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いざやってみたら、あっさりしたもんだ。この拍子抜け具合は、初彼女と初体験を済ませた直後の感覚と似ていた。
あれから数日、俺の退職はつつがなく完了した。
「ニートデビュー、おめ」
「ははは、それはどうも」
その最大の功労者である彼女は、彼女らしい言い回しで、俺の退職を祝ってくれた。
場所は、あのときと同じ、ファミレスだ。今日こそはいいものをご馳走しようと意気込んだのに、あれよかれよと言いくるめられ、結局安く済まされてしまった。
「これからどーすんの?」
「一ヶ月くらいはのんびりしようかなと思ってる」
「お金とかへーき?」
「退職金は出るし、一度も使ったことない有給も買い取ってくれるみたいだからね」
「へー、いがい」
これには俺も驚いた。退職代行の人が頑張ってくれたのか、あるいは俺に対してうしろめたい誰かさんの機嫌取りなのか。まあ、どっちでもいい。
いちおう貯金もそれなりにー使う時間と気力が無く、埃のように積もった預金残高をそう呼べるのならーあるため、一月どころか一年は無収入でもなんとかなる。もっとも、そこまでのんびりする気もないのだが。
ヴヴヴヴヴ、と机の上の杏子のスマホが震えた。
だが彼女は一向のかまうことなく、話を続ける。
「そんじゃ、記念に一発ヤっとく?」
「!?」
あやうくコーヒーを吹き出しそうになった。そうそう、この子はこういう子だった。数日前が女神すぎてすっかり忘れていたけど。
「無職になったばかりのオッサンに無茶なこと言わないでくれよ」
「退職記念と初回サービスセットってことで、無料でいいよ」
また、突拍子も無いことを。その豪華特典のプレゼンはかなり効くからやめてほしい。
「…やめとくよ」
「べつにいいじゃん、今は失うもんもないし」
たしかにそうだ。でも、やっぱり無理だった。俺は彼女に恩がありすぎる。いや、恩なんてなくても無理だ。
「杏子みたいな良い子を、そんなはけ口みたいに使えないよ」
「だから、良い子じゃねーって」
「いや、君は良い子だよ」
「はいはい、一生言ってれば」
杏子はまたそっぽを向く。でもその角度だと、ほんのり染まった耳が見えちゃうんだけどな。
それはともかく、俺にはまだ言いたいことがあった。というよりこっちが本題だ。
つい姿勢を正し、軽く深呼吸までしてしまった。
俺の緊張を察したのか、杏子は正面を向き、不思議そうな表情を浮かべる。
意を決して口を開いた。
「でも、また会えたらなって思ってる。できれば定期的に」
「…アタシと?」
「もちろん」
「会ってどうすんの?」
「たまにいっしょに飯食って、近況報告…みたいな感じで…」
「エッチはなしで?」
「なしで…」
言えば言うほどおかしなことを言っている気がした。事実おかしな話だ。
30過ぎのおっさんが、女子高生相手にする提案としては変すぎるし、なんならキモすぎる。まだ「ホ別三万でどう?」とかのほうが、常識的とさえ思えた。
「い、いやだよね!?こんなオッサンと飯なんてさ!ごめんよ、忘れ…」
「いいよ」
あまりのいたたれなさによる前言撤回を、杏子は遮った。
「ほんとに?」
「うん、シューイチくらいでどう?」
「そんなに会ってくれるのかい?」
「そんなにってwアタシのこと好きすぎくね?w」
今度は俺の顔が染まる番だった。なにはともあれ、これにて今日の目的は達成だ。安堵と共に肩がズズッと落ちて、ここまでどれだけ肩肘張っていたのかを実感した。
「それにしてもさあ、なんかアレみたいじゃんね」
「アレって?」
「ほら、離婚して離れて暮らすようになったパパと娘がたまに会う的な…親子面会っていうんだっけ?」
「ああ、なるほど」
「つまり、パパ活じゃん」
「た、たしかに…」
なるほど、ある意味では究極のパパ活かもしれん。やっぱりおかしな話だ。
ヴヴヴヴヴ
また彼女のスマホが震えた。さっきもなんだかんだでずっと鳴り続けて、ついさっき切れたかと思ったら、すぐにまた鳴ったのだ。
「出なくていいのかい?」
「いいの」
と言い、杏子はスマホをタップし、着信を拒否した。
「もし気が変わったら言ってよね」
「変わるって?」
「フツーのパパ活がしたくなったらってこと」
杏子はいつかのように、軽く握った拳を上下し、ペロリと舌を出し、下品なジェスチャーをした。
俺は自分の理性と良識に対し、とんでもない試練を課してしまったのかもしれない…
あれから数日、俺の退職はつつがなく完了した。
「ニートデビュー、おめ」
「ははは、それはどうも」
その最大の功労者である彼女は、彼女らしい言い回しで、俺の退職を祝ってくれた。
場所は、あのときと同じ、ファミレスだ。今日こそはいいものをご馳走しようと意気込んだのに、あれよかれよと言いくるめられ、結局安く済まされてしまった。
「これからどーすんの?」
「一ヶ月くらいはのんびりしようかなと思ってる」
「お金とかへーき?」
「退職金は出るし、一度も使ったことない有給も買い取ってくれるみたいだからね」
「へー、いがい」
これには俺も驚いた。退職代行の人が頑張ってくれたのか、あるいは俺に対してうしろめたい誰かさんの機嫌取りなのか。まあ、どっちでもいい。
いちおう貯金もそれなりにー使う時間と気力が無く、埃のように積もった預金残高をそう呼べるのならーあるため、一月どころか一年は無収入でもなんとかなる。もっとも、そこまでのんびりする気もないのだが。
ヴヴヴヴヴ、と机の上の杏子のスマホが震えた。
だが彼女は一向のかまうことなく、話を続ける。
「そんじゃ、記念に一発ヤっとく?」
「!?」
あやうくコーヒーを吹き出しそうになった。そうそう、この子はこういう子だった。数日前が女神すぎてすっかり忘れていたけど。
「無職になったばかりのオッサンに無茶なこと言わないでくれよ」
「退職記念と初回サービスセットってことで、無料でいいよ」
また、突拍子も無いことを。その豪華特典のプレゼンはかなり効くからやめてほしい。
「…やめとくよ」
「べつにいいじゃん、今は失うもんもないし」
たしかにそうだ。でも、やっぱり無理だった。俺は彼女に恩がありすぎる。いや、恩なんてなくても無理だ。
「杏子みたいな良い子を、そんなはけ口みたいに使えないよ」
「だから、良い子じゃねーって」
「いや、君は良い子だよ」
「はいはい、一生言ってれば」
杏子はまたそっぽを向く。でもその角度だと、ほんのり染まった耳が見えちゃうんだけどな。
それはともかく、俺にはまだ言いたいことがあった。というよりこっちが本題だ。
つい姿勢を正し、軽く深呼吸までしてしまった。
俺の緊張を察したのか、杏子は正面を向き、不思議そうな表情を浮かべる。
意を決して口を開いた。
「でも、また会えたらなって思ってる。できれば定期的に」
「…アタシと?」
「もちろん」
「会ってどうすんの?」
「たまにいっしょに飯食って、近況報告…みたいな感じで…」
「エッチはなしで?」
「なしで…」
言えば言うほどおかしなことを言っている気がした。事実おかしな話だ。
30過ぎのおっさんが、女子高生相手にする提案としては変すぎるし、なんならキモすぎる。まだ「ホ別三万でどう?」とかのほうが、常識的とさえ思えた。
「い、いやだよね!?こんなオッサンと飯なんてさ!ごめんよ、忘れ…」
「いいよ」
あまりのいたたれなさによる前言撤回を、杏子は遮った。
「ほんとに?」
「うん、シューイチくらいでどう?」
「そんなに会ってくれるのかい?」
「そんなにってwアタシのこと好きすぎくね?w」
今度は俺の顔が染まる番だった。なにはともあれ、これにて今日の目的は達成だ。安堵と共に肩がズズッと落ちて、ここまでどれだけ肩肘張っていたのかを実感した。
「それにしてもさあ、なんかアレみたいじゃんね」
「アレって?」
「ほら、離婚して離れて暮らすようになったパパと娘がたまに会う的な…親子面会っていうんだっけ?」
「ああ、なるほど」
「つまり、パパ活じゃん」
「た、たしかに…」
なるほど、ある意味では究極のパパ活かもしれん。やっぱりおかしな話だ。
ヴヴヴヴヴ
また彼女のスマホが震えた。さっきもなんだかんだでずっと鳴り続けて、ついさっき切れたかと思ったら、すぐにまた鳴ったのだ。
「出なくていいのかい?」
「いいの」
と言い、杏子はスマホをタップし、着信を拒否した。
「もし気が変わったら言ってよね」
「変わるって?」
「フツーのパパ活がしたくなったらってこと」
杏子はいつかのように、軽く握った拳を上下し、ペロリと舌を出し、下品なジェスチャーをした。
俺は自分の理性と良識に対し、とんでもない試練を課してしまったのかもしれない…
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