黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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ヒーローを気取るのも楽じゃないな。

俺は職場近くの喫茶店で、ナポリタンをフォークで巻きながら、嘆息した。こじんまりとした店内には、俺の他に買い物帰りの主婦二人組と、カウンター内でコーヒーを淹れているマスターしかいない。

結局あの後、本当に警官がやってきた。40代と20代そこそこの二人組の制服警官は、大いに戸惑っていたな。

そりゃそうだ。通報され、訴えられている俺たちが、何一つ法律を犯していないのだから。なぜ自分たちが呼ばれたのか、さっぱり理解できなかったことだろう。

事情を把握した警官たちは、通報者であるマダムをなだめることに注力したが、彼女はまったく聞く耳もたず、ますます激しく騒ぎ始めた。

だから俺は「いっそ営業妨害で被害届出してもいいですか?」と警官に相談した。それを聞いたマダムは、たじろぎ、顔色が悪くなり、ようやく自分の立場を理解したようだった。

警官たちが俺の提案に乗り気な姿勢を見せたので、マダムは憤慨しつつも、逃げるように店を去ったのだった。

その直後に、社長兼元同僚にいちおう報告した。彼も現場のことはよく知っているので、決して俺を責め立てるようなことは言わなかったが…

「もうちょっと、上手くあしらってもらいたかったなあ」

とボヤかれてしまった。まったく勝手なこと言いやがって。

だが彼の立場からすれば、仕方のないことだ。多分ないだろうが、あのマダムが本社にまで文句をつけてきたら、かなり面倒なことになるだろうしな。

だから素直に謝りはしたものの、なんとなくモヤモヤ感が胸にわだかまっていた。

そういえば、あの後の並木さんはちょっと変だったな。

社長に報告した後、時計を見たらすでに午後十五時近くだったので、俺は慌てて彼女に言った。

「だいぶ遅くなったけど、お昼休憩行ってきな」

「…」

「並木さん?」

「あ、えっと…す、すいません」

「なにが?」

「それは、ほら、こんな大ごとになってしまってというか」

「ははは、火に油を注いだのは俺の方だよ。だから気にしないで」

「…」

「ねえ、ほんとに大丈夫かい?」

「ひゃっ、え、ええ、問題ありましぇん」

「そう?なんか顔がだいぶ赤いけど、もしかして体調悪いんじゃ?それなら無理せず…」

「ほ、ほほほ本当に大丈夫です!休憩にい、行ってまいりまする」

「う、うん、行ってらっしゃい」

こうしてまず並木さんが昼休憩に行き、彼女と交代でようやく俺の休憩となり、遅すぎる昼食にありつけた。

考えてみれば、並木さんは前の職がオフィスワークで、接客関係はこの仕事が初めてらしい。理不尽クレーマーの相手をした経験なんてないのだから、動揺するのも当然か。

戻ったら、あらためてフォローした方がいいかもしれん。

「…男って察しが悪いからさあ」

「ほんとそう!義務教育で女心について教えるべきよねえ!」

旦那の悪口に花を咲かせていた主婦組の声がー身につまされる内容なだけにー俺の耳まで届いた。たしかに、できれば思春期に入る前に、教えてもらいたかったかもな。


ナポリタンを平らげ、食後のコーヒーを堪能していたところ、スマホにメッセージが届いた。

あんず「マラソンなんてわざわざ学校で習う必要ないって思わん?」

岩城「体育の授業のこと?」

あんず「もうしんどすぎてしんどい」

岩城「おつかれさま笑」

あんず「『笑』っていかにもおじさんって感じ」

岩城「大きなお世話だよ」

あんず「てかそっちももう終わり?はやくね?」

岩城「いや、昼休憩中」

あんず「もう夕方なんだが?」

岩城「クレーマーの相手をしててさ」

あんず「今日も社畜ってるね」

岩城「まあね」

こんな他愛もないやりとりに、浮き足立ってしまうあたり、本当に重症だ。

返事が止まったので、アプリをとじ、あらためてコーヒーを飲み、主婦たちの談笑を盗み聞きし、そろそろ出ようかなと思ったところで、またスマホが震える。ホーム画面に「写真を送信しました」とあった。

開いた瞬間

「ゴホっ!ゴホっ!!」

「お客様、大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうぶです、ちょっと変なところに入っちゃって」

突然むせた俺を心配するマスターに対し、手を上げて答えた。

スマホ画面には、制服のシャツのボタンをいくつか外し、がっつりと深い谷間を露出させた杏子が写っている。

斜め上からの写角から撮られたその画像は、あからさまに胸元にフォーカスされ、白いブラのフリルがチラリと覗き、顔はべろっと舌を出した口元のみで鼻から上は見えず、でもかえってそれが卑猥な印象だ。撮影場所はたぶん駅かどこかの公衆トイレだろう。

まったくあの子は…おじさんをからかいやがって…さすがにここはビシッと注意してやろう。

おれは憤りを露にしながらーそして画像をフォルダに保存してからー返事を打った。

岩城「なんてもの送ってんの!?」

あんず「元気でるかなと思って」

あんず「撮れたてホヤホヤだよ」

あんず「嬉しい?」

岩城「俺が SNSとかに上げたらどうすんのさ?」

あんず「SNSなんて触ったことないくせに」

岩城「そういう問題じゃないだろ」

あんず「ちなみにだけどさ」

あんず「画像保存したらこっちにもわかるようになってんだよね」

あんず「知ってた?」

そ、そうなのか?このアプリはそんな仕様だったのか?だとしたら秒で保存したことはもう杏子に知られて…

あんず「嘘にきまってんじゃーん」

あんず「あれー?返事がこないなー?」

あんず「なんかドーヨーしてますー?」

なんていうか、自分がヤルことヤッたあとに風俗嬢に説教するオッサンみたいに思えてきた。やめよう、どうせ敵いやしないんだから。

岩城「とても元気が出ました」

岩城「ありがとうございます」

あんず「最初から素直にそう言えってーの」

彼女の勝ち誇った笑みが目に浮かんだ。憎たらしい、でも可愛い。そろそろ休憩も終わりなので、アプリをとじようとしたところで、今度は杏子からスタンプが押された。

ボールのような体型の猫が、両手を広げてほんわかした笑みを浮かべているイラストの横に、花丸と共に「がんばったね」という文字が可愛らしいフォントで書かれている。

わだかまっていたモヤモヤは気がつけば完全に消え去っていた。
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