北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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3.南の大陸

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アーヘルゼッヘが見とれた、当の男は、目の中に笑いを作って首を左右に振っていた。

何かの諦めのような仕草だった。それを見て、目の力が弱い、とアーヘルゼッヘはがっかりした。種族の違う人間に期待してもしょうがないのだが、美しい口元を見たせいで、それに見合った眼がほしかった。

穏やかな目は、よく見ると霞がかかったようで、気持が陰っているような色がある。さらによく見れば、気持を抑えた深い色をたたえた眼だとわかるのだが、アーヘルゼッヘには、そこまで見抜く力はなかった。

人間に初めてあったせいかもしれない。人間だと思い、美しい目はありえないと思い油断していたせいかもしれない。おかげで、
「あなたがもっと若ければ、北の者も虜にできたかもしれない」
と相手を慰めるようなことを言った。そこには北の者の高慢さがあった。そして、今は年をとっているからだめだと告げる失礼さもあった。

男は笑った。気持ち良さそうに、背を伸ばして、空を見た。北の方を虜にするという例えに笑ったのか、若かったら美しいと言う率直さを笑ったのか、もっと別の意味があって笑ったのか分からない。

しかし、気持がすっかりそれたようで、すぐに、
「それで。北の方が何しにここへおいでになったのでしょうな?」
と話題を変えた。

北に大陸が一つ。南に三つ。南の大陸の間には諸島が広がっていた。人間は南に住み、帝国や王国の割拠と言う形で三大陸を支配していた。

北には、北の方と呼ばれる種族がいた。支配と言う考えを持たない、人間とは違う系統の生き物だった。長寿で長身、情熱的だが感情に乏しく、高慢だが切り替えが早い。己の相反した感情に翻弄されるように生きる生き物だった。

そんな気ままな性質を補うかのように、彼らには特殊な能力があった。自然を操る力とも、自然に溶け込む力とも言われていた。人間にはない力だった。おかげで、人間は彼らを恐れ敬い、長い年月をかけて、さまざまな信仰や信念を生み出した。

人間は彼らの力にとらわれ、彼らは己の生に夢中になる。おかげで互いに軋轢が生まれ、火が付いて、北と南に分かれての大戦争が勃発した。それが、千年前の話である。

その戦争が、十年前に終結した。人間が全面的に白旗を上げて、北の者達が統制のとれた動きで引き上げて、終りに至った。人間が諦めたのも珍しければ、支配と無縁の北の者が統制のとれた動きで南から引き上げていったのも珍しい現象だった。

アーヘルゼッヘは戦争の終わりのころに生を受けた。百年も生きていない、まだ、生まれて間もない幼子だった。しかし、百年で生が終わる人間達にとっては、もはや立派な成人にしか見えない。実際、若者ではあるが子供ではない。もちろん、幼子だと言ってやるのは、大戦の前から悠々と生きている北の長寿の者達ばかりだ。それは、人間の理解の範疇を超えていた。
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