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16.心のままに言った言葉は
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「美しいところですね」
アーヘルゼッヘは感動のまま、つぶやいた。
心のままに言った言葉は、光がはねて、林の木々の葉を光らせた。すぅっと、あたりがぱっと明るくなった。
人間が気づいたかどうか分からなかったが、アーヘルゼッヘは更なる美しさに、言葉をなくした。そのわきで、片手を上げて、御者や警邏に礼を云いっていたチウが、さっとアーヘルゼッヘを振り返り、
「ありがとうございます。きっと、この屋敷を貸してくれた、アゼルが大変喜ぶでしょう」
と言って、皮肉な顔をした。
チウはここが気に入らないようだった。
美しい、と言うだけでは満足しない性質か、もしかしたら、これを美しいとは思わない性質か、アーヘルゼッヘには分からなかった。
チウは、再び、警邏へ向かいあってしまう。警邏は、ここへ残ると言い、警固すると堅持している。
「見張らなくても逃げたりしない」
とチウがイライラしたように言っている。
チウが話していた警邏は、馬に乗って前を守っていた、筋骨たくましい赤髪の男だった。目が落ちくぼんでいて、口が横に広く、暗いまなざしは知性と、したたかさがあるように見えた。
チウはさらに、
「私を信用しないのか」
と突っぱねるように言うと、警邏は、
「もちろん信用いたします。しかし、私は隊長の命を受けて、ここを守れと言われましたので」
「別に襲ってくるものもおるまい」
「大祭に際して、何が起こるかわかりません」
とこれは、真剣な声音になった。
まっすぐに背を伸ばして、手には馬の手綱をかけて、肩はば程度に足を開いて立っている。閲兵を受けているようにも見える。男はまっすぐ卑屈さを見せることなくチウを見上げている。
「何かが起こるなら、町中であろう。だから、アゼルは、こんな辺鄙な場所に私の屋敷を用意したんだ。まったく、私が何のために来たと思っているんだ、あの男は」
と最後の部分は吐き捨ているように言うと、男は、
「閣下を大事に思っておいでです。何よりも大事なお方だと、われわれに直におっしゃられるほど、大事にしておいでです」
「私は礼を言わねばならないかね。大事にされるあまり、仕事の妨害をされているのを?」
「それは…」
「君にあたってもしょうがない。悪かった。私もアゼルが大事だ。彼が帝都に来たら、きっと塔の上に閉じ込めて、危ない繁華街には決してうろつけないように監禁してしまうだろうくらい、大事に思っているのさ」
と言うと、警邏も笑った。
「それは、いくらなんでも。隊長が気の毒では…」
「そうしたいくらいの気分になるさ。君もここで数日過ごせば」
そう言って、チウは背にした屋敷を見かえりながら見上げて見せた。
アーヘルゼッヘは感動のまま、つぶやいた。
心のままに言った言葉は、光がはねて、林の木々の葉を光らせた。すぅっと、あたりがぱっと明るくなった。
人間が気づいたかどうか分からなかったが、アーヘルゼッヘは更なる美しさに、言葉をなくした。そのわきで、片手を上げて、御者や警邏に礼を云いっていたチウが、さっとアーヘルゼッヘを振り返り、
「ありがとうございます。きっと、この屋敷を貸してくれた、アゼルが大変喜ぶでしょう」
と言って、皮肉な顔をした。
チウはここが気に入らないようだった。
美しい、と言うだけでは満足しない性質か、もしかしたら、これを美しいとは思わない性質か、アーヘルゼッヘには分からなかった。
チウは、再び、警邏へ向かいあってしまう。警邏は、ここへ残ると言い、警固すると堅持している。
「見張らなくても逃げたりしない」
とチウがイライラしたように言っている。
チウが話していた警邏は、馬に乗って前を守っていた、筋骨たくましい赤髪の男だった。目が落ちくぼんでいて、口が横に広く、暗いまなざしは知性と、したたかさがあるように見えた。
チウはさらに、
「私を信用しないのか」
と突っぱねるように言うと、警邏は、
「もちろん信用いたします。しかし、私は隊長の命を受けて、ここを守れと言われましたので」
「別に襲ってくるものもおるまい」
「大祭に際して、何が起こるかわかりません」
とこれは、真剣な声音になった。
まっすぐに背を伸ばして、手には馬の手綱をかけて、肩はば程度に足を開いて立っている。閲兵を受けているようにも見える。男はまっすぐ卑屈さを見せることなくチウを見上げている。
「何かが起こるなら、町中であろう。だから、アゼルは、こんな辺鄙な場所に私の屋敷を用意したんだ。まったく、私が何のために来たと思っているんだ、あの男は」
と最後の部分は吐き捨ているように言うと、男は、
「閣下を大事に思っておいでです。何よりも大事なお方だと、われわれに直におっしゃられるほど、大事にしておいでです」
「私は礼を言わねばならないかね。大事にされるあまり、仕事の妨害をされているのを?」
「それは…」
「君にあたってもしょうがない。悪かった。私もアゼルが大事だ。彼が帝都に来たら、きっと塔の上に閉じ込めて、危ない繁華街には決してうろつけないように監禁してしまうだろうくらい、大事に思っているのさ」
と言うと、警邏も笑った。
「それは、いくらなんでも。隊長が気の毒では…」
「そうしたいくらいの気分になるさ。君もここで数日過ごせば」
そう言って、チウは背にした屋敷を見かえりながら見上げて見せた。
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