北大陸のアーヘルゼッヘ

ふみはなえ

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83.巨大な石の門を見上げているうちに

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おかげで、アーヘルゼッヘが丘のふもとへ駆け下りて、門をどうやって開けるのだろうと巨大な石の門を見上げているうちに、昨夜の服装のままのトローネが、剣を差した男達と飛び出してきた。トローネが問う前に、アーヘルゼッヘは口早に言った。
「戦争をしてはいけない。だめなんです」
「それは、誰もが知っている。しかし、攻めてきたのでは仕方があるまい」
と言った。何をいまさらという顔だ。アーヘルゼッヘはじれったくなり、
「そうじゃない。これは戦争じゃないんです。戦ってはいけない。誰も、帝都には入ってきません。彼らは、外にいるだけです。入りたくても入れないんです」
「どういうことです?」
と聞くと、アーヘルゼッヘは首を左右に振って、
「馬を。東部へ行く足をください。そうしたら、答えます」
と言った。

走った方が早かったかも知れない、と思ったのだが、彼らがあわただしく馬を引き出してくれた。アーヘルゼッヘはそれを見て、じっと待った。飛んだ方が早かったかもしれないと思ったのだが、自分が近づいていると知られたくない。力を使えば丸わかりになる。滅多なことでは使えない。

アーヘルゼッヘが馬を待つうちに、いつしか兵が集まっていた。そして、バテレスト家の者も、帝都にいる一族の多くだろうか、同じような顔に、さまざまな思い思いの衣装を着て、剣や槍を手にしていた。中にはひときわ目立つ男がいた。紫の上着に、濃い濃紺の縁取りを付けて、黄色の帯を腰に巻きつけている。先日の頭に布を巻いていた男で、今日は美しい黒髪を背後に結って、憤懣やるかたなしと言った顔で騎乗していた。

先を越されてたまるか、と思っているのか、それとも、朝早く起こされたことに腹を立てているのか。アーヘルゼッヘには彼らの心を感じるような余裕はさらさらなかった。そんなことをする必要も感じていなかった。彼らは彼らの好きにする、としか思わなかった。

巨大な石門は動かなかった、脇の通用門が手早く開けられた。石の門を開けるには、何十人もの人間が、開閉の滑車に取りつかなければならないらしい。アーヘルゼッヘは通用門を騎乗したまま通り抜け、その足で、まっすぐ中央通りを走り抜けた。

両側には鬱蒼とした森が広がっていた。通りの傍に、人の三倍ほどの高さの鉄柵があり、通りの両脇には、凱旋の時に民を入れるためか低い柵の歩道があった。今は人っ子一人いない。宮殿に荷を下ろす者達の姿も見えない。宮殿の道を守る兵士の姿も見当たらない。

アーヘルゼッヘは、森の間の大通りを駆け抜けて、中央区との境の鉄の門へ行きついた。いきり立つ馬を輪乗りで押さえ、あとから追ってきたトローネ達が、口早に門兵に開けろと言うのを聞いていた。力を使って東部を見たいと思う自分と闘った。

鉄の門が左右に開かれ、アーヘルゼッヘが馬で先へ飛び出すと、トローネが素早く脇へ付けてきた。中央区は静かなもので、官庁街の窓には、普通の人家のように服が干されていた。東部から来た人々が、いまだに、そこに寝泊まりしているらしい。朝早くから目が覚めたのか、子供達が、回廊の淵の石段で、石踏みをして遊んでいた。走り抜ける馬蹄を聞いて顔をあげ、駆け抜ける銀の髪を見つけると、両手を振り上げ歓声を上げていた。銀の髪の横にも後ろにも、まるで、従うように騎馬が追う。その様子が格好良かったらしく、興奮してしゃべっていた。

 アーヘルゼッヘと馬を並べたトローネは、
「理由を聞かせてもらいましょうか!」
と言った。呼吸も乱れていなかった。とその時、白い服が大通りの中央に飛び出してきた。アーヘルゼッヘは、旅で馬に慣れたばかりだ。慌てて手綱を引いたせいで馬が暴れて、のけぞった。慌てて手綱を緩めたが、今度は馬が首を左右に振って、そこから石畳へと落とされた。

白い服から悲鳴が上がり、あとから来た騎馬の男達が、顔色を変えて馬を駆って左右へ飛んだ。アーヘルゼッヘは埃が上がる石畳の上でゆっくり体を起こしてたちあがる。節々が痛かった。が、起きながら馬を探した。と、目の前に小柄な白い服が飛び込んできた。神官服を着たパソンで、
「申し訳ございません。わたくしが飛び出したばっかりに」
と言ったきり、真っ青になったまま、アーヘルゼッヘの体を上から下まで手をのばして触っている。どこか骨が折れていないか必死になって探している。アーヘルゼッヘはその手をよけて、
「大丈夫です。お元気そうですね」
と言って笑った。すると、パソンが泣き笑いの顔になった。
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