北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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1.北の者 アーヘルゼッヘ

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 誰か! 私を見て! お願い、気づいて! 私はここにいる!
町のど真ん中で私は叫びだしそうになっていた。広場で、噴水の脇に立ち、行きかう人を眺めながら、まるで一人井戸の中にいるような気がした。明るい陽の差す、誰も気づかない透明な井戸の中で、身動き一つできず朽ち果てていくような、不安な気持ちだ。南大陸の端にある帝都から内陸へ馬車で七日。旅の途中の私は、小さな町で、異様な存在になりつつあった。

目の前を、大きな野菜かごを下げた女が通り過ぎる。私の影さえ不気味だというように歩道から馬車道へ降りて迂回していく。サスペンダーに革靴の少年が、凧を片手にかけてきて、すぐそこで棒をのんだように立ち尽くす。マントの存在に驚いて立ち止まり、私を見上げて恐怖に変わる。通りの向こうのビルの入口で、連れの婦人が少年を呼ぶ。はじけるように駆けて行く。

「北の方がお珍しい」

そんな私に、つまり、アーヘルゼッヘに、穏やかに声をかけた人間がいた。噴水の脇に腰かけた、白髪の老人だった。アーヘルゼッヘがここに立つ前から腰かけていて、その後も身じろぎ一つしなかった。その老人が、日差しに目を細め、アーヘルゼッヘを見上げている。

老人は、黒い上等な生地に包まれた長い足を投げ出して、鷲の握りの杖をつく。ピンと背の伸びた姿で、足の間に杖をつき、両手を軽く乗せ、顎を引いて見上げている。顎近くに結んだタイに、真珠のタイピンがよく似合う。癖のある短い白髪が額に落ち、日に焼けた顔に、上品そうな口元が印象的だ。まなざしは、目を細めているせいか、笑っているように見えた。町の人の恐怖がうそのような穏やかさだ。恐れもなければ警戒心も見当たらない。この町に立って初めて見た穏やかさだ。おかげで、せっかくの友好的な笑顔を見ながら、警戒した。

アーヘルゼッヘと視線が合うと、老人は言った。
「北の方。漆黒のマントに銀のふち飾りは、あなた方の正装ですが、それを知る者は少ないのですよ」
北の者をよく知っているような口ぶりだった。
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