黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

文字の大きさ
6 / 51

6

しおりを挟む
カッコ悪い大人にだけはならないと、あの頃は本気で思ってたんだけどな。

でっぷりとした腹をスラックスに乗せ、満員電車に揺られ、疲れを滲ませた顔を引っさげ、何をするでもなく目を閉じて、険しい顔をしてつっ立っている中年オヤジを見て、学生時代の俺はいつも辟易していた。

出ても出なくても大して変わらんような大学で、大して勉強も努力もせず、漫然と生きていたくせに、大人をコケにすることだけは一丁前だった。

若さゆえの無知、いや、若さのせいばかりにすんのもアレか…

感傷に浸っていると、スマホから鳴り響くアラーム音が、左耳から刺さって無抵抗に右耳を通り抜けた。

何時間も見つめていた白い天井は、カーテンから漏れる朝日に、清潔に照らされている。

きっと窓の外は快晴なんだろう。皮肉なもんだ。

アラームを止め、セミダブルのベッドから足を下ろして、クローゼットを開け、シャツとスーツの上下に着替え、寝室をでた。

8畳のリビングにあるソファには、脱ぎっぱなしのワイシャツと靴下が雑然と積まれている

まとめて洗濯しようと思いながら、もう二週間は経っただろうか。

使用済みの靴下の中から、なんとなくマシそうなやつをとり、かまわず足を通した。

キッチンに目をやると、燃えるゴミの袋が四つまとまっていた。

「しまった」

つい独り言が漏れてしまった。昨日が燃えるゴミの日だったことを思い出したからだ。

次でいいかと後回しにし続けて、やはり二週間も放置している。

廊下の途中にある洗面所に行き、ジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくり、顔を洗う。

洗面台の白い電球に照らされた顔が、鏡面に映った。

その光は落ち窪んだ目の周囲に黒々とした影を落とし、肌のザラザラとした質感を惨めに際立たせた。

どうやら清潔な光は、人の不健全な様相を引き立てるらしい。おかしなもんだ。

洗顔と歯磨きを済ませ、ジャケットを羽織り直し、廊下の壁にかけてあるカバンを手にとった。

バクン、バクン

心臓が叫ぶように鼓動した。

ドアポストからわずかに陽光が漏れているだけの薄暗い廊下に、俺は立ち往生した。

かすかに荒くなった呼吸と、腹底からせりあがる何かを必死に落ち着かせようとした。

「大丈夫、大丈夫だ」

まじないのように唱えながら、ドアのほうに足を進めた。

「ああ」

また独り言が漏れた。昨日が燃えるゴミの日なら、今日は空き缶の日であることを思い出したのだ。

また来週にしようかと思ったが、さすがに放置しすぎなゴミの山を思うと憚られれる。

リビングに戻り、冷蔵庫そばにある棚のゴミ袋を引っ張り出し、ソファの前のテーブルに足をはこんだ。

栄養ドリンクと、ビールと酎ハイの缶が、まるでドミノのように敷き詰められているテーブルを見て、我ながら酷いもんだと呆れかえってしまう。

ゴミ袋にぜんぶ放り込んでしまおうと身をかがめた瞬間、世界がグラリと揺れた。

実際に揺れたのは、俺の視界であり、足だった。

倒れそうになる体を、グッと押し留めた拍子に、膝がテーブルの端にぶつかる。

缶のドミノが崩れ、ガラガラと床に散らばった。

まだ僅かに残っていた酒が、そうでなくともシミだらけだったグレーのラグに溢れ、沁み込んだ。

今度は世界が滲んだ。実際に滲んだのは俺の網膜だ。

気の抜けた炭酸と、アルコールの匂いがした。なんて惨めで、鬱々とした匂いなんだろうか。

腹底からせりあがっていた何かが、とうとう喉元までやってきた。

俺はトイレに駆け込み、便器の前でうずくまり、嗚咽した。

「うえ!うええええ!」

酷い二日酔いの朝みたいだ。昨晩は一滴も飲んでないというのに。

口からは、無色透明で粘り気のある液体しか出てこない。

当然か。昨日は結局、杏子が頼んだポテトを数本齧っただけで、ほぼ何も食べていないのだから。

「はは、ははは、情けない、情けない、情けない…」

笑いたいのか泣きたいのか、自分でももうわからなかった。

ズブズブと足元がぬかるみ、沈み込んでいくような感覚がした。そのまま泥になって溶けていくんじゃないかとさえ思った。いっそそうなって欲しいとさえ思った。

でも早鐘を打つ心臓が、そんなのは妄想だと告げ、どうしようもなく生きていることを主張した。

すると、唐突に、心臓の真上が微かに震えた。

ブルッ、ブルッ、とまるで宥めるような柔らかな振動だ。

胸ポケットから取り出したスマホを開くと、杏子からの着信だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...