18 / 51
18
しおりを挟む
「へー、いいじゃん」
いつの間にか隣に来ていた杏子は、カットを終え、整髪料でセットされた俺を見て、満足気に頷いた。
たしかに、もとがもとなのでイケオジとは程遠いものの、けっこう見れるようにはなった気がする。
髪型ひとつで結構変わるもんだ。麗香さんの腕によるところが大きいんだろうが。
素直にお礼を言おうと口を開きかけたところ、被せるように杏子が麗香さんに言った。
「ついでにメイクもしちゃおう」
「はあ!?」
「そうだねえ、せっかくだし」
「まったまった、メイクって俺に?」
「他に誰がいんのさ」
「そんな、芸能人じゃあるまいし…」
「あーもう、古い古い、これだからおじさんはさあ」
「ふふ、今はメンズメイクも当たり前になっているんですよ」
そうなのか?いまどきは普通なのか?
だとしたら、やっぱり時代は知らず知らずのうちに大変革を遂げていた。
「ま、とりまやってみなよ」
「気に入らなかったら落としますから」
二人の女性による美容圧の前に、俺は無力だった。
もうどうとでもしてくれ…
「はええ」
十分後、仕上がりに対し、俺は間抜けな感嘆をあげた。
なんというか、思いのほか、良い、
骸骨を思わせる目元の窪みは目立たなくなり、見ただけでカサカサの質感を想像させる肌は、しっとりと潤いを帯びているかのようになっていた。ついでに気になっていたデコのシワも綺麗に消えている。
しかも、これだけ変わっているのに、メイクをしている感は一切ない。
「いかがですか?やっぱり落とします?」
麗香さんは一応尋ねつつも、落としたいわけないよね?という自負に満ちた顔をしている。
「いえ、このままで」
正直なところ、いたく気に入った。
これならすれ違う人の目端に映る、0コンマ数秒程度の視界の上でなら、イケオジと認識されるかもしれん。
「お、見違えたじゃん」
トイレから戻ってきた杏子も、ほらアタシの言ったとおりだったでしょ?的な顔で俺を見た。
はい、確かに仰る通りでした。
改めて麗香さんにお礼を言い、会計に移った。
レジ前で、カードを出す俺の姿を、杏子が横からパシャリと撮った。
そして店を出ると、杏子は意気揚々と告げる。
「じゃ、次は首から下ね」
「服ってこと?わりかし間に合ってるんだけどなあ」
彼女はあらためて俺の全身を見定めた。
10年履いているジーンズに、いつ買ったか覚えていないシャツとセーター、別に普通の格好だと思うのだが。
「いかにも休日のおじさんって感じ」
言葉のナイフが肺腑を抉る。心中で「ゴフッ!」と嘔吐いてしまった。
「つーわけで、間に合ってませーん」
と杏子は俺の肘に腕を絡め、そのまま引っ張るように足を進めた。
俺と同じ歳くらいの会社員が、すれ違いざまにチラリと視線を送った気がする。どうか仲の良い親子くらいに見えてますように。兄妹なんて贅沢は言いませんので。
「あははははww似合わねーーww」
試着室のカーテンを開けた俺を見て、杏子は大笑いしながらパシャパシャと写真を撮った。
俺は顔の筋肉のすべてが脱力し、無の表情で醜態を晒し続けた。
若者向けのセレクトショップ内に、杏子の楽しげな声が響く。
いいんだ、いいんだ、彼女が笑ってくれるなら。
チラリと側面の鏡を見れば、首から上と、その下が絶望的なほどアンバランスであることが伺えた。
「あの店員さんとほぼ一緒なのにねーw」
彼女は店内を指差した。
俺も試着室から首を出して覗き、服を畳んでいるスタッフの姿を見つけた。たしかに似ている。服だけは。
同じダボっとしたルーズなカーゴパンツに、これまたダボっとしたオーバーサイズの白シャツというスタイルなのに、モデルが違うだけでこうも違うもんか。
ひと通り笑った杏子はスマホを下ろし、試着室のカーテンを閉めた。
「じゃあ次は真面目に選ぶから、さっさとそれ脱いじゃって」
「似合うわけないのわかってて着せたのかい?」
「面白かったでしょ?w」
「…君はね」
遊ばれてんなあ。
試着室を出て、店内のやや奥まったところに行くと、少し雰囲気が変わった。
フォーマルなジャケットやスラックス、ネクタイなどが陳列してあるのだ。
へえ、こういうテイストの服も置いてあるんだな。
杏子は「NEW ARRIVAL」というポップと共ハンガーに掛かっている濃紺のジャケットを手にとり、俺にあてがう。
「うん、これでいいんじゃね」
と満足そうに頷くと、ちょうど通りかかった女性スタッフに声をかけた。
「すいません、このジャケットに合わせて、いい感じにフルコーデしてもらえます?」
ゴージャスギャルと冴えないアラサーという珍妙な組み合わせの俺たちに、彼女は一瞬訝しげな表情をしたものの、すぐに感じの良い笑みを浮かべた。
「はい!では試着室へどうぞ!」
そして彼女もまた、瞳の奥がメラっと燃えた気がした。
どうやらお洒落な人は自分だけでなく、他人を着飾るのも好きらしい。
いつの間にか隣に来ていた杏子は、カットを終え、整髪料でセットされた俺を見て、満足気に頷いた。
たしかに、もとがもとなのでイケオジとは程遠いものの、けっこう見れるようにはなった気がする。
髪型ひとつで結構変わるもんだ。麗香さんの腕によるところが大きいんだろうが。
素直にお礼を言おうと口を開きかけたところ、被せるように杏子が麗香さんに言った。
「ついでにメイクもしちゃおう」
「はあ!?」
「そうだねえ、せっかくだし」
「まったまった、メイクって俺に?」
「他に誰がいんのさ」
「そんな、芸能人じゃあるまいし…」
「あーもう、古い古い、これだからおじさんはさあ」
「ふふ、今はメンズメイクも当たり前になっているんですよ」
そうなのか?いまどきは普通なのか?
だとしたら、やっぱり時代は知らず知らずのうちに大変革を遂げていた。
「ま、とりまやってみなよ」
「気に入らなかったら落としますから」
二人の女性による美容圧の前に、俺は無力だった。
もうどうとでもしてくれ…
「はええ」
十分後、仕上がりに対し、俺は間抜けな感嘆をあげた。
なんというか、思いのほか、良い、
骸骨を思わせる目元の窪みは目立たなくなり、見ただけでカサカサの質感を想像させる肌は、しっとりと潤いを帯びているかのようになっていた。ついでに気になっていたデコのシワも綺麗に消えている。
しかも、これだけ変わっているのに、メイクをしている感は一切ない。
「いかがですか?やっぱり落とします?」
麗香さんは一応尋ねつつも、落としたいわけないよね?という自負に満ちた顔をしている。
「いえ、このままで」
正直なところ、いたく気に入った。
これならすれ違う人の目端に映る、0コンマ数秒程度の視界の上でなら、イケオジと認識されるかもしれん。
「お、見違えたじゃん」
トイレから戻ってきた杏子も、ほらアタシの言ったとおりだったでしょ?的な顔で俺を見た。
はい、確かに仰る通りでした。
改めて麗香さんにお礼を言い、会計に移った。
レジ前で、カードを出す俺の姿を、杏子が横からパシャリと撮った。
そして店を出ると、杏子は意気揚々と告げる。
「じゃ、次は首から下ね」
「服ってこと?わりかし間に合ってるんだけどなあ」
彼女はあらためて俺の全身を見定めた。
10年履いているジーンズに、いつ買ったか覚えていないシャツとセーター、別に普通の格好だと思うのだが。
「いかにも休日のおじさんって感じ」
言葉のナイフが肺腑を抉る。心中で「ゴフッ!」と嘔吐いてしまった。
「つーわけで、間に合ってませーん」
と杏子は俺の肘に腕を絡め、そのまま引っ張るように足を進めた。
俺と同じ歳くらいの会社員が、すれ違いざまにチラリと視線を送った気がする。どうか仲の良い親子くらいに見えてますように。兄妹なんて贅沢は言いませんので。
「あははははww似合わねーーww」
試着室のカーテンを開けた俺を見て、杏子は大笑いしながらパシャパシャと写真を撮った。
俺は顔の筋肉のすべてが脱力し、無の表情で醜態を晒し続けた。
若者向けのセレクトショップ内に、杏子の楽しげな声が響く。
いいんだ、いいんだ、彼女が笑ってくれるなら。
チラリと側面の鏡を見れば、首から上と、その下が絶望的なほどアンバランスであることが伺えた。
「あの店員さんとほぼ一緒なのにねーw」
彼女は店内を指差した。
俺も試着室から首を出して覗き、服を畳んでいるスタッフの姿を見つけた。たしかに似ている。服だけは。
同じダボっとしたルーズなカーゴパンツに、これまたダボっとしたオーバーサイズの白シャツというスタイルなのに、モデルが違うだけでこうも違うもんか。
ひと通り笑った杏子はスマホを下ろし、試着室のカーテンを閉めた。
「じゃあ次は真面目に選ぶから、さっさとそれ脱いじゃって」
「似合うわけないのわかってて着せたのかい?」
「面白かったでしょ?w」
「…君はね」
遊ばれてんなあ。
試着室を出て、店内のやや奥まったところに行くと、少し雰囲気が変わった。
フォーマルなジャケットやスラックス、ネクタイなどが陳列してあるのだ。
へえ、こういうテイストの服も置いてあるんだな。
杏子は「NEW ARRIVAL」というポップと共ハンガーに掛かっている濃紺のジャケットを手にとり、俺にあてがう。
「うん、これでいいんじゃね」
と満足そうに頷くと、ちょうど通りかかった女性スタッフに声をかけた。
「すいません、このジャケットに合わせて、いい感じにフルコーデしてもらえます?」
ゴージャスギャルと冴えないアラサーという珍妙な組み合わせの俺たちに、彼女は一瞬訝しげな表情をしたものの、すぐに感じの良い笑みを浮かべた。
「はい!では試着室へどうぞ!」
そして彼女もまた、瞳の奥がメラっと燃えた気がした。
どうやらお洒落な人は自分だけでなく、他人を着飾るのも好きらしい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる