パーティーを追放されてもふもふを拾ったら魔王に溺愛されました

吉桜美貴

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本編

27. こうして、二年ほど経った頃

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 こうして、二年ほど経った頃。
 ヴィアゴとともに術を研究する日々は唐突に終わりを告げた。
 ある日を境に、ヴィアゴがぱったり姿を見せなくなったのだ。
 またいつもの気まぐれか、と最初は思っていた。ヴィアゴは遠い村の自宅でも論文を書いていて、没頭すると時間を忘れ、あっという間に数日経っていた、なんてことがよくある。
 そんなときはいつも大汗を掻きながら手土産を持って城に戻ってきて、「遅れてすまん」と平謝りするのだ。
 それに、ヴィアゴはああ見えて家族や親戚を大切にしている。しばらく姿を見せないと思ったら、従兄弟の結婚式に参列するため王都に行ってただの、兄夫婦に子供が産まれたから祝いにいっただの、そんなこともよくあった。
 本人いわく「僕が変人だから、家族や親戚にはお世話になっているし、感謝しているんだ。せめてお祝いぐらいはしなくては」だそうで、根暗だが心優しい男なのである。
 そんなわけで、デスアトラムはいつも通り独りで過ごしていた。
 が、一か月を過ぎても音沙汰がないとさすがに気になってくる。
 デスアトラムの城を訪れる者はおらず、近隣の集落の情報さえ入ってこない。
 人間界のニュースをもたらしてくれるのはヴィアゴだけだ。
 ヴィアゴの奴、なにかあったんだろうか?
 病にでも倒れたか……?
 人間を心配するような柄ではないが、ヴィアゴは別だ。彼がいないと術研究が進まない。いくつか聞いてほしい合成術のアイデアもあるし、新たに開発した術の試し撃ちも見てもらいたい。
 城でやきもきしていても仕方ないので、デスアトラムはヴィアゴの住む遠い村まで様子を見にいくことにした。
 闇術を見られないよう、最寄りの森まで影渡りで飛び、そこで幻術を使ってツノを隠す。旅人を装って村に入り、ヴィアゴの家を訪ねた。
 ヴィアゴはすでに処刑されていた。
 魔物憑きの嫌疑をかけられ、裁判で有罪になり、火あぶりにされたらしい。
「あんた旅人だろ? 悪いこたぁ言わないから、ヴィアゴなんかに関わらないほうがいい」
 そう耳打ちしてきたのは、ヴィアゴの家を教えてくれた農婦だった。
「あの人はちょっと……。詳しくは言えないが、人の道を踏み外したのさ。あ~嫌だ嫌だ。その名を口にするのもおぞましいよ。とにかく一刻も早く村を出なさい」
 農婦の顔には軽蔑と恐怖の色が浮かんでいた。
 農婦の助言を無視し、ヴィアゴの家に行くと、玄関扉に黒いすすでシンボルがでかでかと描かれていた。魔物憑きと断定された家に印される、二重円の内側に逆三角形……共同体に潜む異常者を意味する。見せしめである。
 我のせいなんだろう、とデスアトラムは察した。魔族の城に出入りしていることを知られたに違いない。そして通報され、捕縛され、処刑された、と。
 ヴィアゴが魔物と契約し、人類に仇なそうとしていたなどというのはまったくの論外だ。それどころか、人類の進歩を促し、文明の発展に貢献しようとしていた。術を研究し、魔力の謎を解明することで、より安全で便利な社会を築こうとしていたのだ。
 ヴィアゴが魔物憑き? なんと愚かな……
 ヴィアゴらしい、小さな慎ましい一軒家だ。中に入ると、デスクの上の飲み物やペンや書きかけのメモがそのまま残されていた。急に尋問官が来て連行され、家に帰ることなく処刑されたんだろう。
 デスアトラムに助けを乞う暇もなかったに違いない。
「なるほどな……」
――心を病んでいるか、差別されている社会的弱者か、王権の連中を敵に回したかのどれかなんだ。
 ヴィアゴの言葉が思い出される。君はきっと王権を敵に回したんだろうな。
 心を病んだ者、弱き者が癒やされることなく裁かれ……
「そして、無垢な者も処刑される世の中か」
 独り言は虚しく室内に響く。
 人間界の動静や栄枯に興味はない。誰が死のうが生きようが関係ない。
 まったく関係ないはずなのだが……
 名状しがたい感情を噛みしめていると、背後の扉がバァンッと勢いよく開いた。
 振り返って見ると、武装した一団が玄関口に立っている。
魔憑尋問官まひょうじんもんかんである。怪しい余所者よそものがうろついていると、村人から通報があった。貴様、何者だ? ここでなにをしている?」
 リーダー格らしき口髭の男が偉そうに言う。
 答える義理もないため、無視した。
 部屋を見回すと、椅子の背もたれにヴィアゴがいつも被っていた帽子が引っ掛けられている。フェルト製の羽根つき帽子だ。
 ヴィアゴは流行りや服装に微塵みじんも興味のない男だったが、いつも寝癖だけは気にしていて、帽子を被ると隠せるから便利だ、などと言っていたっけ。
――君のほうがよっぽどお洒落だよ、アトラ。君はいつも上品な服を身につけていて、センスがいいなぁ。うらやましいよ。
 思わず帽子を手に取ると、懐かしさが込み上げる。
 同時に、お気に入りの帽子を被る余裕もなかったぐらい、無理やり連れ去られたのだと察した。
「なぜ無視する? 質問に答えろっ!」
 口髭の男が怒鳴る。
 ひたすら無視していると、口髭の男が合図し、一団は一斉に剣を抜いた。
「貴様っ、さては魔物憑きかっ! ヴィアゴの仲間だな?」
 口髭の男に詰め寄られ、デスアトラムは睨み返す。
「……だったら何だ? 我を捕縛して処刑するとでもいうのか?」
 口髭の男はニヤリとした。
「ほう、やはりヴィアゴの仲間か。残念ながら、あの魔物憑きは神の名の下、正義の裁きを受けた」
 デスアトラムは天を仰ぎ、まぶたを閉じた。
 ヴィアゴよ。
 君は誰も傷つけなかったし、誰も裁かなかった。
 我に対しても礼儀正しく、優しかったな。ひたむきに術の研究に邁進まいしんし、無心で己の魂を磨き続けることこそが、君の正義だった。
 生前は言えなかったが、君の生き様に感服するよ、ヴィアゴ。人間の中で唯一、君だけに心から共感できる。
「神の意志に従い、神殿の命により、貴様を連行する。さぁ、正義の裁きを受けてもらおう」
 デスアトラムの喉元に剣先が突きつけられる。
「正義だと……? 愚かな。我を攻撃する時点で、偽が透けているわ!」
 デスアトラムが吐き捨てると、口髭の男は顔色を変えた。
「貴様、魔憑尋問官に逆らうのか! 神に対する冒涜ぼうとくだぞっ!」
 ……知るか。
 デスアトラムはうしろへステップし、二本指をすっと立てる。
 普段は無詠唱なのだが、今回は術の効果を確実なものにし、限界まで高める必要があった。
 こやつらだけではない。神殿の奴ら、ヴィアゴを密告した奴ら、そして、すべて見て見ぬ振りをし、傍観した者共も同罪……
「死と暗黒を支配する、冥府の神ザデスよ。我が怒りの慟哭どうこくを聞き、滅びの力を授けたまえ。汝が名の下、奈落の門を開き、世界に終焉をもたらせ……」
 精神の集中が高まり、視界がだんだん暗くなっていく。血液とともに魔力がすごい勢いで全身をめぐる。怒りと憎しみに支配され、自分の血液が黒々と染め上げられていくようだ。
 許せぬ……。憎らしい……
 遠くで叫んでいる声が聞こえたが、もうなにもわからない。
「汝の闇、全てを呑み込みし爆裂となり、天を震わせ、地を裂き、すべてを焼き尽くせ」
 両手の指先だけ触れ合わせ、手のひらを地の底へ向ける。
 かつてないほどの魔力を集め、放った。
 ……全員死ねっ!
冥焔爆裂イグニス・テネブリス・デストルオッ!」
 真っ白な閃光。
 そして、無音。
 そのあと、視界は暗転する。
 時が止まったかのように、すべては無に帰した。

   ◇ ◇ ◇

 同日、同時刻。
 村の周辺を移動中だった複数の術師たちが、強大な魔力の発動を検知。
 そのうちの一人、冒険者が偵察に行ったところ、そこにあったはずの集落が跡形もなく消え去っていた。
 爆心地に一人の若い男が立っていたのを目視したが、交戦は不利と判断し、早々に撤退した。
 男はなぜか羽根つき帽子を手にしていたという。
 この男はまもなく行方をくらましてしまう。
 人間界ではのちに『魔焔まえん焦土しょうど』と呼ばれるこの事件は、一人の魔族の男の手によって村が壊滅した惨劇である。動機も経緯も不明だ。
 男の名は、デスアトラム。
 デスアトラムは魔焔の焦土事件を境に賞金首となり、人々から「魔王」と呼ばれ、恐れられるようになった。
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