パーティーを追放されてもふもふを拾ったら魔王に溺愛されました

吉桜美貴

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本編

48. 夕闇の迫る帰り道

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 夕闇の迫る帰り道。
 ライラはうつせみの森の小道をトボトボ歩きながら、ルビウスを拾ったときのことを思い返していた。
 去年の夏だから、もう半年以上前になるのかぁ……
 パーティーを追放されてから、てんやわんやの日々だったと振り返る。なんとか診療所は軌道に乗り、将来の夫まで拾い、追放前に比べたら夢みたいな生活を送っている。
 なんか、随分遠くまで来たなぁ……
 意味もなく足をとめ、振り返った。落ち葉で敷き詰められた獣道に人気はなく、風が鬱蒼とした木立を揺らしている。
 私は道を踏み外したのかな……
 漠然とした不安に襲われた。
 ルビウスを拾ってからずっと、薄っすらした不安と後ろめたさがついて回っていた。世の中に対し、ルビウスの正体を隠しながら、どこか犯罪者みたいにコソコソ生活してきた。
 ルビウスのことだけじゃない。
 ポーションの精度を上げたいから、魔物についてもっと知りたい。術の腕をもっと上げたいから、双極術について調べたい。こういう知的好奇心はことごとく、違法だったり倫理違反だったりする。
 お天道様の下を堂々と胸を張って生きたいのに、生きられない。
 私、なんらかのバチが当たったのかなぁ……
 なんのバチが当たったのか、具体的にはわからない。なにも悪いことはしていないつもりだけど、たくさん罪を犯したような気もする。アウロスたちを恨んだこともあるし、ルビウスを妬んだこともある。ジェマイマの言うことをきかないときもあったし、大勢の魔族を殺してきた。
 心の中に悪しき感情が芽生えた瞬間は数知れず。知らずに傷つけた人もきっとたくさんいる。
 清廉潔白せいれんけっぱくに生きてきたわけじゃない。
 しかも、これから魔族の赤ちゃんを産もうとしているのだ。露見すれば、世間から後ろ指さされるのは間違いない。誰もがライラを気味が悪い恥ずかしい存在だと批難するだろう。
 いつまで経っても、世の中とうまく折り合いがつけられないなぁ……
 深いため息が出てしまう。冒険者時代となんら変わらない。どこへ行っても変人扱いだ。
 家の中だけの、森の中だけの閉ざされた空間なら、温かくてまぶしくて幸せに満ちている。ひとたび外の世界と対峙した途端、ライラたちは異質で邪悪な存在になってしまう。
 魔物や双極術について調べることは倫理違反とされているけど、倫理違反だと決めつけたのは神殿であり今の王権だ。いったい、なんの権利があって人の好奇心を抹殺するんだろう?
 ルビウスは利権絡みだと言っていた。なら、倫理違反なのは神殿や王権のほうではないか。
 けど、なぁ……
 ライラは力なく空を見上げる。ざわめく葉の隙間から、一番星が見えた。
 悪を正すことに興味はないし、王権を敵に回すつもりもない。
 正義の制裁も歴史的な偉業もいらない。
 世界をよくしようなんて考えなくていいのだ。
 きっと人類がこの世に現れて以来、世界がよくなったことなんて一度もないから。
 魔王を倒して世界がよくなったやったー! なんて思ったのは一部の人たちだけで、別の視点から見ればアウロスの卑劣な悪業でしかない。
 なにをしても、しなくても、誰かにとっては幸運で、別の誰かにとっては不幸なんだろう。
 なら、世界全体を考えるなんて無意味だ。私は目の前の小さなことを、自分にできそうなことを、一つ一つ誠実にやっていくしかない。なるべく誰かを傷つけないように、気をつけながら。それでも傷つけてしまうんだとしても。
 私はただ、ルビウスと穏やかに暮らしていきたいだけだ。そのためなら労はいとわないし、多くは望まない。

『天暦五〇二六年四月十三日 二十六夜

 ひさしぶりの日記。
 今夜、私は決意した。
 強くなるんだ。
 私が異形で異質で邪悪な異常者だから、なに? 魔物憑きだろうがなんだろうが、私は私だ。
 私はルビウスが大好き。
 それはもう口にできないほど、心から恋してるし、憧れてる。
 たぶんこの世界で一番ルビウスを好きなのは、この私。それだけは絶対の自信がある!
 生まれて初めて本気で人を好きになった。それが、キモかろうがヤバかろうが、知るかっての!
 これまでは周りの目にビクビク怯え、やりたいこと一つできず、ずっと我慢してきた。
 けど、もうそういうのはやめよう。
 過去の私とさよならしよう。
 ヴィアゴさんの言う通りだ。私が私として生きることは、こんなにも怖い。
 けど、胸が熱くなる。曖昧で危険な道だけど、進みたいのだ。
 これから、私はたった一人で、私だけの『好き』を全力で守り抜く。たとえ世間を敵に回しても、グループから追放されても。
 私はルビウスとささやかだけど幸せな家庭を築きたい。
 それに、私が周りから嘲笑われながらも、一人で必死に生きる背中を見て、きっと励まされる誰かがいると思うから。
 ヴィアゴさんの背中を見た、私やルビウスのように……』
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