黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

文字の大きさ
26 / 51

24

しおりを挟む
「もう私ショックでショックで眩暈がしたくらいよ!」

「はい」

「こんなの詐欺じゃないの!信じられない!」

「申し訳ございません…」

狭い店内に、五十過ぎのマダムの、甲高い怒声が響く。彼女の着ている肩パッドいりのジャケットも、手に持っているモノグラムのハンドバッグも、紛れもなくハイブランドだが、どれも数十年前の流行品だ。

並木さんは、買取カウンターにて、そんなマダムの正面に座り、ひたすら彼女の怒声を浴びていた。

俺はバックヤードから、間に入るタイミングを窺っているのだが、矢継ぎ早に喋り散らかしているので、なかなか隙がなかった。

「ほらコレ!この財布!私が売ったものよね!?」

マダムは自分のスマホの画面を突きつけるように、並木さんに見せた。

おそらく、うち店舗のECサイトを開いているんだろう。

「はい、間違いなくお客様がお売りいただいたものです」

「値段を読み上げてごらんなさい!ほら早く!」

「税抜きで2万9800円とあります」

「それで?あなたは先週、この財布をいくらで買い取ったのかしら?」

「1万5000円…です」

「ああ…もう、また眩暈がしてきたわ」

どこにでもこういう客はいるんだなあ。

妙に感心してしまった。ようやく話が途切れたので、助け舟を出しにカウンターに向かった。

彼女のクレームの内容は、こちらが安く買い叩いたというものだ。

だがもちろん暴論である。むしろ売値の半額での買取額は、良心的な部類だ。

俺は並木さんの後ろから、めくじらを立てるマダムに声をかけた。

「お客様、おそれいります」

「あなたは?」

「店長の岩城と申します」

「ああ、そうなら話が早いわ」

彼女は再び、スマホの画面を見せた。

「この財布!返品して頂戴!」

「大変恐縮ですが、そのご要望にはお応えしかねます」

「はあああ!?」

「こちらは正規の手続きに則っておりますし、買取のさいに返品は原則承っていないことは、彼女から説明があったかと存じます」

俺は言いながら、プリントアウトしておいた書類をマダムに見せた。

買取に関するいくつかの条項が書き連ねてあり、下段に目の前のマダムのサインもきっちりある。

「ほら、こちらにも記載がありますし、お客様のサインもこちらに」

「そんなの関係ないわ!こんなのぼったくりなんだから!」

お金を出したのはこっちなんだから、ぼったくりにはなりようがないのだが、言いたいことはわかる。

だがこちらも商売なのだ。買値より高い値段で売るのは当然で、ましてや量販店のように、薄利多売で勝負できるような商材ではない。

それでも100万で売れるものなら、10万の利益のために90万で買うことはあるが、3万で売るものを3000の利益のために2万7000円で買ってたら、店が成り立たないのである。

そんなこと、多くの人は言われるまでなく理解している。

しかし、驚くべきことに、3万で売れるものは3万で買い取れと、大真面目に主張する人間も少なからずいる。

往々にしてその手のタイプは、理屈は通じず、増長こそすれ、自ら矛を収めることはない。

つまり、相手にすればするほど損なのだ。

「大変恐れ入りますが、お引き取りください」

俺は手ではっきりと出入り口を指し示しながら、目の前のマダムに告げた。

「て、店長…」

並木さんが小声で嗜めた。

マダムは一瞬絶句したのち、こめかみをヒクつかせ、俺を指差しながらヒステリックに喚いた。

「な、なんなの!?その態度!?」

「お引き取り願います」

「私は客なのよ!?」

「お引き取り願います」

俺は姿勢を変えず、出入り口を示したまま、同じセリフを同じトーンで、何度も繰り返した。

「もういいわ!警察呼ぶから!いいのね!?」

「それはあなた様の自由です」

俺が一切たじろがないのを見て、彼女の方が怯んだ。

少し逡巡する素振りを見せるも、もう後に引けなくなったのか、スマホを操作しながらいったん店を出た。

「もしもし?事件というか…まあ、えっと…」

どうやら本当にかけているらしい。無知とは恐ろしいものだ。

「店長、大丈夫なんですか?」

「問題ないよ、こっちは何一つ法律違反なんかしてないんだから」

「でも、こんな騒ぎにしたら…」

「確かに、良くないかもね。でもあの手合いに下手に出ると、粘着されてるんだよ」

これは俺の経験則だ。ああいうのに粘着されると、軽微な害が積もりに積もり、やがてバカにならない損失になる。

だから多少は大ごとにしてでも、二度と来させない方が、長い目で見ると得なのだ。

「それに、せっかく警察が来てくれるなら、営業妨害を主張すれば引き取っていってくれるかもでしょ?」

「…」

「並木さん?」

「す、すいません、ちょっと意外だったもので」

「意外?」

「ほら、岩城店長はもっと穏便に済ませるタイプかと…って失礼ですよね!すいません!」

なぜかあたふたする彼女の言に、俺は苦笑を漏らした。

たしかに少し前、それこそ前の職場にいたときなら、もっと穏便に済ませただろう。改めて考えてみれば、自分でも意外かもしれない。

パワハラ上司がいないからとか、今の方が裁量が大きいからとかもあるんだろうが、やっぱり…

ーーは?上司だからって家の前で騒いでいいわけなくない?

脳裏にあの時の杏子の凶暴な笑みが浮かぶ。

結局のところ、ヒーローの真似事をしてみたくなっただけなのかもな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...