2 / 89
2.北の者の魅力
しおりを挟む
おかしい服装ではないはずだ。
アーヘルゼッヘは、マントの下に、紗の織物に銀と朱の幾何学模様の上着を着ている。七分丈の黒のパンツに、長い脚は銀のタイツで包み、濃緑色のショートブーツには銀の留め金が大きく飾られている。旅には不向きな服装だが、おかしい服装ではないはずだった。老人はさらに、
「宮廷へおいでになれば、きっと歓迎されたでしょう」
と言う。
アーヘルゼッヘは、老人の顔をまじまじと見た。陰りのないまっすぐな目で見上げている。面白がっているような色が浮かぶ。が、それ以上の表情が見当たらない。なのに、老人は、この姿が、宮廷服だと一目で見抜いているわけだ。正確には宮廷服ではないのだが、老人の真意を知ろうとその目の中に理由を捜した。
「そうそう警戒しなさるな。お綺麗な顔が台無しだ」
と言って笑った。アーヘルゼッヘは、
「洗って来たからだ」
と答えた。老人は笑った。破顔した。妙に若々しく見えた。
「何がおかしい。服を気をつけて顔を気をつけなければ、見ている方が見苦しく、周りに迷惑をかけるだけだ」
「そうですか。確かにそうかもしれませんが。お綺麗と言う意味は、汚れがないという意味ではないのですよ。造作が美しいと申し上げたのです。見目麗しい顔に、見とれる者もおりましょう」
男の言葉に、アーヘルゼッヘは警戒を解いた。
この顔を美しいと言っているなら、本当の北の者には、あったことがないのだろう、と思ったのだ。自分以上に美しい者は大勢いる。美しい者たちばかりだ。確かに、アーヘルゼッヘの顔は、目が切れ長で、鼻筋が通り、面長なほっそりした顔が、生き人形のように見せる。
しかし、美しさの基準が目の光と口元の凛々しさにある北のアーヘルゼッヘにとっては、この顔は平凡な顔にしか見えない。ただ、少しだけうぬぼれがある。誰だって良さがあるように、自分にも、目の光がある、と思っていた。時々だが、切れ長な目からあふれる銀の光は、みなに褒められことがある。
だから、この男もきれいだと思うのかもしれないと、いい気分になりながら半分くらい本当かも知れないと期待した。おかげで、饒舌になる。
「貴殿も、凛々しい口元をしている。その口を開くだけで、僚友も恋人も思いのままになるのではありませんか」
と軽口をたたいた。言ったとたん、男の口に目が言った。本当に、引き締まった意志の強そうな口元だった。この意思の強さで紡がれた言葉なら、逆らえない者が大勢いそうだと感じた。それは、北の者達にとって抗えないほどの魅力だった。思わずアーヘルゼッヘは見とれていた。
アーヘルゼッヘは、マントの下に、紗の織物に銀と朱の幾何学模様の上着を着ている。七分丈の黒のパンツに、長い脚は銀のタイツで包み、濃緑色のショートブーツには銀の留め金が大きく飾られている。旅には不向きな服装だが、おかしい服装ではないはずだった。老人はさらに、
「宮廷へおいでになれば、きっと歓迎されたでしょう」
と言う。
アーヘルゼッヘは、老人の顔をまじまじと見た。陰りのないまっすぐな目で見上げている。面白がっているような色が浮かぶ。が、それ以上の表情が見当たらない。なのに、老人は、この姿が、宮廷服だと一目で見抜いているわけだ。正確には宮廷服ではないのだが、老人の真意を知ろうとその目の中に理由を捜した。
「そうそう警戒しなさるな。お綺麗な顔が台無しだ」
と言って笑った。アーヘルゼッヘは、
「洗って来たからだ」
と答えた。老人は笑った。破顔した。妙に若々しく見えた。
「何がおかしい。服を気をつけて顔を気をつけなければ、見ている方が見苦しく、周りに迷惑をかけるだけだ」
「そうですか。確かにそうかもしれませんが。お綺麗と言う意味は、汚れがないという意味ではないのですよ。造作が美しいと申し上げたのです。見目麗しい顔に、見とれる者もおりましょう」
男の言葉に、アーヘルゼッヘは警戒を解いた。
この顔を美しいと言っているなら、本当の北の者には、あったことがないのだろう、と思ったのだ。自分以上に美しい者は大勢いる。美しい者たちばかりだ。確かに、アーヘルゼッヘの顔は、目が切れ長で、鼻筋が通り、面長なほっそりした顔が、生き人形のように見せる。
しかし、美しさの基準が目の光と口元の凛々しさにある北のアーヘルゼッヘにとっては、この顔は平凡な顔にしか見えない。ただ、少しだけうぬぼれがある。誰だって良さがあるように、自分にも、目の光がある、と思っていた。時々だが、切れ長な目からあふれる銀の光は、みなに褒められことがある。
だから、この男もきれいだと思うのかもしれないと、いい気分になりながら半分くらい本当かも知れないと期待した。おかげで、饒舌になる。
「貴殿も、凛々しい口元をしている。その口を開くだけで、僚友も恋人も思いのままになるのではありませんか」
と軽口をたたいた。言ったとたん、男の口に目が言った。本当に、引き締まった意志の強そうな口元だった。この意思の強さで紡がれた言葉なら、逆らえない者が大勢いそうだと感じた。それは、北の者達にとって抗えないほどの魅力だった。思わずアーヘルゼッヘは見とれていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる