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本編
30. 和平の使者は
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和平の使者は「アウロス」と名乗り、二人の従者を連れていた。
一人は屈強な戦士。もう一人は火術師だ。いずれも腕はまあまあだが、暇つぶしにもならないだろう、というのがデスアトラムの率直な感想だった。術師は魔力が弱すぎるし、戦士は術対策をしてなさすぎる。
案内された洞窟の奥に足を踏み入れた瞬間、やはり謀られたか、とデスアトラムは悟った。
とっさに魔力を全解放し、冥焔爆裂で洞窟ごと吹き飛ばそうとした。アウロスと戦士と術師もろとも。
だが、わずかに罠の魔法陣の発動のほうが早かった。
ビシッ! と、己の魔力が無効化されたのがわかった。まるでこの場が凍てついたような感覚。
罠だとは知っていたが……極反魔顛石か。これはまずいかもしれん……
デスアトラムの思考は瞬時に分析と離脱へと切り替わる。
唯一の誤算は古代遺物の存在だ。交渉材料として提示された「王家の所有する遺物」が、まさか魔力を逆転させる、極反魔顛石だったとは……
極反魔顛石の効果は石の範囲内にいる者の魔力を逆転させる……強き者は弱く、弱き者は強くなる。つまり、デスアトラムの強大な魔力はほぼゼロになり、術を使えない戦士の魔力は無限大になる。
魔力が無限大になったとて、使う術《すべ》を知らなければ脅威ではない。このトラップの目的はデスアトラムを無力化させることだ。
もちろん和平交渉は嘘である。遺物が封印された地へ案内するという話も嘘。封印を解いて遺物を譲り渡す約束も嘘。
すべてトラップを仕掛けた場所へ誘導するための嘘だ。
すでに勇者と戦士は鞘から剣を抜き、火術師の女は詠唱を始めている。
離脱できずに死ぬ確率が七五パーセント、離脱できても死ぬ確率が二〇パーセント、離脱も生存も成功するのは五パーセント、といったところか。
デスアトラムも腰の長剣をすらりと抜き、片手上段に構える。剣術は得意ではないが、こんな薄汚い策を弄する青二才に屈するほど脆弱ではない。眼球だけ動かし、退路への動線と勇者と戦士の位置を確認し、火術の詠唱を把握した。
……いや。我の腕を一本犠牲にすれば、八パーセントぐらいにはなるか?
「魔王デスアトラム! 神の正義の名において貴様を討つ! これは王命であり、人類の希望を守るためであり、世界の願いだ!」
アウロスが声高に宣言し、戦士と共に襲いかかってきた。
この、腐れ外道がっ……!
ぶん回された戦士の剣を、腰を屈めてかわし、振り下ろされた勇者の刃を、渾身の力で弾き返す。
ガッキィンッ!
金属音が洞窟内に反響し、勇者は尻もちをついた。
反動で振り上がった剣で、そのまま勇者の頭蓋を叩き割ろうとした、そのとき。
「炎蛇縛鎖ッ!」
火術師の甲高い声とともに、真横から燃え盛る炎の蛇が螺旋を描きながら迫り来た。
これは灼熱の炎の縄で敵を縛り上げ、自由を奪う、高位火術だ。極反魔顛石のせいでとんでもない威力になっている。
恐らく予行演習を重ね、魔力量を調整してきたんだろう。火術師の魔力が非常に弱かったのは、石の反転により大きな魔力を得るためだ。
デスアトラムは体を傾け、剣を握っていないほうの左腕を突き出し、炎の蛇をうまく巻き取ることに成功した。当然ながら左腕は全焼し、肉の焦げる異臭が鼻を突く。
「うぐっ……!」
……熱い。
が、仕方ない。全身を縛られて焼かれるよりマシだ。
炎蛇縛鎖はうまく扱えばダメージを抑えられる。片腕か、片足かのどちらかを失うことになるが、背に腹は変えられない。
背後から、戦士が斬りかかってきた。
「うおりゃあっ!」
振り向きざま、右手の剣で受けとめる。ふらついた戦士の腹に鋭く蹴りを入れ、うしろへ吹っ飛ばす。
同時に、頸を狙ってきた勇者の剣を、紙一重でかわした。崩れた体勢を生かして長剣を振りかぶり、勇者の手首目がけて、一閃。
「待てぇ! ごるぁっ!」
背後から戦士にタックルされ、軌道が少しずれた。刃は勇者の指を一本、跳ね飛ばす。
「ぐわあぁぁぁっ! ゆびっ! 俺の指があぁぁっ……」
……くそっ。指一本だけか……
素早く飛び退き、戦士の腕から逃れる。間髪を入れず、体を高速回転させ、遠心力で後ろ回し蹴りを放つ。戦士の太い頸にヒットし、戦士はよろめいた。
今の斬撃で勇者を捉えられなかったのは痛恨だ。恐らく、これが最後の勝機だった。
「おいっ! 剣術は弱いはずじゃなかったのかよ!? 話が違うだろうがっ!」
なにを血迷ったのか、勇者は火術師にキレている。
「知らないわよっ! そういう噂があったってだけ! 調査は禁止されてるんだから、調べようがないでしょっ!」
なんだ? 内輪揉めか?
などと考える間もなく、戦士は力任せに剣を振り回してくる。
勇者は目を地走らせて怒鳴った。
「魔王め! 絶対殺してやるっ!」
「炎蛇縛鎖ッ!」
デスアトラムは深呼吸し、右手だけで長剣を構えた。
形勢は圧倒的に不利だ。もはやジリ貧である。
術防御ができないため、火術をノーガードでまともに喰らってしまうのも耐えがたい。
最終的にデスアトラムは、炎蛇縛鎖で動きを封じられた上に全身を焼かれ、勇者と戦士に滅多刺しにされた。
戦闘中、極反魔顛石の魔法陣をどうにか解呪しようと試みたが、残念ながら間に合わなかった。
「……くっ……!」
撤退を余儀なくされ、血まみれになりながら洞窟の外へ出て、崖から飛び降りた。
敗因はいろいろある。魔力に依存しすぎた。武力も低くはないつもりだが、上級戦士クラス二人を相手に片腕だと苦戦は免れない。
そして、人間を舐めていた。長らく隠遁していたせいで、こいつらのしつこさと狡猾さとずる賢さを忘れていた。
古代文明をもっと警戒すべきだった。まるでファンタジーのような、想像をはるかに超えた、とんでもアイテムが存在する。そんな反則技を持ち込まれたら、太刀打ちできない。遺物専用の対策が必要だった。
つまり、人間に敗れたのではなく、古代文明の超技術に敗れたのだ。
古代文明め……! どこまでも我の生を狂わせるっ……
死ななかったのは、極反魔顛石の効果範囲から逃れた瞬間、魔力を全解放し、寿命と引き換えに左腕を蘇生し、命を繋ぎとめる闇術を発動したからだ。余計な魔力消費を抑えるため、幼獣に姿を変え、崖から転がり落ちながらギリギリの生命線だけは繋いだ。
それでも瀕死だった。どうにか死にはしなかったが、魔力も枯渇し、生命力も潰えていた。
生きのびたところで、ふたたび人間にしつこく追い回され、望んでもいない王権の悪事の片棒を担がされるだけか。
魔王は物語の悪役である。いつか倒される運命にある。
心のどこかで、もう滅してもいいかとあきらめもあった。
もう生きることに飽きたのだ。
◇ ◇ ◇
デスアトラムは地面に激突する直前、最後の力を振り絞り、闇術の影遁黒歩《ウンブラ・トランシトゥス》を使い、影から影へと渡った。
さらに遠い影へ、さらに遠くの影へ……と繰り返す。
アウロスたちが追跡できないほど遠い森に着くと、そこでバタリと倒れた。
もう魔力はほとんど残っていない。
罠に嵌めて騙し討ちとは……
ゴミのような人間どもめ……
これまでずっと人間を殺さずにきたのはただの慈悲だ。そして、暴力を嫌うヴィアゴへの敬意だった。
それをこんな形で返すとは……
次に我が前に現れたら、子々孫々まで根絶やしにしてくれるわ……
人間に対する憎悪ばかりが募る。
こんなところで血まみれで倒れていたら、森のオオカミか猛禽類か魔物に喰われてしまう。わかっていたが、もう指一本動かせなかった。
もはやこれまでか……
それから、どれぐらい経ったんだろうか。
ぐったりしていると、何者かが近づいてくる気配がした。
……人間だな。
人間はすぐ傍までやってきて足を止めた。どうやらこちらの存在に気づいたらしい。
女か……。魔力持ちだな……
デスアトラムは魔力探知能力が異様に高い。特に術を使わなくても、他人の思念をある程度読み取ることができる。読み取るというより、流れ込んでくるイメージだ。音が聴こえたり、匂いを嗅いだりするのと同じように。
読み取ったところで、ほとんどが言語化できないような雑多な思念ばかりだが。
一種の精神感応者と言い換えられる。ただ、受信のみの一方通行で、こちらの思念を相手に伝えることはできない。
この女にトドメを刺されるかもしれない、という予感がしたが、デスアトラムはまぶたを開けることさえできなかった。
もう死の淵に立っていたのだ。
女の思念が流れ込んでくる。
――きゃわわわわわ❤️
……? ……きゃわ? 何だ?
――もっふもふの毛玉みたい!
……もふ??? 何だ? 知らない言語だな。
長らく隠遁していたせいだろうか。人間界の言語が理解できない。
女から殺意はまったく感じられなかった。殺意どころかむしろ真逆の、底抜けに明るく能天気な魔力が伝わってくる。
女はそっとデスアトラムを抱き上げた。
……待て。この女、どこかで……?
非常に既視感のある魔力の流れだ。いつか、どこかで、こんな魔力の人間に遭遇したことがあるような……
思い出そうとすればするほど、記憶は曖昧になり、遠のいてしまう。
歯がゆさを抱えながら、デスアトラムの意識は深く沈んでいった。
一人は屈強な戦士。もう一人は火術師だ。いずれも腕はまあまあだが、暇つぶしにもならないだろう、というのがデスアトラムの率直な感想だった。術師は魔力が弱すぎるし、戦士は術対策をしてなさすぎる。
案内された洞窟の奥に足を踏み入れた瞬間、やはり謀られたか、とデスアトラムは悟った。
とっさに魔力を全解放し、冥焔爆裂で洞窟ごと吹き飛ばそうとした。アウロスと戦士と術師もろとも。
だが、わずかに罠の魔法陣の発動のほうが早かった。
ビシッ! と、己の魔力が無効化されたのがわかった。まるでこの場が凍てついたような感覚。
罠だとは知っていたが……極反魔顛石か。これはまずいかもしれん……
デスアトラムの思考は瞬時に分析と離脱へと切り替わる。
唯一の誤算は古代遺物の存在だ。交渉材料として提示された「王家の所有する遺物」が、まさか魔力を逆転させる、極反魔顛石だったとは……
極反魔顛石の効果は石の範囲内にいる者の魔力を逆転させる……強き者は弱く、弱き者は強くなる。つまり、デスアトラムの強大な魔力はほぼゼロになり、術を使えない戦士の魔力は無限大になる。
魔力が無限大になったとて、使う術《すべ》を知らなければ脅威ではない。このトラップの目的はデスアトラムを無力化させることだ。
もちろん和平交渉は嘘である。遺物が封印された地へ案内するという話も嘘。封印を解いて遺物を譲り渡す約束も嘘。
すべてトラップを仕掛けた場所へ誘導するための嘘だ。
すでに勇者と戦士は鞘から剣を抜き、火術師の女は詠唱を始めている。
離脱できずに死ぬ確率が七五パーセント、離脱できても死ぬ確率が二〇パーセント、離脱も生存も成功するのは五パーセント、といったところか。
デスアトラムも腰の長剣をすらりと抜き、片手上段に構える。剣術は得意ではないが、こんな薄汚い策を弄する青二才に屈するほど脆弱ではない。眼球だけ動かし、退路への動線と勇者と戦士の位置を確認し、火術の詠唱を把握した。
……いや。我の腕を一本犠牲にすれば、八パーセントぐらいにはなるか?
「魔王デスアトラム! 神の正義の名において貴様を討つ! これは王命であり、人類の希望を守るためであり、世界の願いだ!」
アウロスが声高に宣言し、戦士と共に襲いかかってきた。
この、腐れ外道がっ……!
ぶん回された戦士の剣を、腰を屈めてかわし、振り下ろされた勇者の刃を、渾身の力で弾き返す。
ガッキィンッ!
金属音が洞窟内に反響し、勇者は尻もちをついた。
反動で振り上がった剣で、そのまま勇者の頭蓋を叩き割ろうとした、そのとき。
「炎蛇縛鎖ッ!」
火術師の甲高い声とともに、真横から燃え盛る炎の蛇が螺旋を描きながら迫り来た。
これは灼熱の炎の縄で敵を縛り上げ、自由を奪う、高位火術だ。極反魔顛石のせいでとんでもない威力になっている。
恐らく予行演習を重ね、魔力量を調整してきたんだろう。火術師の魔力が非常に弱かったのは、石の反転により大きな魔力を得るためだ。
デスアトラムは体を傾け、剣を握っていないほうの左腕を突き出し、炎の蛇をうまく巻き取ることに成功した。当然ながら左腕は全焼し、肉の焦げる異臭が鼻を突く。
「うぐっ……!」
……熱い。
が、仕方ない。全身を縛られて焼かれるよりマシだ。
炎蛇縛鎖はうまく扱えばダメージを抑えられる。片腕か、片足かのどちらかを失うことになるが、背に腹は変えられない。
背後から、戦士が斬りかかってきた。
「うおりゃあっ!」
振り向きざま、右手の剣で受けとめる。ふらついた戦士の腹に鋭く蹴りを入れ、うしろへ吹っ飛ばす。
同時に、頸を狙ってきた勇者の剣を、紙一重でかわした。崩れた体勢を生かして長剣を振りかぶり、勇者の手首目がけて、一閃。
「待てぇ! ごるぁっ!」
背後から戦士にタックルされ、軌道が少しずれた。刃は勇者の指を一本、跳ね飛ばす。
「ぐわあぁぁぁっ! ゆびっ! 俺の指があぁぁっ……」
……くそっ。指一本だけか……
素早く飛び退き、戦士の腕から逃れる。間髪を入れず、体を高速回転させ、遠心力で後ろ回し蹴りを放つ。戦士の太い頸にヒットし、戦士はよろめいた。
今の斬撃で勇者を捉えられなかったのは痛恨だ。恐らく、これが最後の勝機だった。
「おいっ! 剣術は弱いはずじゃなかったのかよ!? 話が違うだろうがっ!」
なにを血迷ったのか、勇者は火術師にキレている。
「知らないわよっ! そういう噂があったってだけ! 調査は禁止されてるんだから、調べようがないでしょっ!」
なんだ? 内輪揉めか?
などと考える間もなく、戦士は力任せに剣を振り回してくる。
勇者は目を地走らせて怒鳴った。
「魔王め! 絶対殺してやるっ!」
「炎蛇縛鎖ッ!」
デスアトラムは深呼吸し、右手だけで長剣を構えた。
形勢は圧倒的に不利だ。もはやジリ貧である。
術防御ができないため、火術をノーガードでまともに喰らってしまうのも耐えがたい。
最終的にデスアトラムは、炎蛇縛鎖で動きを封じられた上に全身を焼かれ、勇者と戦士に滅多刺しにされた。
戦闘中、極反魔顛石の魔法陣をどうにか解呪しようと試みたが、残念ながら間に合わなかった。
「……くっ……!」
撤退を余儀なくされ、血まみれになりながら洞窟の外へ出て、崖から飛び降りた。
敗因はいろいろある。魔力に依存しすぎた。武力も低くはないつもりだが、上級戦士クラス二人を相手に片腕だと苦戦は免れない。
そして、人間を舐めていた。長らく隠遁していたせいで、こいつらのしつこさと狡猾さとずる賢さを忘れていた。
古代文明をもっと警戒すべきだった。まるでファンタジーのような、想像をはるかに超えた、とんでもアイテムが存在する。そんな反則技を持ち込まれたら、太刀打ちできない。遺物専用の対策が必要だった。
つまり、人間に敗れたのではなく、古代文明の超技術に敗れたのだ。
古代文明め……! どこまでも我の生を狂わせるっ……
死ななかったのは、極反魔顛石の効果範囲から逃れた瞬間、魔力を全解放し、寿命と引き換えに左腕を蘇生し、命を繋ぎとめる闇術を発動したからだ。余計な魔力消費を抑えるため、幼獣に姿を変え、崖から転がり落ちながらギリギリの生命線だけは繋いだ。
それでも瀕死だった。どうにか死にはしなかったが、魔力も枯渇し、生命力も潰えていた。
生きのびたところで、ふたたび人間にしつこく追い回され、望んでもいない王権の悪事の片棒を担がされるだけか。
魔王は物語の悪役である。いつか倒される運命にある。
心のどこかで、もう滅してもいいかとあきらめもあった。
もう生きることに飽きたのだ。
◇ ◇ ◇
デスアトラムは地面に激突する直前、最後の力を振り絞り、闇術の影遁黒歩《ウンブラ・トランシトゥス》を使い、影から影へと渡った。
さらに遠い影へ、さらに遠くの影へ……と繰り返す。
アウロスたちが追跡できないほど遠い森に着くと、そこでバタリと倒れた。
もう魔力はほとんど残っていない。
罠に嵌めて騙し討ちとは……
ゴミのような人間どもめ……
これまでずっと人間を殺さずにきたのはただの慈悲だ。そして、暴力を嫌うヴィアゴへの敬意だった。
それをこんな形で返すとは……
次に我が前に現れたら、子々孫々まで根絶やしにしてくれるわ……
人間に対する憎悪ばかりが募る。
こんなところで血まみれで倒れていたら、森のオオカミか猛禽類か魔物に喰われてしまう。わかっていたが、もう指一本動かせなかった。
もはやこれまでか……
それから、どれぐらい経ったんだろうか。
ぐったりしていると、何者かが近づいてくる気配がした。
……人間だな。
人間はすぐ傍までやってきて足を止めた。どうやらこちらの存在に気づいたらしい。
女か……。魔力持ちだな……
デスアトラムは魔力探知能力が異様に高い。特に術を使わなくても、他人の思念をある程度読み取ることができる。読み取るというより、流れ込んでくるイメージだ。音が聴こえたり、匂いを嗅いだりするのと同じように。
読み取ったところで、ほとんどが言語化できないような雑多な思念ばかりだが。
一種の精神感応者と言い換えられる。ただ、受信のみの一方通行で、こちらの思念を相手に伝えることはできない。
この女にトドメを刺されるかもしれない、という予感がしたが、デスアトラムはまぶたを開けることさえできなかった。
もう死の淵に立っていたのだ。
女の思念が流れ込んでくる。
――きゃわわわわわ❤️
……? ……きゃわ? 何だ?
――もっふもふの毛玉みたい!
……もふ??? 何だ? 知らない言語だな。
長らく隠遁していたせいだろうか。人間界の言語が理解できない。
女から殺意はまったく感じられなかった。殺意どころかむしろ真逆の、底抜けに明るく能天気な魔力が伝わってくる。
女はそっとデスアトラムを抱き上げた。
……待て。この女、どこかで……?
非常に既視感のある魔力の流れだ。いつか、どこかで、こんな魔力の人間に遭遇したことがあるような……
思い出そうとすればするほど、記憶は曖昧になり、遠のいてしまう。
歯がゆさを抱えながら、デスアトラムの意識は深く沈んでいった。
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