パーティーを追放されてもふもふを拾ったら魔王に溺愛されました

吉桜美貴

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本編

35. 光の覇者、太陽神ソルクスよ

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「光の覇者、太陽神ソルクスよ。まばゆき閃光を放ち、雷鳴の如くとどろけ! 邪をはらえ、閃光音爆フラッシュ・ミルム!」
 ライラが詠唱すると、耳をつんざく爆音とともに目が潰れるほどの閃光がほとばしる。
 ライラを取り囲んでいた魔物たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
 術を予期していたルビウスはまぶたを閉じ、耳を塞いでうずくまっていたので事なきを得た。
「……と、まぁこんな感じです。見た目はカッコいい術なんだけど、誰も傷つけないっていうね……ははは」
 ライラはルビウスを振り返って自嘲する。
 ほう……。なかなか素晴らしい術ではないか。
 ルビウスは感心した。これなら魔物を傷つけずに追い払える。
 優しいな。ライラらしい。
 ルビウスはじんわり感動した。きっとこれはライラの慈悲の心が編み出した術だ。(閃光と爆音が多少エグいが、殺されるよりマシである)
 にしても、ライラが生娘であるせいで、本当に魔物から狙われやすい。夜中もライラを狙って魔物が侵入してくるため、ルビウスが密かに撃退した数も少なくない。
 この森の魔物は大したことないから問題ないが、知能の高い魔族に絡まれたら厄介である。
 変な虫がつく前になんとか対策しなければならないな……
 ルビウスは頭を悩ませるのだった。

   ◇ ◇ ◇

 毎晩眠る前、ベッドの中でライラはルビウスを抱きしめながら、いろいろ話す。
 ルビウスは、ライラのぬくもりと甘い香りに包まれ、耳を傾ける時間が好きだった。
 ライラは元冒険者で、パーティーメンバーから「魔物憑き」と呼ばれ、からかわれていたらしい。
 奇遇だな……。ヴィアゴと同じではないか……
 ルビウスはしみじみと感じ入る。数百年の時を超え、その呼称をふたたび耳にするとは。ちなみに現代では嘲笑や揶揄のニュアンスで使われるそうだが。
 我はよほど魔物憑きに縁があるらしい。
 しかし、「アウロス」という忌まわしき名を聞いた瞬間、ルビウスは全身の毛を逆立てた。
 ライラはそんなルビウスの様子には気づかず、おしゃべりを続ける。
「一言で言うとね、私、追放されたの。おまえはもうパーティーに不要だからって、置き去りにされたんだ。悲しいよね」
 ……追放? つまり、元アウロスの仲間なのであって、現在は違うということか……?
 そういえば、太陽の遺跡でライラに会ったとき、独りぼっちだった。上階に三名の魔力反応があったが、あの頃から仲間外れにされていたのか……?
 ルビウスが思考をめぐらせていると、ライラは物憂げにため息を吐く。
「だからね、私、討伐された魔王の気持ちが少しだけわかる気がするの。アウロスもジェミンもリエスもさ、一度悪者のレッテルを貼ったら、そこから絶対くつがえらないわけ。それ以上考えないし、ひたすら攻撃するだけなの。それってさ、もう魔王も私も扱い一緒なのよ」
 まぁ、異論はないな、とルビウスは内心で苦笑する。まさかそんなところで我とライラの共通点があるとはな。
「ルビちゃんは魔族だから言うけど……ここだけの話、魔王がかわいそうだと思わない? 四肢を刻まれて崖から突き落とされたんだって……。ひどいよね」
 ルビウスは呆気に取られてしまった。かわいそう? 我が?
「アウロスってさ、ずる賢いっていうか、策士だったから、たぶん騙し討ちしたんじゃないかと思うんだよね。じゃないと、あんなとんでもない魔力持ちの人、どうにもできないと思う」
 現場にいなかった割になかなかよい洞察ではないか。あなどれんな。
 ルビウスは感心する。ライラの言うことは的を射ている。
「実はね、私、アウロスに魔王と和平交渉する気はないかって持ちかけたことがあるの。もちろん、けんもほろろにあしらわれたけど」
 ルビウスはギクリとした。和平交渉だと?
 ライラは自嘲気味に笑った。
「そのときね、アウロスにおまえの考えを詳しく聞かせろって言われて、いろいろ話したんだよ。聞き入れてもらえるのかと思ったけど、勘違いだった」
 おまえの考えとはどのようなものだ? 我にも詳しく聞かせてみよ。
 ルビウスが前脚でチョンチョンとライラの手をつつくと、ライラは意図を理解したらしい。
「なんて言ったのかって? まぁ簡単に言うと、魔物たちも鳥や獣と同じように、きっと人間と共存できるって話」
 ライラはルビウスの背中をふわふわ撫でながら言う。
「昔、よくジェマイマが言ってたの。人は自分が理解できないことを恐れ、否定し、排除しようとするって。自分が理解できない人を軽蔑するんだって。だから、うわ~これ苦手だなって感じることに出会ったら、大きなヒントがあるんだって。自分を知るためのね」
 ライラは小さくため息を吐いた。
「だからさ、本当はもっと魔物のことを知るべきなんだよ。今の世は魔物の調査が禁止されてるけど、まずそこから改めて、魔物への理解を深めるべきだと思う。きっと、魔物も一人一人に個性があるはずだからさ」
 やはりな……
 ルビウスは悟った。
 和平交渉にきたアウロスに、ルビウスは問うた。「おまえの真意を聞かせてみよ」と。中途半端な答えが返ってきたら、拒否しようと考えていた。ほいほい応じたわけではない。
 それなりにアウロスを試したのだ。
 だが、アウロスからこの弁論を聞いたとき、なかなかいいことを言うと感心した。目先の善悪や種の違いに囚われない、普遍ふへん的で万象ばんしょう的な意見だ。和平に必要な視点だと。
 この考えに賛同したからこそ、交渉に応じたのだ。
 まさか、出所がライラだったとはな……
 もちろん、ライラがあの卑劣な策謀に加担したとは思えない。アウロスはライラの主張を勝手に盗み、さも自らが考えたように披露したんだろう。
 気高い魔王を騙すために。
 どこまでも卑劣な奴め……
 ルビウスは歯ぎしりする。しかも、便利に利用したライラを追放するとは言語道断。なにが勇者だ。聞いてあきれる。奴の愚劣さは万死に値する。己が罪、骨の髄まで後悔させてくれるわ!
 ライラはルビウスの怒りには気づかず、寂しげにつぶやいた。
「けどね、私みたいな考えを持ってると、皆からキモいだの怖いだの頭おかしいだの言われて嫌われちゃうわけ。今の世は魔物が絶対悪だからさ。小さい頃からね、なんか変だなってずっと違和感持ってた。ジェマイマは魔物にも優しくてね、割と私とおんなじ考えだったから。って、私がジェマイマの影響を受けたのかもしれないけど……」
 ライラは懐かしそうに微笑む。
「魔王もね、とっても綺麗な人だった。なんていうか、はかなげで慈悲深い、宗教画の天使みたいだったよ。すごく悪い奴なのかもしれないけど、悪事を実際に見たわけじゃないし、殺されたって聞いて……気の毒で。私は今でも嫌いになれないなぁ……」
「……」
 言いようのない感情がルビウスの胸に迫ってくる。
 純粋な魂に触れたときの、小さな驚き。
 まるでヴィアゴに再会したような懐かしさ。
 同情され、慈悲をかけられた気まずさ。我はそんなに弱くないぞという、少しの憤り。
 なによりも、理解してもらえた喜びが一番大きかった。
 ライラは我の無念さ、悔しさに共感してくれるのか……
 これまでのことが奇跡のように思えてきた。ライラがアウロスから追放されたのも、ルビウスがアウロスに倒されたのも、影渡りでライラの下へ飛んだのも、すべてはルビウスがライラに出会うためだったのではないか。
 ライラがいなければ、ルビウスの命はとうに尽きていた。
 ルビウスは神も運命も信じていない。が、こればかりはなにか人智を超えた存在が関わっている気がしてならなかった。
「ほら、魔性って言葉あるじゃない? マショウって悪い意味で使われるけど、とんでもない魅力があるってことでしょ? 私は魔の性質に心惹かれるの。なにか人の力をはるかに超えた、奇跡みたいな何かがある気がする。魔の性質って悪く作用するときもあるけど、善い作用をもたらすこともあると思うんだよね」
 ライラは夢見るように肘枕をする。
「それにね、私が生活できているのは魔物たちのおかげなの。魔物のカケラはポーションの材料になるし、魔物に傷つけられた人たちを治癒して対価を得てるわけだし……。患者さんに感謝されたり、崇拝されたりすると、調子に乗りそうになるんだけど、私は人の不幸でご飯食べてるんだぞ、って思うと背筋が伸びるの。魔物に感謝して、忘れないようにしなきゃって」
 ライラは謙虚なのだな……
 ルビウスはうなりそうになる。
 年若き乙女が、苦難を超えてなおこうべを垂れるとは……見上げたものだ。
「だからね、私、本当は術の研究だけじゃなくて、魔物の研究もしてみたい。今の世の中では許されないけど、もっと時代が下ったら、きっといつか……って思ってるの。魔物の存在ってなんだろうって不思議だし、解明してみたい。それに私、魔物のこと、嫌いになれないんだよね」
 ライラは無邪気に微笑んだ。
 あぁ、美しいな……
 ルビウスは目を細めた。魂がとても澄んでいて、透き通って見える。
 我がどう見えるかは、おまえ自身の真の姿なのだ。我が無垢な天使のように見えたなら、それがおまえの心の姿なんだろう。
 ライラ、我もおまえが嫌いではない。人間の中ではヴィアゴと同じぐらい好きだ。
 おまえの存在が、魔族と人間の戦いを終焉に向かわせるかもしれないな……
 ルビウスは淡い期待を抱くのだった。
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