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15.美しいところですね
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アーヘルゼッヘは、視線を上げた。
人で鈴なりの建物の窓や、警邏達に押されて押し合って、それでも前に出ようとしている人々を見る。
血色の良い、生き生きとした眼が、中央へ向けられている。目を皿のようにしてチウを見ている。彼らが大事にする神々にお会いしてみたい気がした。人の心が生み出す神とは、どんな存在だろうと思ったのだ。
そんな中、チウは、
「さて」
と笑って、周囲に向かって杖を振った。そして、アーヘルゼッヘの肩を組み、
「大切な客人だ。みなよろしく頼むぞ!」
と言うと、どっと声が上がった。気持ちがいいほどの熱気がアーヘルゼッヘの頬をなでた。
ぜひ、大祭を見てみたい、とアーヘルゼッヘは思った。
心の隅で、神への捧げものをする役を引き受ければよかったと、かなり後悔した。さらに、約束があると言えば、北の者達は、強引にアーヘルゼッヘを連れていけないじゃないか、と遅まきながら気がついた。
目的は人探しなのだが、大祭に参加するために来たような気になり始めていた。
アーヘルゼッヘは、警邏達の乗ってきた馬車に乗り、広場を後に、チウの屋敷に向かった。警邏隊が馬で前後についていた。馬車の屋根には御者が乗り、箱の後ろに警邏が一人つかまって、アーヘルゼッヘは守られていた。広場に来ていたのは町の一部の人々だった。
町は、広場を中心に広がっていた。四方へ延びた道の一つ、北へ向かう道を行く。
高い煉瓦の建物は、すぐに乾燥した低い土塀の家へと変わって行った。長いドレスや重ねた上着で着飾っていた人々が、薄手の着なりのシャツに古い生地のズボンやドレスに変わりだす。
乾いた塀の間を通る。
白い大地に裸足で立って、馬車を見送る人々がいる。町門の窓から、子供が顔をのぞかせて、珍しそうに馬車を見る。中に座る、銀の髪のアーヘルゼッヘを見ると、慌てたように門の中に逃げ込む。銀の髪が怖いのか、馬車の人間と眼があったのが怖いのか、わからない。町の外は果樹園だった。町は果樹園に囲まれていた。
馬車は、しだいに人家を過ぎて、乾燥した果樹園の間を走りだし、明るい林の中にたたずむ平屋の建物へと入って行った。
林の中から町を振り返ってみると、まっすぐ伸びた道の先に、背の高い黒い建物が見えた。そこが町だ。すすけた緑の果樹園が、塀に囲まれた町を囲んでいた。
馬車は林の中を通って、屋敷の前で動きを止めた。高床式の建物だった。柱や手すりに凝った獣の彫り物が浮かぶ。エントランスが、テラスのようになっている。長い庇が外へ突き出て、柱が目につく。
床には絹の絨毯が敷かれ、重厚な木のテーブルに木のソファーが、接待用か来客用か、町の見える場所に並ぶ。
金糸銀糸の華麗なラグやテーブルに華やかさを添える。柱近くには、大きな色鮮やかな甕が飾られている。柱につるした籠には、茎の長い白い花が活けられている。
みずみずしい、と言う言葉がぴったりの屋敷だった。よく見ると、テラスの奥に、本当の入口らしい扉が見えた。
「美しいところですね」
アーヘルゼッヘは感動のまま、つぶやいた。
人で鈴なりの建物の窓や、警邏達に押されて押し合って、それでも前に出ようとしている人々を見る。
血色の良い、生き生きとした眼が、中央へ向けられている。目を皿のようにしてチウを見ている。彼らが大事にする神々にお会いしてみたい気がした。人の心が生み出す神とは、どんな存在だろうと思ったのだ。
そんな中、チウは、
「さて」
と笑って、周囲に向かって杖を振った。そして、アーヘルゼッヘの肩を組み、
「大切な客人だ。みなよろしく頼むぞ!」
と言うと、どっと声が上がった。気持ちがいいほどの熱気がアーヘルゼッヘの頬をなでた。
ぜひ、大祭を見てみたい、とアーヘルゼッヘは思った。
心の隅で、神への捧げものをする役を引き受ければよかったと、かなり後悔した。さらに、約束があると言えば、北の者達は、強引にアーヘルゼッヘを連れていけないじゃないか、と遅まきながら気がついた。
目的は人探しなのだが、大祭に参加するために来たような気になり始めていた。
アーヘルゼッヘは、警邏達の乗ってきた馬車に乗り、広場を後に、チウの屋敷に向かった。警邏隊が馬で前後についていた。馬車の屋根には御者が乗り、箱の後ろに警邏が一人つかまって、アーヘルゼッヘは守られていた。広場に来ていたのは町の一部の人々だった。
町は、広場を中心に広がっていた。四方へ延びた道の一つ、北へ向かう道を行く。
高い煉瓦の建物は、すぐに乾燥した低い土塀の家へと変わって行った。長いドレスや重ねた上着で着飾っていた人々が、薄手の着なりのシャツに古い生地のズボンやドレスに変わりだす。
乾いた塀の間を通る。
白い大地に裸足で立って、馬車を見送る人々がいる。町門の窓から、子供が顔をのぞかせて、珍しそうに馬車を見る。中に座る、銀の髪のアーヘルゼッヘを見ると、慌てたように門の中に逃げ込む。銀の髪が怖いのか、馬車の人間と眼があったのが怖いのか、わからない。町の外は果樹園だった。町は果樹園に囲まれていた。
馬車は、しだいに人家を過ぎて、乾燥した果樹園の間を走りだし、明るい林の中にたたずむ平屋の建物へと入って行った。
林の中から町を振り返ってみると、まっすぐ伸びた道の先に、背の高い黒い建物が見えた。そこが町だ。すすけた緑の果樹園が、塀に囲まれた町を囲んでいた。
馬車は林の中を通って、屋敷の前で動きを止めた。高床式の建物だった。柱や手すりに凝った獣の彫り物が浮かぶ。エントランスが、テラスのようになっている。長い庇が外へ突き出て、柱が目につく。
床には絹の絨毯が敷かれ、重厚な木のテーブルに木のソファーが、接待用か来客用か、町の見える場所に並ぶ。
金糸銀糸の華麗なラグやテーブルに華やかさを添える。柱近くには、大きな色鮮やかな甕が飾られている。柱につるした籠には、茎の長い白い花が活けられている。
みずみずしい、と言う言葉がぴったりの屋敷だった。よく見ると、テラスの奥に、本当の入口らしい扉が見えた。
「美しいところですね」
アーヘルゼッヘは感動のまま、つぶやいた。
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