ハルの実の父親が来てたんだ」
「えっ?」
「雪に謝りたいって言うから、俺はイヤだったけど雪は優しいから謝罪を受け入れて話は終わった」
「それだけか?」
「ああ」
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「いや、まだ言ってない。雪がどうしたいかも聞いてはいない」
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