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ショートショート
コーヒーキャンディ
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卯月ゆう莉は、口に含んでいたソレを外に出した。
舌先で先端を転がしてから、軽く唇でついばむように吸いついた。
チュパッと軽い音をたて、唾液の粒が弾ける。
クルクルクルクルと回る舌に、ソレの先端はまた弄ばれる。
そしてパクリとふたたび口の中に戻した。
神崎造は見てはいけない行為を見ている気がして、さりげなく視線を落とす。
「バリッ!バリッ!ゴリゴリッ!」
ひと気のない放課後の自習室に、盛大な咀嚼音が響いた。
「飴をずっと口に入れておけないタイプなんですね」
「そうなんだよね、ものの数分で飽きちゃってさあ」
ゆう莉はさっきまで丸い飴玉が付いていた棒を口から引き抜き、正面で教科書を開いている造に、「ん」とだけ言って差し出す。
造は当たり前のように受け取り、机脇に下げている通学カバンのジッパーを開け、取り出したビニール袋の中に捨てた。
「はああ、全然減らないよお…」と嘆きながら、ゆう莉はカバンから新しいキャンディを取り出した。
「業務用ホイールなんか衝動買いするからですよ」
ホイールとは、コンビニのレジ横などにたまに置いてある、たくさんの棒付きキャンディが刺さった円筒状のディスプレイのことだ。ちなみにだが、比較的小さなタイプでも100本以上の容量がある。
「大人買いにしても限度があるでしょうに」という造のもっともな疑問に対し、「幼い自分のささやかな夢を、叶えてあげたくなってさ」とゆう莉は意味深に遠くを見つめて答えた。
ゆう莉は袋を開けた飴をペロリと舐めた。
しかし、「うえっ、コーヒー味だったコレ」とすぐに顔をしかめた。
彼女がコーヒーを苦手としていることを、造は初めて知った。小さな発見を、頭のメモに書き留めておいた。
「ん」
ゆう莉はまたしても造に差し出した。ただし今度は飴玉もついてる。
「え?」
「あげる」
造は眼前に差し出された茶色い塊を見つめ、動揺した。
「どしたん?別に潔癖症とかじゃないでしょ?ちょろっと舐めただけだし」
たしかにペットポルの回し飲みくらいなら、造も特に抵抗はない。
だが目の前にある飴は、彼女が舐めた部分だけツヤやかに光っていて、なんとも言えない生々しさがあった。
「…俺もコーヒーはあんまり」
「そうだったっけ?」
「そうです。苦手なんです。本物も飲めないし、お菓子なんてもっと無理です」
「はいはい、わかりましたよ…あ、そのページでストップ」
そこでようやく、国語が苦手な後輩に現代文の講義をしてあげるという今日の自分の役割を思い出したようで、ゆう莉は造の教科書の一文を指差した。
「ここ、たぶんテストに出ると思うよ」
彼女の指先に、造は視線を落とした。
その瞬間
「!?」
口の中に丸くて硬い何かがねじ込まれるのを造は感じた。
ソレがコーヒー味の棒付きキャンディであることに、一瞬遅れて気がつく。
目をあげると、ゆう莉がニマニマ笑っている。
「コーヒーは苦手だって…」造はバツが悪そうに睨みながら、抗議した。
ゆう莉はニマニマを絶やすことなく、やや斜め右下に視線をやる。造もつられてそちらを見やった。
視線の先には机に下げた造の黒いカバンがあり、ジッパーが開いていた。その中から、造が先ほど学校の自販機で買ったペットボトルが見えている。
パッケージに「CRAFT BOSS 」というブランドロゴとともにダンディなおじさんが描かれていて、真っ黒な液体が半分ほど残っているのだった。
「……」
造は色々な種類の羞恥のブレンドを味わった。それこそまさに、コーヒーのような。
「ふふん、詰めがキャンディみたいに甘々だなあ、少年」
ゆう莉は造のほおを指でツンツンしながら、大いに楽しそうに言った。
舌先で先端を転がしてから、軽く唇でついばむように吸いついた。
チュパッと軽い音をたて、唾液の粒が弾ける。
クルクルクルクルと回る舌に、ソレの先端はまた弄ばれる。
そしてパクリとふたたび口の中に戻した。
神崎造は見てはいけない行為を見ている気がして、さりげなく視線を落とす。
「バリッ!バリッ!ゴリゴリッ!」
ひと気のない放課後の自習室に、盛大な咀嚼音が響いた。
「飴をずっと口に入れておけないタイプなんですね」
「そうなんだよね、ものの数分で飽きちゃってさあ」
ゆう莉はさっきまで丸い飴玉が付いていた棒を口から引き抜き、正面で教科書を開いている造に、「ん」とだけ言って差し出す。
造は当たり前のように受け取り、机脇に下げている通学カバンのジッパーを開け、取り出したビニール袋の中に捨てた。
「はああ、全然減らないよお…」と嘆きながら、ゆう莉はカバンから新しいキャンディを取り出した。
「業務用ホイールなんか衝動買いするからですよ」
ホイールとは、コンビニのレジ横などにたまに置いてある、たくさんの棒付きキャンディが刺さった円筒状のディスプレイのことだ。ちなみにだが、比較的小さなタイプでも100本以上の容量がある。
「大人買いにしても限度があるでしょうに」という造のもっともな疑問に対し、「幼い自分のささやかな夢を、叶えてあげたくなってさ」とゆう莉は意味深に遠くを見つめて答えた。
ゆう莉は袋を開けた飴をペロリと舐めた。
しかし、「うえっ、コーヒー味だったコレ」とすぐに顔をしかめた。
彼女がコーヒーを苦手としていることを、造は初めて知った。小さな発見を、頭のメモに書き留めておいた。
「ん」
ゆう莉はまたしても造に差し出した。ただし今度は飴玉もついてる。
「え?」
「あげる」
造は眼前に差し出された茶色い塊を見つめ、動揺した。
「どしたん?別に潔癖症とかじゃないでしょ?ちょろっと舐めただけだし」
たしかにペットポルの回し飲みくらいなら、造も特に抵抗はない。
だが目の前にある飴は、彼女が舐めた部分だけツヤやかに光っていて、なんとも言えない生々しさがあった。
「…俺もコーヒーはあんまり」
「そうだったっけ?」
「そうです。苦手なんです。本物も飲めないし、お菓子なんてもっと無理です」
「はいはい、わかりましたよ…あ、そのページでストップ」
そこでようやく、国語が苦手な後輩に現代文の講義をしてあげるという今日の自分の役割を思い出したようで、ゆう莉は造の教科書の一文を指差した。
「ここ、たぶんテストに出ると思うよ」
彼女の指先に、造は視線を落とした。
その瞬間
「!?」
口の中に丸くて硬い何かがねじ込まれるのを造は感じた。
ソレがコーヒー味の棒付きキャンディであることに、一瞬遅れて気がつく。
目をあげると、ゆう莉がニマニマ笑っている。
「コーヒーは苦手だって…」造はバツが悪そうに睨みながら、抗議した。
ゆう莉はニマニマを絶やすことなく、やや斜め右下に視線をやる。造もつられてそちらを見やった。
視線の先には机に下げた造の黒いカバンがあり、ジッパーが開いていた。その中から、造が先ほど学校の自販機で買ったペットボトルが見えている。
パッケージに「CRAFT BOSS 」というブランドロゴとともにダンディなおじさんが描かれていて、真っ黒な液体が半分ほど残っているのだった。
「……」
造は色々な種類の羞恥のブレンドを味わった。それこそまさに、コーヒーのような。
「ふふん、詰めがキャンディみたいに甘々だなあ、少年」
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