卯月ゆう莉は罪つくり

Hatton

文字の大きさ
30 / 39
ショートショート

コーヒーキャンディ

しおりを挟む
卯月うづきゆうは、口に含んでいたソレを外に出した。

舌先で先端を転がしてから、軽く唇でついばむように吸いついた。

チュパッと軽い音をたて、唾液の粒が弾ける。

クルクルクルクルと回る舌に、ソレの先端はまた弄ばれる。

そしてパクリとふたたび口の中に戻した。

神崎造かんざきつくるは見てはいけない行為を見ている気がして、さりげなく視線を落とす。

「バリッ!バリッ!ゴリゴリッ!」

ひと気のない放課後の自習室に、盛大な咀嚼音が響いた。

「飴をずっと口に入れておけないタイプなんですね」

「そうなんだよね、ものの数分で飽きちゃってさあ」

ゆう莉はさっきまで丸い飴玉が付いていた棒を口から引き抜き、正面で教科書を開いている造に、「ん」とだけ言って差し出す。

造は当たり前のように受け取り、机脇に下げている通学カバンのジッパーを開け、取り出したビニール袋の中に捨てた。

「はああ、全然減らないよお…」と嘆きながら、ゆう莉はカバンから新しいキャンディを取り出した。

「業務用ホイールなんか衝動買いするからですよ」

ホイールとは、コンビニのレジ横などにたまに置いてある、たくさんの棒付きキャンディが刺さった円筒状のディスプレイのことだ。ちなみにだが、比較的小さなタイプでも100本以上の容量がある。


「大人買いにしても限度があるでしょうに」という造のもっともな疑問に対し、「幼い自分のささやかな夢を、叶えてあげたくなってさ」とゆう莉は意味深に遠くを見つめて答えた。

ゆう莉は袋を開けた飴をペロリと舐めた。

しかし、「うえっ、コーヒー味だったコレ」とすぐに顔をしかめた。

彼女がコーヒーを苦手としていることを、造は初めて知った。小さな発見を、頭のメモに書き留めておいた。

「ん」

ゆう莉はまたしても造に差し出した。ただし今度は飴玉もついてる。

「え?」

「あげる」

造は眼前に差し出された茶色い塊を見つめ、動揺した。

「どしたん?別に潔癖症とかじゃないでしょ?ちょろっと舐めただけだし」

たしかにペットポルの回し飲みくらいなら、造も特に抵抗はない。

だが目の前にある飴は、彼女が舐めた部分だけツヤやかに光っていて、なんとも言えない生々しさがあった。

「…俺もコーヒーはあんまり」

「そうだったっけ?」

「そうです。苦手なんです。本物も飲めないし、お菓子なんてもっと無理です」

「はいはい、わかりましたよ…あ、そのページでストップ」

そこでようやく、国語が苦手な後輩に現代文の講義をしてあげるという今日の自分の役割を思い出したようで、ゆう莉は造の教科書の一文を指差した。

「ここ、たぶんテストに出ると思うよ」

彼女の指先に、造は視線を落とした。

その瞬間

「!?」

口の中に丸くて硬い何かがねじ込まれるのを造は感じた。

ソレがコーヒー味の棒付きキャンディであることに、一瞬遅れて気がつく。

目をあげると、ゆう莉がニマニマ笑っている。

「コーヒーは苦手だって…」造はバツが悪そうに睨みながら、抗議した。

ゆう莉はニマニマを絶やすことなく、やや斜め右下に視線をやる。造もつられてそちらを見やった。

視線の先には机に下げた造の黒いカバンがあり、ジッパーが開いていた。その中から、造が先ほど学校の自販機で買ったペットボトルが見えている。

パッケージに「CRAFT BOSS 」というブランドロゴとともにダンディなおじさんが描かれていて、真っ黒な液体が半分ほど残っているのだった。

「……」

造は色々な種類の羞恥のブレンドを味わった。それこそまさに、コーヒーのような。

「ふふん、詰めがキャンディみたいに甘々だなあ、少年」

ゆう莉は造のほおを指でツンツンしながら、大いに楽しそうに言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...